真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「抱かれ上手な女 性欲が止まらない」(1991『巨尻 ぶち抜く!』の1999年旧作改題版/製作:プロダクション鷹/提供:Xces Film/脚本・監督:珠瑠美/撮影:伊東英男/照明:隅田裕行/音楽:新映像音楽/美術:衣恭介/編集:井上編集室/現像:東映化学/録音:ニューメグロスタジオ/出演:家永翔子・愛川まや・あおい恵・清水義人・中満誠治・牧村耕治)。美術の衣恭介は、珠瑠美の夫・木俣堯喬の変名。
 ボーカルまで入りだすロックンロール起動、主演女優の裸を軽く見せて、何処ぞの波打ち際の岩場。カメラがパンした先、顔が隠れてよく見えない二人の女の、尻を二つ並べて谷を渡る中満誠治(無論現:なかみつせいじ)を抜いてタイトル・イン。クレジット明け、改めてブティックを持たされる喜代子(家永)と、パトロン・誠一(牧村)の一戦。ここまで序盤は順調に女の裸のみ、物語らしい物語は凡そ存在しない。誠一は自宅に戻つた翌朝、喜代子が朝食の準備をしておいて鏡に裸身を映す、女の裸を銀幕に載せる以外には本当に意味を欠片たりとて計りかねる件や、適当な繁華街の繋ぎカットを経て、女子大生・大田ユカ(愛川)の家に、セフレの灰田一郎(中満)が転がり込む。何だかんだ、といふか絡みを連ねるばかりにつき、要は何が何だかの末に、誠一とお目当ての物件を見た後の喜代子と、実は喜代子とは高校の同級生で、一郎と適当に街を歩いてゐたユカとが再会。後に喜代子とヤリたがる一郎を前に、ユカは腹を立てるどころかザクザク賛同、ユカからの連絡を受けた喜代子も喜代子で巨尻といふほど別に馬鹿デカくもない尻は水素原子よりも軽く、三人での巴戦の話がサクッと纏まる。
 配役残りあおい恵は、人間嫌ひのオールドミスなのに、親の遺した旅館を細々と継いでゐるとかいふ、正体不明な造形のリカ従姉・佳代。清水義人は、誠一だけでは土台飽き足らぬ喜代子の愛人・時男。誠一が一週間日本を離れるとやらで時間の出来た喜代子の思ひつきをリカが膨らませ、当然一郎も交へた三人で、佳代の旅館に泊まることになる。とかいふ寸法で今回、後半はまさかの伊豆映画へと発展する。
 珠瑠美1991年第七作は、お姉さん・神代弓子の「人妻不倫 夫にばれなければ!」(1992)に四作先駆ける、全然似てない妹・家永翔子のピンク映画初陣、因みに妹のピンク出演は最初で最後。伊豆に出張つたところでどうせ物語らしい物語が依然起動するでもなく、相変らず濡れ場濡れ場を連ね倒すばかりの、よくいへば腰の据わつた裸映画。とはいへこれはこれで、何はさて措き、といふか要は何もかもさて措いてさへともあれ女の裸だけはお腹一杯愉しませてみせる分、半端な―映画的―色気を出して下手に生煮えて呉れやがるよりは、一兆倍マシだといふジャスティス。と、自分に言ひ聞かせようかと思つてゐたら、一郎の夜這ひに女の悦びを知つた佳代が、笑顔を取り戻す予想外に正方向の爽やかなラストには驚いた。といつて一般的な劇映画の水準からすると十二分にも三分にもへべれけではあるのだが、何せ敵が珠瑠美なだけに、不意打ちがてら心が洗はれてしまつた。何だか、仔犬を可愛がる不良のやうな一作である。


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