真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「息子の花嫁 いんらん恋の詩」(2015/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英・藤田朋則/編集:酒井正次/助監督:金沢勇大/撮影・照明助手:近藤祥平、他一名/音楽:安達ひでや・宮川透・島袋レオ/制作進行:佐藤選人/スチール:本田あきら/協力:花道ファクトリー/タイミング:安斎公一・小荷田康利/録音:シネキャビン/仕上げ:東映ラボテック/タイトル画:天才ナカムラスペシャル/出演:星野ゆず・加山なつこ・杏堂怜・ダーリン石川・平川直大・春風亭傳枝・天才ナカムラスペシャル・縄文人・稲葉良子・牧村耕次)。出演者中春風亭傳枝が、ポスターには春風亭伝枝、クレジットの情報量に素直に敗北する。
 タイミングが難しい話題を、最後ではなく最初に。吉行良介の復活と同時に、金沢雄大はピンクから足を洗つたのか?といふのは粗雑な早とちりに過ぎず、単に関根組を離れ、2013年第三作「異父姉妹 だらしない下半身」(主演:愛田奈々・美泉咲)以来二年ぶりに荒木組に復帰しただけだつた。ものかと思ひきや、荒木太郎の2016年第一作にも矢張り、金沢雄大の名前が見当たらない。
 すつかり定着した立体ロゴ開巻、牢の中、“妻をめとらば才たけて”、“顔うるはしくなさけある”と、牧村耕次が与謝野鉄幹の「人を恋ふる歌」を吟ずる。“全てはここから始まつた”と色を抜いた回想だか幻想イン、川の岸辺にて水かけつこと称するには随分苛烈に水を浴びせかけた星野ゆずを、牧村耕次は両手で抱へなければならないほどの大きさの石で殴打する。一転日々の日常、同居する息子・修(ダーリン)が仕事に出ると、妻には先立たれた井伊六輔(牧村)は暫しぼんやりとした一人きりの時間を過ごす。食事療法が必要な六輔のために、ヘルパーの外山姫子(星野)が来宅、姫子のノーブラの透け乳を抜いてタイトル・イン。六輔の仲間の不良老人達、元芸人のパハップス沼田(天ナス)・那須三太郎(縄)・毒茸三太夫(禿鬘を被つて男役の稲葉良子)の顔見せ噛ませて、六輔は姫子に、年甲斐もない下心を拗らせる。ところが姫子は、修と結婚を約束する関係にあつた。
 配役残り、界隈随一タンクトップが似合ふ平川直大は、姫子に付き纏ふ性質の悪い元カレ・大橋汚染、役者くずれ。加山なつこは、「脱法暴走老人愛人生活協同組合」こと“脱暴愛生協”―荒木太郎版ゲーターズみたいなものか―を構成する沼田・那須・毒茸が、皆で囲ふ業態不明の「宵待草」ママ・松島とめ子、顔よりも大きな正しく爆乳で年寄りを喰ひまくる。春風亭伝枝は、最終的には六輔が診て貰はうとした今後の運勢を、「“これから”つて何よw」と綺麗に一笑に付す捌けた占ひ師。とはいへ腕は確からしく、風雲児の相を看て取つた六輔から、エロ事師として全国を放浪した過去を引き出す。杏堂怜が、その過去パートに登場する亡妻・詩子。その他荒木太郎と佐藤選人と西村晋也が六輔が姫子を誘ふ、ゴーゴー音楽が爆裂する歌声喫茶に乱入する、荒木太郎は刑務官の声も兼務。
 荒木太郎2015年第三作は、ピンク映画十四戦目にして初めて主演女優の座を掴んだ、星野ゆずの引退作。六輔は脱暴愛生協の面々を抱き込むだか焚きつけられ姫子と息子に横槍を捻じ込まうとするものの、六輔が動けば動くほど、二人の仲は深まつて行く。近年の荒木太郎にしては珍しく形になつた正攻法の物語は、良くなくも悪くも荒木太郎的なガチャガチャした余計な意匠にも妨げられずに綺麗に進行し、春風亭伝枝の投入を、数字的には時機を失しかけた三番手の濡れ場にスムーズに繋げるスマートな導入には、素面で感心した。展開の盛り上がりに綺麗に同調し、「親子の縁を切るぞ」、「死刑の前に寿命だよ」。鬼気迫る凄味で、名を通り越した猛台詞を連発する牧村耕次も激越にカッコいい。前作で荒木調ならぬ荒木臭を完全復活させ―てしまつ―た危惧をいい意味で裏切り、なかなか以上に見応へのある一作である。
 牧村耕次と平川直大によるクライマックスの修羅場が相変らず、木端微塵に暗くて何が何だか全ッ然判らないのは双方執拗に考へものながら、土手の画面手前に小さく星野ゆずと牧村耕次。右上斜めに巨大な鉄橋の影を黒く通した上で、更にその遠く背景には流れる雲海越しに夏富士の頂が覗く。ダイナミックな構図と奥行きとが猛烈に素晴らしいショットには、完敗を認める勢ひで感嘆した。ただ多用する白黒画面に関しては、元素材がデジタルなだけに下手にクリアなモノクロてのもなあ、と荒木太郎が狙つたと思しき詩情なり抒情よりも、パッと見のしつくり来なさの方が先に立つ。同時に今回荒木太郎は七十分の尺を持て余したのか、姫子が転がすキックボードを中心に、乱打されるインサートは積み重ねられて行く手数といふよりは、意図を測りかねる漫然さがより色濃い。
 星野ゆずに触れると、荒木太郎いはく“星野ゆずにNGはない!!星野ゆずがNGだ!!”とのことで、下手だ下手だとする世評も存する気配が窺へる。尤も、個人的には2014年第二作「巨乳未亡人 お願ひ!許して…」(主演:愛田奈々)で目についた、初代上野オークラ劇場公認マスコットガールとして知られるふんはかしたイメージとは全く遠い、スレた突破力が今も印象に強く、藪蛇に刀を返すと未完の大女優・愛田奈々よりは余程上手く思へるものである。あるいは、意地悪をいふとそもそもさういふ荒木太郎の演出力が如何程なのか、といふ話なのでもなからうか。

 2000年最終第五作「飯場で感じる女の性」(脚本:内藤忠司/主演:林由美香・鈴木あや/縄文人ではなくTAKAO名義)以降、六年のブランクを挿みつつ長く荒木太郎映画に携はつて来た縄文人氏は昨年十一月に死去されたらしく、今作が最終戦に当たる。封切りが九月中旬となると撮影時期は初夏か、前回に引き続き今回も特段死期が迫つてゐたやうにはお見受けしなかつた。

 付記< 気がつくと、金沢雄大は一般映画でデビューしてた http://pinchu.jp


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