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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

母馬の糞便は仔馬のRhodococcus equi感染源になるか?

2024-12-03 | 学問

「毎年、この繁殖牝馬の子がロドにかかるんだよね」とか、

「あの馬が来てから、うちの牧場でロドが出るようになった」などと言われることがある。

特定の母馬が仔馬のRhodococcus equiの感染源なのではないか、と疑う人がいるのだろう。

それについて母馬の糞便中のR.equiを調べてみた、という研究。

           ー

この研究は、2006年のAAEPで口頭発表された。

Are Mares a Source of Rhodococcus equi for Their Foals ?

母馬たちは彼らの仔馬のロドコッカスエクイの感染源か?

そして、2007年のAmerican Journal of Veterinary Research の1月号に

Evaluation of fecal samples from mares as a source of Rhodococcus equi for their foals by use of quanticative bacteriologic culture and colony immunoblot analyses

仔馬のRhodococcus equi感染源としての母馬の糞便検体の、定量的細菌培養とコロニーイムノブロットによる評価

として掲載された。

これも Noah D. Cohen 先生のグループの研究。

A. J.V.R 68(1),63-71,2007

AAEPへ抄録を提出しておいて、学術論文としても投稿していたのだろう。さすが。

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目的: 牝馬が子馬にとって臨床的に重要なRhodococcus equiの供給源であるかどうかを判断すること。

サンプル集団:ケンタッキー州の1牧場の171頭の牝馬と171頭の子馬(2004年と2005年に評価)。

方法: 4つの時点(分娩前2と分娩後2)で、牝馬の糞便検体中のR equiの総濃度と病原性R equiの濃度を、それぞれ定量的細菌培養とコロニーイムノブロット法を使用して決定した。これらの濃度は、R.equi関連肺炎を発症した子馬の牝馬と、発症しなかった子馬の牝馬で比較した。各年のデータは別々に分析された。

成績: R.equi関連肺炎は、171頭中53頭(31%)の子馬で発症した。すべての牝馬において、少なくとも1時点で病原性R equiの糞便排泄が確認された。細菌培養の結果は、全時点では171頭中62頭(36%)の牝馬で陽性であった。しかし、発症しなかった子馬の母馬と比較して、R equi関連肺炎を発症した子馬の母馬における総または病原性R equiの糞便濃度には有意差はなかった。

結論と臨床的関連性: 結果は、R.equi関連肺炎の子馬の母馬は、発症しなかった子馬の母馬より糞便中へR.equiを多くは排出しなかったことが示された。したがって、子馬のR equi感染は、母馬を比較したときにより多くの糞便へ排出することとは関連していなかった。しかし、少なくとも1つの時点ですべての牝馬の糞便中に病原性R.equiが検出されたことは、牝馬が周辺環境にとって重要なR.equiの供給源になり得ることを示唆している。

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R.equi肺炎にかかる仔馬の母馬は、他の母馬(R.equi肺炎を発症しない仔馬の母馬)より多くの病原性R.equiを糞便中に排泄しているのではないか?

という仮説を検証した野外調査。

1牧場での調査だったのが残念。

大牧場だが、かなりの多発牧場だ。

発症率は31%だが、もっと多くの仔馬がR.equiに罹患していて、発症しなくても病巣を持っていたと見るべきだ。

残念ながら仮説は否定された。

R.equi肺炎を発症した仔馬と発症しなかった仔馬のそれぞれの母馬の糞便の間で、R.equi総量も病原性R.equiの量も有意差はなかった。

この研究者らは、

「仮説のような感染仔馬の母馬が病原性R.equiをより多く排泄していることは確認されなかったが、

母馬たちが病原性R.equiを排泄していることは確認できたので、牧場環境の汚染源であり、感染源であるかもしれない」

と述べている。

これは、本当は研究としてはしてはいけないことだ。

仮説が否定されたら、そのとおり証明できなかった、とするのが正しい態度。

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私は母馬の生の糞便が、仔馬のR.equiの大きな感染源として重要だとは思わない。

母馬は呼吸器にも、腸管にもR.equiの病巣を持たないので、病原性R.equiが母馬の体内で増殖しているとは考えにくい。

感染した仔馬の糞便に大量に含まれる病原性R.equiが母馬の口から入って通過しているだけの可能性もある。

調査された牧場のような多発牧場だと、病原性R.equiは土壌中や厩舎内の粉塵の中にも含まれているはず。

「毎年、この母馬の子がR.equi肺炎を発症する」という事象の要因としては、

その母馬の子が免疫的に弱い遺伝形質を持っているとか、

その母仔が去年も入れられていた馬房が風通しが悪いとか、

入れられていたパドックの土壌が汚染されているとか、

その母馬の繁殖状況で、R.equiに感染しやすい季節に生んでいるなど、

直接の感染源である以外の要因がいくつも考えられると思う。

            ///////////////

机の上、机の中、本棚の膨大な資料を処分した。

よくまあこんなに文献を読み勉強してきたものだと自分でも思う。

人の歩む年月は長い。

積み重ねればその量はそれなりの量になる。

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これからの人たちはpdf化してデジタル保存した方がイイです。

記憶媒体のクラッシュ、火災・雨漏り、パスワード忘却に耐えられるバックアップを忘れずに;笑

 

 

 



4 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (はとぽっけ)
2024-12-03 07:11:29
 保菌する子馬が全頭発症し重篤化するわけではないし、保菌しシストを持つようになるわけでもないから子馬側、母体側の要因としては遺伝的なものや防御反応の個体差に焦点を当ててみるのがいいのかな?と思いました。
 証明は否定する仮説のほうが難しいように思うので、あえてそこを調査したところは価値ある発表かな?と。
 それと、病巣、シストへの治療介入が現実化するといいな。と。

 こういう片付け作業は一気にしないと進まない。ついつい手に取って見返したりしようものならあっという間に時間は過ぎ、、、、。
 媒体は時代とともに。ビデオテープはもう見ることもできない時代になるそうで。
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>はとぽっけさん (hig)
2024-12-04 04:06:55
いまだにcovid19感染が重症化する人としない人の区別は明確ではありませんし、mRNAワクチンの副作用が重い人と軽い人の予想も明確ではありません。インフルに罹りやすい人と罹りにくい人の遺伝形質もわかっていません。ロドも・・・なんでしょうね。
母馬が感染源じゃないか?も的外れな疑問ではないと思いますが、少なくとも菌量や強毒株の菌量には差がなかった、という結果です。

疑われる母馬が居て、ある年は乳母につけてしまう、とかを数多くできれば調査になるかも。

ヴィデオテープもアナログなんですよね。フロッピーディスクはどうなんだろ。国会図書館や行政資料はどうしていくんだろう?
でもわれわれにとって大事なことは、読んで頭の中に記憶し、すぐに応用できるようにしておくことですね。
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Unknown (zebra)
2024-12-04 07:27:36
背景から潜在的な感染要因として母馬の糞便を有為に抽出する事はできなかった、と結論するべきなのでしょうか。
遺伝要因なら母馬は要因でしょうし、では父はとなりますし、そもそも重種とかミニチュアみたいなものをその環境にぶち込んだらどうなるか、と言うところも興味に尽きないでしょう。
仔馬自体の発症も不顕性で耐過してしまうものもあるでしょうし、その要因は何でしょうと言うのもあるでしょう。

CD RやRWはテキメン読めないので、BDも非常に怪しい。
頭に入れて置くだけでは他の人からわかんないじゃんといわれるので、ちゃんと纏めて次に申し送りしておきましただから捨てられるのでしょうね。
読めない人がこれやるとイントロ過去に報告ないから始まるのでこれも堂々巡りなのですよね。
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>zebraさん (hig)
2024-12-05 04:09:19
まだまだわからないことだらけ、ということです。それでも制御できているなら良いのですが、発症はあとを絶たないし、抗菌剤耐性は進みつつあるし、etc. なんとかしなければなりません。

文献管理ソフト、なんてあるんでしょうかね。保存できて、引用文献作成のときにはリスト化できるフリーソフトなんてありそうですけど・・・使いこなすところまで行きませんでした。写真やアルバムだって、ね~
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