散歩中あるお宅の前を通る時、決まって杏月ちゃんがキューキュー悲しげに啼く。柵から少し先に犬小屋が見えるのだが、その中からサッと白い犬が姿を表す訳だ。鎖でつながれてはおらず、庭では離し飼いの様子である。そして、もちろん雄である。
そこのお宅の飼い主の方もこの様子はよくご存じで(いつも庭の手入れなどをされていることが多い)、杏月ちゃんのキューキュー啼きを聞くと、挨拶をしてお互いの犬の様子を眩しそうに眺めておられる。柵越しの恋のような図式である。
柵の手前は花壇になっているから、あまり犬が近づくのもよろしくなかろうと思って、僕自身は短時間で退散することにしている。別に恋の邪魔をしているつもりは無くて、近づけないのなら仕方がない。
そうしてしばらくそんなことが続いたある日。自宅へ帰る坂道を登りながら前方を見てみると、珍しくその白い犬がやはり散歩をしているのが目にとまった。さっそく杏月ちゃんはキューキュー啼きだした。白犬くんも少しばかり興奮気味なのが見て取れる。生の対面は初めてのことだ。
しかし、やっと近づいて杏月ちゃんが勢いよく飛びついた相手は、他ならぬ飼い主の女性の方だった。
杏月ちゃんは撫でてくれる女の人が好きなのは分かっていた。特に若くは無く、いわゆるおばちゃんの方が好きなようだ。子供は動きが予測できないのでかえって好きではない。「あらー」とか「まあ」とか言うような声を聞くと、狂わんばかりに尻尾を振って愛想を振りまく。柵の中の恋する相手とは、ほかならぬ人間の女性の方だったようだ。
そこのお宅の飼い主の方もこの様子はよくご存じで(いつも庭の手入れなどをされていることが多い)、杏月ちゃんのキューキュー啼きを聞くと、挨拶をしてお互いの犬の様子を眩しそうに眺めておられる。柵越しの恋のような図式である。
柵の手前は花壇になっているから、あまり犬が近づくのもよろしくなかろうと思って、僕自身は短時間で退散することにしている。別に恋の邪魔をしているつもりは無くて、近づけないのなら仕方がない。
そうしてしばらくそんなことが続いたある日。自宅へ帰る坂道を登りながら前方を見てみると、珍しくその白い犬がやはり散歩をしているのが目にとまった。さっそく杏月ちゃんはキューキュー啼きだした。白犬くんも少しばかり興奮気味なのが見て取れる。生の対面は初めてのことだ。
しかし、やっと近づいて杏月ちゃんが勢いよく飛びついた相手は、他ならぬ飼い主の女性の方だった。
杏月ちゃんは撫でてくれる女の人が好きなのは分かっていた。特に若くは無く、いわゆるおばちゃんの方が好きなようだ。子供は動きが予測できないのでかえって好きではない。「あらー」とか「まあ」とか言うような声を聞くと、狂わんばかりに尻尾を振って愛想を振りまく。柵の中の恋する相手とは、ほかならぬ人間の女性の方だったようだ。