真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「妻の誘惑 完全なる性感帯」(1994『股がる人妻たち』の2013年旧作改題版/企画・製作:オフィス・コウワ/提供:Xces Film/監督:上垣保朗/脚本:佐々木尚/プロデューサー:高橋講和/撮影:松尾研一/照明:多摩三郎/編集:金子尚樹[㈲ フィルム・クラフト]/音楽:伊東義行/助監督:勝利一/製作担当:堀田学/録音:ニューメグロスタジオ/効果:協立音響/撮影助手:猪本雅三/照明助手:多摩次郎/編集助手:高田宝重/ヘアーメイク:桜井ルミ/スチール:小島ひろし/現像:東映化学㈱/出演:小泉ゆか・吉行由美・福乃くるみ・白都翔一・真央元・東田やこ・東田かんろう・中根徹)。監督の上垣保朗と、脚本の佐々木尚は同一人物。ついでに新日本映像公式で助監督とされる添田克敏といふのは、勝利一の本名。となると、多摩三郎も白石宏明の変名なのか?
 小田急横尾八幡駅に電車が入つてタイトル・イン、三浦誠(白都)が向かつたのは家庭教師先の藤森家。小学生の娘・美香(東田やこ/子役)の授業と、母親の志津子(小泉)も交へた夕食の風景。三浦が自身に向ける地味に突つ込んだ眼差しに、志津子は全く気づいてゐなかった。一方新宿の映画館街、息子・勇樹(東田かんろう/子役)を連れた松本道代(吉行)は勇樹の家庭教師・滝本幸一(真央)と落ち合ふと、勇樹をアニメ映画上映中の小屋に放り込み、己はラブホテルにて滝本の若い肉体に歓喜する、何て母親だ。狭い世間の中で友人同士の滝本は三浦に、まだ生徒の母親を抱いてゐないのかと無造作にけしかける。
 配役残り中根徹は、志津子の別れた元夫・松浦浩平。女手ひとつの志津子が結構な一軒家にて、確実にそこそこ以上の暮らしを送る懐事情は一欠片も描かれない。一方、道代は亭主の安月給の中から苦労して工面した金を滝本に貢いでゐるのを、何故か今より年喰つて見えるこの頃の吉行由美らしい切迫感を以て訴へる、男の側からしたら鬱陶しい話でしかないがな。福乃くるみは、離婚前から関係を持つてゐたと思しき、松浦の情婦・真理絵。松浦と真理絵の絡み、中根徹は普通なのに、福乃くるみのリップシンクが木端微塵に出鱈目、綺麗な体を素直に見せる邪魔をする。
 最後に改めて整理しておくと、ロマンポルノで活躍した上垣保朗はVシネ戦線に一時雌伏後、矢張りオフィス・コウワから佐々木尚名義で三作のピンク映画を監督。更にその間第一作「不倫妻 夫の眼の前で」(1994/主演:浅井理恵)と第二作「義母と息子 不倫総なめ」(1995/主演:小泉ゆか)との間に、元あるいは本名義で発表したのが今作。上垣保朗は健康面から映像の仕事は離れたと伝へられて久しいが近年、むさしの吉祥寺映画フェスティバルの第1回ムービンピックに殴り込んでみせたりもしてゐる。今作に話を戻すと主演は夫人の小泉ゆか、但し明らかなオーバー・ウェイトと、jmdbを鵜呑みにするならば前作の「唐獅子株式会社」(昭和63)から明らかに開いた間をみるに、理由は何にせよ一旦引退後の、復帰作となるのではなからうか。等々と外堀に長々と拘泥してみたのはほかでもない、本丸が掘立どころか更地かと見紛ふくらゐスッカスカのカッスカス。物語らしい物語があるでもなく、各々の組み合はせの濡れ場が漫然と連ねられるばかり。重ねて今風にいへば草を生やすほどのツッコミ処にも乏しく、キャラクター単独で引き込ませるだけの、魅力的な造形も見当たらない。そもそもビリング通りに配分された絡みの回数で華麗にでもなく男優部三冠を達成するヒロインが、よくいへば福々しくキレを欠く始末。ところが、そのまゝショッパイだけでは終らなかつた。事そこに至る語り口はハッチャメチャなのだが、兎も角小泉ゆかの鮮烈なイメージを無理矢理叩き込む鮮烈なラストは、そこまで我慢して―寝落ちずに―観てゐられれば兎にも角にもとりあへず印象には残る。平板な面白い面白くないでいふと全く詰まらない割に不思議と忘れ難い、仕出かすにも振りきつた感は清々しいチャーミングな一作である。
 備忘録< 雨のリベンジャー


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