因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

演劇ユニット鵺的第十七回公演『天使の群像』

2023-12-21 | 舞台
*高木登作 小崎愛美理(フロアトポロジー/演劇ユニット鵺的)演出 公式サイトはこちら 下北沢/ザ・スズナリ 29日まで(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21α,22,23,24,25
 学校というコミュニティー、そして教師という職業は、どんどんますます難しく厄介なものになっていると思う。鵺的がそれをどう描くのか。上演時間は休憩無しの150分という長尺との情報に慄きつつも楽しみに。

 ずっと学校嫌いだった道原(堤千穂)は、働いていた小さな商社が倒産し、仕方なく都立高校の「臨時的代用教員」に。生徒同士の恋のトラブルから、告白した男子生徒の村田が不登校になり、問題を解決できなかった担任教師が休職中というクラスを受け持つことになった道原は、周囲の教師たち、生徒たちのあいだを右往左往しながら、不器用極まりない歩みを始める。

 生徒も教師もさぞや曲者ぞろいかと身構えたが、村田の父親を除いて、それほど強烈な人物は登場しない。これは、現実に見聞きする学校現場や事件の様相があまりにひどいために、いつの間にかこちらに耐性ができているからでもあるだろう。スクールカウンセラーの高梨(とみやまあゆみ)、養護教諭の星野(井神沙恵)ともに現場で大変な苦労をしているはずだが、バランスの取れた頼もしいプロである。スクールロイヤーの松川(渡辺詩子)も同様だ。ハラスメント対策としてカントリーマアムを持ち出したり、生徒からあだ名で呼ばれたいと切望する中年男性教師たち(森田ガンツ、本井博之)の小物感など可愛いものであるし、ときに旧弊な主張をする教頭(佐瀬弘幸)も、常に最善の方策を探る賢明な校長(山像かおり)と良きコンビであり、いずれも信頼できる人物だ。

 自分の学生時代の傷を引きずって闇から這い出せず、プロの教師になりきれない道原は、ある意味で生徒たちにもっとも近い感覚を持つ。道原の心の中に登場するかつての教師霜澤(ハマカワフミエ)の存在が道原の支えであり、同時に枷にもなっている。しかし「学校嫌い」は、もしかすると教師には大切な資質であり、そういう人物に救われる生徒もいるのではないか?道原は生徒とともに教師として、人間として変化し、成長していく・・・という予想もしたが、やはり鵺的は甘くなかった。

 発端は村田が真鍋(小町実乃梨)に交際を断られたが諦めずに食い下がり、それを見かねた同級生(おそらく今野だろう)が当時の担任教師戸部(小西耕一)に報告、戸部の指導に傷ついて不登校になったという。村田の父親が学校に抗議し、戸部は責任を感じて休職、「いじめ防止対策推進法」により、真鍋が村田をいじめたということになってしまった。やがて村田の行方がわからなくなり、警察が動き出したことで問題がさらにこじれ、混乱の極みにおいてモンスターペアレントの権化のごとく、村田の父親(寺十吾)が登場する。

 観劇前の不安や懸念は結果的に全て杞憂であり、集中が途切れることなく、無事に150分を完走できた。すでに全日程のチケットは完売しているとのことだが、当日券もある由。長尺に躊躇う方も良かったら是非に。教師、生徒、親ともに絶妙の配役であり、鵺的の常連、初顔いずれも自分の持ち場を的確に捉えた演技で客席をぐいぐいと惹きつける。特に小西が演じた戸部は生徒たちに好かれ、良識があるゆえに苦悩しているという役どころを凡庸でなく演じて、地味ながら新境地を感じさせた。小西にはいつの日か、村田の父親を演じてほしい。舞台壁に置かれた大きな鏡や、客席前方に俳優の待機場所的なスペースが設置され、出番のない俳優がある場面では生徒として声を発するなど、役にどっぷりなり切るのではなく、距離感を持たせた作りが効果を挙げている。

 150分の長尺ながら、本音を言えばもう一幕見たい。事件の解決や主人公の確実な変容を見たい、つまり結論を提示してほしいというより、前のめりの姿勢のまま村田父に去られてしまったことが、何とも歯がゆいのである。

 生徒役は前述の真鍋と相月(函波窓)、中島(野花紅葉)、今野(吉水雪乃)4名である。村田は登場しない。中島は大人に対して皮肉な振舞いが多いが聡明であり、村田に心を寄せている。相月は生徒の中ではもっとも大人びて安定感があるだけに勿体ない印象がある。真鍋は可愛らしく優等生の委員長だが、いじめ加害者にされてしまった真鍋に甚く同情し、過度なまでに庇い、村田を憎む今野の心情が気になるのである。さらに後半で真鍋が取ったある行動(確実かどうかはわからない)はいささか想定外であり、村田の失踪に真鍋が、もしかすると今野まで巻き込んで「一枚噛んでいる」ような妄想さえ沸くのである。

 村田のほんとうの気持ちを知りたい。あの父親をどう思っているのか、真鍋をまだ好きなのか、中島の気持ちを察しているのか。文芸部に自分の日記を書いてくるという村田のことをもっと知りたいのだ。
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