因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団唐ゼミ☆第32回公演『少女仮面』

2024-07-27 | 舞台
*唐十郎作 中野敦之演出 公式サイトはこちら 恵比寿・エコー劇場 7月28日終了 (1,2,3,4
 これまでの本作観劇の記録→文学座附属研究所(2019年10月)、トライストーン・エンタテイメント(2020年1月 若村麻由美主演)、metro(2020年2月 月船さらら主演)、新宿梁山泊(2021年12月 李麗仙追悼公演)、ゲッコーパレード(2023年3月 出張公演 劇場Ⅱ)、一糸座(2023年3月)

 唐十郎の初期の代表作であり、1969年の初演から現在に至るまで、アングラ、新劇、プロ、アマチュア問わず、さまざまな座組で上演されてきた『少女仮面』。劇団唐ゼミ☆の看板女優の椎野裕美子が主役の春日野八千代で堂々の復帰を果たし、新たな1ページが加わった。いつもの青テントではなく、恵比寿のエコー劇場での公演であり、考えてみると、昼日中に唐十郎作品を観劇するのも珍しい体験だ。観劇当日、劇団からメールがあり、猛烈な暑さの屋外で開場を待つ観客の健康を配慮して、会場時間を10分早めるとのこと。これはありがたかった。

 遅ればせながら、今回が女優・椎野裕美子の初観劇となったのだが、すらりとした長身、宝塚歌劇団の濃いメイクが良く似合う美しい顔立ち、豊かな声量で喫茶「肉体」に君臨する迫力に圧倒された。後半、シャツを破かれて女であると知られてしまった瞬間の弱々しさ。そこから春日野は暴かれ、壊され、晒されていくのだが、最後の「あたしは、もう自分の貌なんか欲しくない。あたしは、何でもないんだ!」の台詞をどんな表情で、どのように言うかは大変難しいところだと思う。

 この度の舞台では、最後の台詞のあと、春日野は「時はゆくゆく」の「老婆の歌」を歌いながら伸びやかに踊る。そして風呂桶の上にすっくと立ち、晴れやかな笑顔で「何よりも肉体を!」と発して幕を閉じる。破滅したかと思われた春日野が不死鳥のごとく蘇り、新たに歩き始めたようであり、自分は原作戯曲に手を加えることはあまり好まないのだが、こういうやり方もあるのかと晴ればれとした心持になれた。

 中野は当日リーフレットにおいて、『少女仮面』に対する意欲を熱く記しており(カーテンコールでも同じく)、劇団という枠に留まらず、共に作品を創りたいとのこと。原作通りの上演もぜひ観てみたい。

 春日野だけでなく、どの役柄も骨格をきちんと捉えた造形で、戯曲が俳優の肉体と肉声によって立体化する様相が生き生きと伝わり、手応えたっぷりの観劇となった。真夏の昼日中の唐十郎。これも十分にアリなのだ。唐十郎の劇世界の頂上は高く、裾野は広く、底も深い。どこまでやっても絶対にこれだ!という正解はないが、それは同時に作り手にとっても、観客にとっても夢があり、希望があるということだろう。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 文学座公演『オセロー』 | トップ | 2024年8月の観劇と俳句の予定 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

舞台」カテゴリの最新記事