馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

FishでFinish

2015-12-29 | 急性腹症

きのう午前中に空腸盲腸吻合を受けた馬は、術前に13リットルの胃液を捨て、術中に30リットルの小腸内容を捨てたので、術後の脱水が予想された。

それで輸液スピードを上げていた。

夜8時に「伏臥して呼吸が苦しそう」とのことで診察。

それまでの術後8時間で20リットルの輸液を行った。

さらに次の20リットルを用意して付け替えた。

疝痛はないが、消炎効果、抗エンドトキシン効果を期待してフルニキシン・メグルミンも投与した。

しかし、口粘膜は紅潮で斑(まだら)。良い状態ではない。

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午前2時半に「発汗し、苦しそう」とのことで呼ばれた。

心拍は104、口粘膜は赤灰色で、「これは厳しいな」と思った。

痛がっているというよりは苦しい感じ。

メデトミジンとベトルファノールを投与して鎮静した。

胃カテーテルを入れるが、ガスも液も回収できない。

術後40リットルの輸液を入れ終え、次の20リットルバッグを吊る。

ショック状態なので、循環血液量を増やす目的で高張食塩液1リットルを急速投与した。

投与中に馬は苦しがった。

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朝5時、馬はぐるぐる歩き回って輸液チューブが捻れて輸液が止まった。

解こうとしている間に様子がおかしくなり、危ないので馬から離れるように指示した。

馬はそのまま倒れて、しばらくもがいて死んだ。

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剖検では胃破裂が確認された。胃にはまだ固形物が残っていた。

小腸は全体に色調がひどく悪かった。

術後イレウスから胃破裂したのだろうが、いつ胃破裂したかはわからない。

もっと輸液していれば、とか、

もっと早くに胃カテーテルをいれれば、とかも思うが、あの小腸の様子では厳しかっただろう。

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朝、6時過ぎに疝痛馬の診療依頼。

あわただしく受け入れ準備しておいて、朝食を食べに帰る。

7時過ぎに馬が来たが、まだ痛い。

PCV44%、乳酸値1.8mmol/l。

朝4時には疝痛だったというので、もう3時間以上経っている。

開腹手術する。

小腸の一部が腹腔奥に入り込んでいた。

もみほぐし引き抜いた。

その上位の小腸はひどく膨満していた。

切開して内容を20リットル近く捨てた。

成馬の小腸閉塞は一人では扱えない、ときのう書いたが・・・・ひとりでやる。

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閉腹にはfish を使った。

閉腹のときに、ウニュウニュと出てきて邪魔になる腸管を押さえておくのに使う。

ある程度閉腹したら、ワイヤーを引張って抜く。

正式名称はviscera retainer (臓器保持器)だが、通称fish。

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さあ、これで年内の手術はfinishとしようじゃないか!

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手術室の大掃除。

無影灯をきれいに拭く。

今年の血しぶき、今年のうちに ♪♪