風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「もう一つの『幕末史』」

2024-10-01 | 読書

流石の半藤一利さん。
以前から漠然とイメージしていたことが明確に書いてある。
尊王攘夷を唱えて行ったはずの明治維新後、
明治新政府はなぜそれまでの真逆である西洋化を図ったのか。
大政奉還と江戸城無血開城だけで革命成就のはずなのに
なぜ東北列藩同盟に対して非道な戦いを挑んだのか。
戊辰戦争とは単なる私怨を晴らすものいだったのではないか。
その答えがここにある。

「明治維新は関ヶ原の恩讐を果たした薩長による謀略」
大政奉還だけでも日本社会は変わるはずだった。
にも関わらず、関ヶ原、蛤御門の変、長州征伐の恨みを
無抵抗を掲げていた徳川幕府や佐幕藩に晴らしに行った新政府軍。
(半藤氏は「新政府軍」や「官軍」と言わず「西軍」と書く)
しかも掲げた錦の御旗は偽物だったというオチ付き。
いろいろ考えると、元々は岩倉具視のコンプレックスが
これらの悲劇を産んだ気がしてならない。
そこに西郷や大久保の血気がミックスされての戊辰の惨劇だった。
目には目を、歯には歯を、やられたらやり返す。
安政の大獄のような暴力は暴力しか生まない。
そういう歴史を現代に生きる我々は学ばなくてはならない。

背筋が凍るような内容もあった。
「私見では、これまでに日本が
 国際社会からの強い外圧に直面したことが二度ありました。
 一度は幕末で、二度目は昭和の10年代。
 すなわち先の戦争に向かう時期です。
 この昭和の時も『米英討つべし』『大東亜新秩序』
 という空気が国中に生まれました。
 つまり『攘夷』そして『御一新』です。
 強い外圧にさらされたとき、国民の間には
 熱狂的なナショナリズムが生じやすくなるのです」
これは過去の話だろうか。
北朝鮮からのミサイル、中国の軍備増強と台湾問題。
ロシアからの領空侵犯もあった。
こういう時こそ歴史を省みる必要があるのではなかろうか。

徹底して戦さを否定してきた坂本龍馬の考え方が今また生きる。
義理や恥、礼儀は二の次と考え、なるだけ命は惜しむべし。
坂本龍馬が暗殺されずにその後も生き続け
彼の考えが国中に浸透していたら
昭和の帝国陸軍の暴走や無駄な戦争、もちろん特攻なども
起きなかったのではなかろうか。
それらを礼賛する現代の風潮を私は危惧する。

歴史は繰り返す。
それを止めるのは我々だ。

「もう一つの『幕末史』」半藤一利:著 PHP文庫

 
コメント
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