カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

人間マイケルもエンタティメント   This is it.

2014-10-10 | 映画

This is it./ケニー・オルテガ監督

 あんがい感動するという噂を聞いて観た。なるほど。映画として作りこんでいるというより、リハーサル風景をありのままに映していることが貴重なようだ。飾らないマイケルが、それでも真摯にかっこいいということか。
 僕はマイケル・ジャクソンの奇行にはそんなに興味はない。むしろ何か精神的に病気なのではないかという疑いの方が強い。このようなドキュメンタリー映画を見ても、やはりちょっと病的なものがあるような気がする。リハーサルに真剣なのはいいのだが、まるでマイケル信者を従える教祖様のようだ。それくらいのカリスマだったということを語りたいのは分かるが、自然体ですでに無理をしているような感じがあるのだ。それは必ずしも病的な表出ではないのかもしれないが、裏の社会でも気の抜けない、またはそういうすべを知らないマイケルという人間を見て、結果を知っている者としては、多少痛ましい気分になるのかもしれない。
 さらに、環境破壊を嘆き、人間としての生き方を説くような、なんとなく陳腐な思想めいたものを抱いていたことも見て取れる。ショービジネスの世界だから、そういうイメージを伝播させることは普通なのかもしれないが、マイケル自身はそのことに酔っているというか、実にまじめに信じているような様子だった。近代的な舞台で電気処理を用いた楽器を使い、映像に資金を投じて環境破壊を語ることの矛盾に、まったく無頓着だということだ。普通の大人ならその自分の行為に気づき、多少の後ろめたさもありながら、矛盾と葛藤しながら戦うものだ。それが現実と向き合う人間的な闘争というものだと思うが、そういうものが無垢にも抜け落ちた人間が、マイケルという人なのかもしれない。だから素晴らしいのだという人もいるかもしれないが、その深みの無さが、自らを苦しめている元凶であるかもしれないではないか。
 まあ、そういうことはいいと言えばお気楽でいいのかもしれない。そういう彼が作り出す音楽は素晴らしいものだし、さらに多くの共感を呼び、そうして感動すら呼ぶことになる。マイケルを支えるスタッフや裏方の人間も、本当に素直にマイケルの姿に酔いしれている。エンタティメントの一流の人間が集まる吸引力を持ち、そうして集まった人間を、さらに打ちのめすくらいのパフォーマンスの力を持っている。リハーサル風景が淡々と映し出されているだけの映像でありながら、そのような空気がビシビシ伝わってくるのは圧巻といっていい。だからこそマイケルはこの世界に君臨できたし、そうしてその圧力に耐える一生だったということも言えるのだろう。ある意味では人間にはつらい世界。それを成し遂げられる人間の姿というのが、この映像のドキュメンタリー性の価値だろう。
コメント
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