風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

ウィキッド

2009-02-23 | 風屋日記
人と違う肌の色で生まれたエルファバが受けた差別。
善人である自分を演出するために
彼女と仲良くしようとする最初の頃のグリンダの姿。
まるで人種差別の国アメリカの縮図だ。
差別されても、笑われても、
健気に自分の考えを通そうとするエルファバには
さすがにファンタジーの香りを残すが、
それでもこのモチーフをミュージカルにできる
アメリカという国はやはり自由の国だ。

ところで、
自分の正しいと信ずる道を歩もうとしたために
オズの国の魔法使いに悪魔女ウィキッドと名付けられ、
人々から嫌われ、恐れられたエルファバだが、
本当のウィキッド(悪い奴)は誰なのか。
この物語には真の悪人は出てこない。
オズの魔法使いは姑息で臆病ってだけだし、
オズの国の広報官であるエルファバ、グリンダの元恩師は
単に思慮が足りない魔法使いの盲信者だ。
本当の意味でのウィキッド、
本当に怖いのは・・・

自分で考えることをせず、
ただ周囲の言葉に振り回され、流されながら
だんだん語気を強めていく名もない民衆達が怖い。
「自民党をぶっ壊す」という威勢のいい言葉に騙され
郵政民営化をはじめとする規制緩和の功罪を考えることなく
一斉に自民党を押し上げるマジョリティ。
軍縮会議で日本が不利な条件を飲まされたと思い込み、
国際連盟脱退を喝采をもって支持した当時の日本国民。
ゲルマン民族の優秀性を持ち上げられ純血主義に酔わされて
何の疑いもなくユダヤ人達を殺戮したかつてのドイツ人達。
妄信的なタリバン戦士達、カルト信者達etc・・・

自分たちの都合でネイティブアメリカンを駆逐するため
暴力を振るった西武の男達よろしく
「テロとの戦い」を声高に叫んだ人間を大統領に選んだ
アメリカ国民達はこのミュージカルをどう見たのだろう。
そう思いながら見れば
「ウィキッド」はアメリカの歴史・・・
いや、人間の歴史そのものではないか。
コメント (2)
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