十角館の殺人/綾辻行人著(講談社文庫)
名作と名高いミステリ。少し古くはなっているが、そういう時代だからこそ成り立つトリックもあって、確かに充実感を味わえる作品になっている。最初は妙なニックネームのやり取りについていくのが何となく億劫だったが(本名といちいち確認しながら読んでいた。もちろん僕なりに犯人を突き止めようと思って)、それもまあ、慣れていく。だいたい登場人物の名前には妙なものもあって引っかかっていて、しかしそれが見事な伏線になっているということが最後に分かるので、そういう作業は感動を増幅させたかもしれない。良く考えてパズルを組み立てられており、まさにこれは残る作品だろう。倫理的な問題は残るけれど(まあ殺人事件だし。ただ、殺された人にも身内は居るだろうからなあ、という余分な意見である)、見事なトリックにしてやったりといったところだろう。
本当はトリックを見破れなかったのだけど、後半になって目星をつけていた人が犯人だったことは、個人的には少し当たりということではあった。それと少しだけケチをつけると、多くの人が殺されて人数が減っていくと、犯人とそうでない人と、そうして外部の人間説との葛藤がもう少し複雑化しそうな気もした。普通なら犯人でない人は、やはり誰も信用したりしないだろう。そういう描写はあるにせよ、孤島とはいえ、連絡手段にもっとジタバタするということは考えられるだろう。もちろんそうなってはお話は面白くなくなってしまう訳だが…。
これはもう読んでもらうより無い。ミステリ好きなら既に読んだ人も多いことだろうが、そうでないなら騙されても、という類だろう。本当に後半に謎が解けるカタルシスは感動的でさえある。ミステリファンというのは騙されて喜ぶマゾ的な側面があるらしいですね。