秋冷という言葉がぴたりと似合うような、
肌寒い午前零時過ぎのホーム。
終電を待つ人影もまばら。
味気のない機械音を立てて開く自動ドア。
腰を下ろす待合室のベンチ。
くたびれたOL。
小刻みに頭を振るドレッドの男。
俺。
紫メインのおばちゃん。
お互いにお互いを全く知らない。
同じ時間、同じ空間に、
この4人がまた偶然揃うことは、決してないだろう。
そう考えると平凡な日常の一部もまた、
天文学的確率の織りなすドラマなのだ。
ドラマの脚本の善し悪しは、おいといても。
人間にとっては、毎年同じく巡る季節のうつろい。
生き物によっては、残り少ないこの世の景色。
通り過ぎていく多くの「普通の日」うちのひとつ。
その中でよろよろと、とぼとぼと、
最後の生の残り火にまどろみながら、
歩む小さな命。
普段お目にかかる機会にあっては、
こんなに落ち着いた気分で、じっくりと見ることはない。
ただただ嫌悪と畏怖とか胸を満たし、
一刻も早く視界から消えてくれることを願う存在。
それが、今、弱々しい姿をさらし、目の前にいる。
どうしたことだ、この穏やかな気持ちは。
見えないものを見ることも出来るように、
見えるものを見ないでいることもまた、可能だ。
俺はそっと目を伏せる。
しばらくしてふと目をやると。
俺以外の3人。
じっと見る。
じっと見る。
ほんとにじっと見ている。
ただただ、見ている。
わずかな動きも、逃さず追っている。
眼球が同じ運動だ。
OL、じっと見る。
ドレッド、じっと見る。
おばちゃん、じっと見る。
じっと見る。
やがて電車がやってきて、
4人はバラバラに、そして足早に電車に乗った。
お互いに降りる駅もわからない。
ゴキブリよ。
おまえはもう二度と会うことのない4人の、
静かな、しかし熱い熱い視線を浴びて、
もう二度と会うことのない世界へ旅立つのだな。
今度は人間に生まれ変わってこいよ。
どんな人間でも、ゴキブリよりは愛されているだろうから。
でも、それがいいかどうかは、わからないぜ?
肌寒い午前零時過ぎのホーム。
終電を待つ人影もまばら。
味気のない機械音を立てて開く自動ドア。
腰を下ろす待合室のベンチ。
くたびれたOL。
小刻みに頭を振るドレッドの男。
俺。
紫メインのおばちゃん。
お互いにお互いを全く知らない。
同じ時間、同じ空間に、
この4人がまた偶然揃うことは、決してないだろう。
そう考えると平凡な日常の一部もまた、
天文学的確率の織りなすドラマなのだ。
ドラマの脚本の善し悪しは、おいといても。
人間にとっては、毎年同じく巡る季節のうつろい。
生き物によっては、残り少ないこの世の景色。
通り過ぎていく多くの「普通の日」うちのひとつ。
その中でよろよろと、とぼとぼと、
最後の生の残り火にまどろみながら、
歩む小さな命。
普段お目にかかる機会にあっては、
こんなに落ち着いた気分で、じっくりと見ることはない。
ただただ嫌悪と畏怖とか胸を満たし、
一刻も早く視界から消えてくれることを願う存在。
それが、今、弱々しい姿をさらし、目の前にいる。
どうしたことだ、この穏やかな気持ちは。
見えないものを見ることも出来るように、
見えるものを見ないでいることもまた、可能だ。
俺はそっと目を伏せる。
しばらくしてふと目をやると。
俺以外の3人。
じっと見る。
じっと見る。
ほんとにじっと見ている。
ただただ、見ている。
わずかな動きも、逃さず追っている。
眼球が同じ運動だ。
OL、じっと見る。
ドレッド、じっと見る。
おばちゃん、じっと見る。
じっと見る。
やがて電車がやってきて、
4人はバラバラに、そして足早に電車に乗った。
お互いに降りる駅もわからない。
ゴキブリよ。
おまえはもう二度と会うことのない4人の、
静かな、しかし熱い熱い視線を浴びて、
もう二度と会うことのない世界へ旅立つのだな。
今度は人間に生まれ変わってこいよ。
どんな人間でも、ゴキブリよりは愛されているだろうから。
でも、それがいいかどうかは、わからないぜ?