真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「ニューハーフ・エクスタシー」(1991・冬『アブノーマル・エクスタシー』の2009年旧作改題版/製作:アウトキャストプロデュース/配給:新東宝映画/監督:サトウトシキ/脚本:小林宏一/企画:田中岩夫/プロデューサー:岩田治樹/撮影:小西泰正/照明:高田賢/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/音楽:ISAO YAMADA/助監督:成瀬正行/演出助手:米山幸吉/撮影助手:畠山徹/照明助手:矢崎利見/スチール:大倉琢夫・福島佳紀/タイトル:道川昭/現像:東映化学/録音スタジオ:ニューメグロスタジオ/協力:ニューハーフヘルスD《池袋》 TEL 03-3985-5262・乱コーポレーション・田中スタジオ・喫茶キャンティー《青山》・女装館エリザベス・勝山茂雄・西山秀明《SNOBBISH》・上野俊哉・TAOコミュニケーションズ・ロボット《渋谷》のみなさま/出演:麻倉みお《池袋ニューハーフヘルスD》・伊藤舞・栗原早紀・江藤保徳・石井徹・山科薫・清水大敬・菊次朗・杉浦峰夫)。出演者中石井徹は、本篇クレジットのみ。脚本の小林宏一は現:小林政広で、出演者中菊次朗は現:本多菊次朗。
 看板ディレクター(特に登場せず)を殴りテレビ局を干された脚本家の古川トシオ(杉浦)は、自身の企画の脚本執筆に取りかかるものの、まるで小説のやうな出来栄えに苦笑する。そんな古川を、同級生でAV制作会社社長(?)の水田(江藤)が呼び出す。水田は金にも困つてゐるであらう級友にアダルトビデオの脚本を書かせようとするが、余計な矜持が邪魔をしてか、折角転がり込んで来た仕事にも関らず古川はどうにも煮え切らない。栗原早紀は、水田が古川を連れて行つた現場にて絶賛撮影中のAV女優。出演者クレジットに載る中で石井徹といふのがどの人を指すのかよく判らないが、主だつたところを潰して行く不完全な消去法で攻めると、ここで栗原早紀の相手役を務める、線の細い坊主頭男優か。ゲイも絡めたアダルトビデオの撮影を企画する水田は、古川を今度はオカマバーに誘ふ。水田は既に後にした店にのこのこ到着した古川は、そこでニューハーフの明美(麻倉)と出会ふ。酒の力と勢ひも借り明美と一夜を共にした古川は、そのまま豪奢な明美の部屋に居ついてしまふ。明美が不在の折、松本零士の『大純情くん』(昭和52/『週刊少年マガジン』誌連載)で主人公・物野けじめが住むアパートに於ける、謎の美女・島岡さんが暮らす部屋の真相のやうな、一室だけ三階部分を増築した外観が画期的に画になる自室に古川が戻つてみたところ、伸子(伊藤)からの電話がかゝつて来る。五年前、当時神戸在住の女子高生である伸子の家庭教師をしてゐた古川は、あらうことか教へ子と淫行関係を結び大騒動になりつつ、その後結婚した伸子は東京に出て来てゐた。雨の中屈託なく古川を出迎へた伸子は、悪びれるでなくフリーな不倫を愉しむ。一方、水田は古川と明美との関係に釘を刺す。明美は店の方針で、週に一度金持ち客に体を売つてゐた。全方位的ないやらしさがハマリ役としかいひやうのない清水大敬は、明美を鬼怒川温泉に連れ出し古川を暴力的にヤキモキさせる佐伯。一体清水大敬は、幾つの時から今の顔をしてゐるのか。御齢六十二といふ点を鑑みれば、逆にキープしてゐると称へるべきなのかも知れないが。ランニングシューズから二、三本毛を抜いたやうなモッサリしたスニーカーと、中途半端な太さと長さのストレートジーンズ。サイズも選ばずに買つたやうなパーカーに適当なサファリハットとへべれけな色のシャツとを合はせる杉浦峰夫の服装にも、オタク・ファッションは二十年前既に完成されてゐたのかといふ感慨も強い。顔を抜かれる前から声でその人と知れる山科薫は、明美の同僚・マコ。店内ショットには協力勢から、本職オカマの皆さんがそこそこ大勢動員される。因みに、古川と明美が初めて対面する件、古川の隣画面上は手前のボックス席には、中田新太郎がコソッと見切れる。
 自身に満足な甲斐性もない癖に、明美の生活経済を肯んじない古川は、明美とホテル街を連れ添ふ佐伯を襲撃し、決定的な破局を迎へる。ハートブレイク紛れに矢張り雨の夜に訪ねた伸子にも拒絶された挙句に、妻が襲はれてゐるところに駆けつけた夫・カズオ(菊次朗)からは半殺しにされる。この一幕、困惑気味に伸子が現れてから、心の通ひ合はぬ遣り取りの末に古川が破れかぶれな暴行を働き、最終的にはカズオに撃退されるまでを、低く引いた視点から長回しのカメラで押さへたショットの、映画的な緊張度は素晴らしい。平素は昨今の、一括りにしてみせるところの惰弱な国映系には首を横に振ることの多い、シネフィルではなく偏狭なピンクスの小生ではあるが、ここの充実には感服せざるを得ない。オバケのやうに汚し過ぎに思へなくもない顔で敗走といふか敗歩しながらAVの脚本を書くことと、引越し並びに留守番電話を買ふ腹を古川が固めるラストには、前を向いてゐるのだかゐないのだか観客の判断にも委ねられるダメ人間映画としての、それはそれなりに綺麗な着地と同時に、それまでは冗長と思へなくもなかつた、留守電をここに至つてのギミックに落とし込んで来るのかといふ、ある意味意外に堅実な論理性に唸らされる。ノルマは従順にこなす反面即物的な煽情性あるいは実用性の面に於いては然程強い充実は示さず、その面ではピンク映画といふよりも、一貫してダメ男を主役に据ゑた、遅れ馳せた青春映画といふ色彩が全く強い。これで軟弱な鼻クソ映画ならば唾棄して済ますところなのだが、今作のソリッドな完成度の高さの前には、おとなしく素直にウエスタン・シャツの襟を正すものである。逡巡し力なく立ち止まつたところから、妙な加速がついて走り出し、無闇に暴発してみせたところで、最終的には無惨に打ちのめされる。古川の情けないエモーションは、だけれども実に綺麗な流れを伴なつた形を採つて描かれる。
 小屋の人間のふざけた態度は腹に据ゑかねるが、又かういふやさぐれたオフ・ビートの映画が、心なしかくぐもつた小倉名画座のスクリーンには実に染みる。

 最初に水田からAV脚本の執筆を持ちかけられた際、正直乗り気ではない古川が漏らすAVの隆盛が続くことを訝しむ台詞には、現状認識の頓珍漢さといふよりは、寧ろ屈折した対抗意識を読み取るのが適当なのであらうか。


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コメント
 
 
 
大洋 (リボーン)
2010-06-06 13:58:04
月曜日招待チケットでタイタンの戦いを見た

館内自分一人でした
 
映画もつまらなかった

空しく帰りました
 
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