繁殖雌馬が疝痛、発熱、脱水を示し、開腹手術したが腹膜炎を起こしていてあきらめた。
剖検したら盲腸に壊死した部位があった。
回腸が盲腸につながっている部分に近い箇所だった。
盲腸に近い回腸もひどく太くなり、また厚さも厚かった。
葉状条虫症だろう。
葉状条虫は回盲部と呼ばれる回腸が盲腸につながっている部分を好んで寄生する。
その部分の粘膜が糜爛し、腫れあがる。
通過が悪くなるので、内容を押し込むために回腸は筋層まで肥厚し、そのことでさらに通過が悪くなる。
盲腸の粘膜は浮腫性に肥厚することがあり、なにかの拍子に穿孔する。
分娩がそのきっかけになることも多く、お産の事故のように思われるが、実際には盲腸に大量の葉状条虫が寄生していることが多い。
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葉状条虫は、ササラダニなどのダニが中間宿主で、馬がそのダニを食べることで感染する。
おそらく、長年、馬を飼い続けている放牧地には葉状条虫を寄生させたダニがわんさか増えているのだ。
野焼きをして古い草やダニを焼き殺す機会があればいいのかもしれないが、馬の放牧地は牧柵に取り囲まれているし、今は消防もうるさくて野焼きなどできない。
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盲腸破裂による腹膜炎で死亡した繁殖雌馬の糞には大量の葉状条虫卵が含まれていた。
62EPG。
EPGとはeggs per gram。つまり、1gに62個の卵が含まれていることを示す。1kgだと62,000個。
馬は1回に1~2kgの糞をする。1日だと14~23kgとも言われている。
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以前、イギリスの大学の先生に日高の馬の血清を送って、血清中の葉状条虫への抗体を測定してもらった。
あまりに測定値が高いので、何度も測りなおしたそうだ。
ヨーロッパでは考えられない値だったそうだ。
葉状条虫の被害が出ている牧場、あまり駆虫していない牧場の馬は全頭が高い値だった。
よく駆虫をしている牧場では、中には抗体が高くない馬が居る、という結果だった。
馬の密度が高い放牧地の事情、湿潤で暑い夏、などの要因で日本の馬の放牧地は葉状条虫を持ったダニに濃厚汚染されているのだろう。
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ダニといっても吸血するダニや、目で見え易い大きさのダニではない。
葉状条虫の卵は、顕微鏡で観ると三角形や角のない四角形やドーム状に見える。
底が四角いドーム型をしているので、角度によって形が変わるのだろう。
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夏がダニの活動期で、それを青草と一緒に馬が大量に食べているので、秋から初冬は葉状条虫の駆虫適期だ。
年に数度は葉状条虫に効果がある駆虫(エクイバランゴールドorエクイマックスなどプラジクワンテルが入った薬)をしないと、葉状条虫の被害が出る。
盲腸破裂で死ぬか、
回盲部重積や閉塞で疝痛を起こすか・・・・・
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林野作業もなかなかスペシャルな知識と技術が必要な奥が深い分野のようだ。
私にはこのくらいの太さの樹が限界だ。
まあ、(樹を)折るより(骨を)くっつける方が難しいと思う;笑。