馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

御崎馬の中足骨骨折のその後

2023-08-17 | 整形外科

4/30に交通事故で、左中足骨を骨折した御崎馬

なんとも可哀想だと思っていたが・・・・

5/5にキャスト固定による治療が行われ、

6/13にはキャストの巻き直しとキャスト擦れの治療がされ、

7/6にはキャストが外されたそうだ。

治療に当たったのはNOSAI宮崎高度獣医療チーム。

治療は成功したようで良かった。素晴らしい。

           ー

このブログの読者の皆さんは、成馬の中足骨完全骨折がキャストで治るのか?!と思われるかもしれない。

私もサラブレッドの獣医師として、完全骨折の治療の難しさを何度も書いてきている。

ひとつには品種のちがいがある。

サラブレッドは大型で、気性が激しく、皮膚が薄い。

そのため、開放骨折(複雑骨折)になりやすく、蹄葉炎にもなりやすい。

御崎馬はサラブレッドに比べると小さく、痩せていて、体重が軽く、皮膚は厚い。

そのことで、蹄葉炎にもならず、キャスト擦れにも耐えられたのだろう。

私も、サラブレッド以外の馬の骨折が、キャストで治って驚いたことがある。

しかし、野生(野良?)馬だ。

ハンドリングされておらず、患者自身が治療に協力的でないだろう。

治療に当たられた獣医さんたちに敬意を表したい。

            ー

私はサラブレッドの長骨完全骨折をキャストで治そうとは思わないし、推奨しないが、

若い獣医さんや、馬関係者には、それはサラブレッドについてであって、

他の品種なら治癒の可能性はサラブレッドより高いことは知っておいてもらいたい。

そして、サラブレッドではやはりダメだろう。

2ヶ月キャスト固定していたら、

対側肢が蹄葉炎になる可能性が高いし、

患肢は屈腱と支持靱帯が弛緩してそれが致命的になるし、

キャスト擦れも重篤化する可能性がある。

そして、サラブレッド成馬では2ヶ月では完全な骨癒合は期待できない。

日本に7万数千頭いる馬のほとんどはサラブレッドだが、馬全体から見ればサラブレッドは特殊な品種なのだ。

            ー

ちなみに馬に車をぶつけた運転手も特定され書類送検された、とのこと。

ひき逃げ、と思いがちだが、事故の状況もわからないし、責めても仕方ないとも思う。

私も北海道でエゾシカをはねたこともあるが、申告なんてしないもの。

 

 

 



17 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (はとぽっけ)
2023-08-17 20:17:08
 詳細に触れた記事が見つからなかったのでうれしいです。
 NOSAIさんだったのですね。
 治療の結果もよかったとのことで、さすがです。
 サラブレッドは確かに速く走ることに特化した特異な馬なのでしょう。すばらしい生き物だと思います。

 エゾシカと違って御崎馬は天然記念物ですから、もし死んじゃったら文化財保護法違反にもなっちゃうようですよ。
 尻屋崎では傍からみたら可笑しいほど慎重に運転しました。
 エゾシカの死体はちゃんと片づけないと猛禽類医学研究所の齊藤先生にめっ!されそうで怖
 先生にお怪我がなくて何よりでしたね。
返信する
ホッとしました。 (れい)
2023-08-17 20:43:18
こちら何時も拝見しています馬好きです。
専門的な事は分かりません。
御崎馬さんが きちんと手当されて治療は成功したとの事 本当に良かったです。
天然記念物で保護されているとは言っても
何かが起きても見て見ぬふりに近い扱いのように普段から感じていました。
馬に車をぶつけた運転手も故意では無かったとしても それなりに責任がある筈
馬たちの今後の為にきちんとされて当然かと感じています。

サラブレッド 命がけで走ってる馬たちです。
先生 今後とも宜しくお願いします。
返信する
>はとぽっけさん (hig)
2023-08-18 05:14:10
牛の骨折治療でがんばっているのは知っていましたが、御崎馬の骨折に対応してくれるとは思いませんでした。good job !!

日本で馬と言うとサラブレッドのことになってしまうのですが、サラブレッドって特殊な馬なんですよね。

保護していないこと、野生と名乗って天然記念物になっているので、管理も治療も難しいですね。管理しているというなら柵なしで道路に居るのもどうなの?となるでしょうし。

今の車って凹みやすく、壊れやすくできてますよ。衝撃を吸収し、人の損傷を少なくするためなんでしょう。バンパーなんてプラスチックだったりゴムだったりですから。そして壊れたら丸ごと交換です。
返信する
>れいさん (hig)
2023-08-18 05:16:15
治ったようで良かったですね。

くれぐれも安全運転、よそ見をしないようにしてもらいたいものです。
返信する
Unknown (zebra)
2023-08-18 07:06:18
解放してなかったんですかね。
それだけでも奇跡的かも知れません。
あっちもこっちも持っているもんがあって、そこを巡り合わせたのはチャレンジしたからでしょうね。
お疲れ様でした。

しかしこの症例もともと助けてはいけないものではないのかという視点もあった中で、一番助けではいけない所が手を出してしまったのではないか、とも思います。
NOSAIの診療所って農業共済加入畜のために組合が設置しているというのが大前提ですからね。
農林水産省視点からすれば、こういうものを助けるために農業が存在しているわけではないという事になるでしょう。
その視点はあらゆるレベルで存在していると思います。

こういうことが起きたらどうするかという事を論じて飯を食ってきた立場の方も居られるわけで、共済視点からすればその人達に治療費を請求する事になる訳ですが、ここに至る積み上げの全てがその治療費に相当しますから、相当な金額になるでしょうね。
語ってきた人は飲んで紙切れ一枚にしてしまっているだけでしょうから、クラウドファンディングで投げ銭を乞うのが良いのではないかと思います。
これからの体制も視点に入れて、とりあえず2000万という所ですかね。
問題が起きるたびに募ってもこの金額ですけれど、とりあえず組合が納得するくらいの金額は集まると思いますよ。

前方不注意言われても困るくらいの挙動してくるでしょうから、そもそも車通すのやめた方が良いでしょうね。
今回の事故は見世物にして来た立場の責任が一番大きいでしょう。
当然メディアも、となります。
返信する
>zebraさん (hig)
2023-08-18 11:40:47
「開放」してなかったようですね。それもサラブレッドの気性と皮膚の厚さではありえないです。

NOSAIも非加入診療しても構いません。

「野生馬」が「管理」されてたのか、文化財が公道に居たのか飛び出したのか、そこは公園なのか、ややこしいですが、事故無く運営してもらいたいし、今回はうまく治ったようで良かったです。
返信する
Unknown (風来坊)
2023-08-18 14:33:00
hig先生

NOSAIは非加入診療して良い
と、書いておられましたが、これは逆にどこまで診療をNOSAIに頼んで良いのでしょうか???
北海道ではありませんが
自分のエリアで個人宅で馬を飼っている方が何人かおられます
一度、深夜に往診で呼ばれてみたら、横にNOSAI診療所があったのですが、診療依頼したら断られたそうです

西日本に2週間に1度定期往診してますが、やはり20分以内のところにNOSAIの診療所があります
やはり診てくれないそうです

逆に東北のある県のNOSAIは積極的に診てくれるそうです

牧場や個人など置かれている状態は違いますが、馬の診療
NOSAIは拒否もできるんですかね???

馬の獣医て色々な意味で基本は本州におりませんので・・・
返信する
>風来坊さん (hig)
2023-08-19 04:52:47
NOSAIが診てくれるなら頼んで良いのですが、現実はほとんど診てくれないでしょうね。それは馬を診れないからで、施設も機材も知識も技術も経験もないので、無理に頼んでもしかたありません。拒否することはできます。家畜共済制度の診療所で、対象は実際には牛ですから。そこの馬を引き受けしているなら別ですが。

眼科病院が妊婦の緊急事態に往診してくれなかったと裁判に訴えて敗訴した事例があるそうです;笑
返信する
Unknown (風来坊)
2023-08-19 06:03:29
hig先生

ありがとうございます
無理矢理頼む気もないので、ルールがわかればそれで良いです

診てくれると嬉しくはありますが・・・
返信する
Unknown (zebra)
2023-08-19 06:24:53
誤字失礼しました。

どんな動物でも一週間放置してしまえば厳しいと思います。
とりあえず捕獲して治せるかどうか診てみようかの所から入っているとは思いますが、常に判断と結果がイコールであるとは限らないわけで、今回は結果が伴って本当に良かったと思います。

ただ、問題は前にも話になった通りこれって保護案件ではないですか、というところになります。
文化庁管轄の物が国交省管轄内で損害されてもそれは農林水産省管轄の責任という事になるのでしょうか。
ニホンカモシカはねられててもNOSAI頼めとなるのではないかと思います。
それを診療所設定している組合は納得しますか、となるでしょう。
世間はそんな所で馬をもみくちゃにしてしまうほど貧しくないはずなのでクラウドファンディングに諮ってみれば良いのではないかと思います。

馬専門医ラインに到達しているNOSAI獣医師は北海道でも一握りではないでしょうか。
家畜引き受けされている馬も競馬場の獣医師が診てくれると格段の環境改善になるのかも知れませんね。
普段競馬場の先生が診ている養老厩舎で死亡診断書だけNOSAI獣医頼んでくるところがあります。
世間をその書類が回るからですが、NOSAI診療所ってその程度の認識しかされていないと思います。
返信する

コメントを投稿