真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「レズビアンレイプ ‐甘い蜜汁‐」(1991/製作:獅子プロダクション/配給:新東宝映画/監督:佐藤寿保/脚本:夢野史郎/撮影:稲吉雅志/照明:斉藤久晃・清野俊博/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/監督助手:江尻健司/撮影助手:片山浩/照明助手:古賀昭文・南園智男/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:高樹麗・杉本笑・水鳥川彩・石川恵美・前村進・今泉浩一)。
 女が赤い液体を数滴垂らすと、試験管の中の透明な液体はみるみる黒ずみさくさくタイトル・イン。蜥蜴を飼ふ女はテレコを取り出し、「四月一日晴れ、何も記すことはない」。「明日は私の誕生日、ねえアナタ聞いてる?」と、結局最後まで何者なのか判らん“アナタ”に語りかける。うん、開巻から順調に地に足が着かないぞ。相変らずテレコ片手の辰宮か竜宮今日子(高樹)が退室した江間研究室を訪れた出入りの医療器具販売業者「ビーム」の弓坂(今泉)は、江間先生(一切登場しない)の秘蔵つ子といふ触れ込みの松田實子(杉本)と出会ふ。實子を介して弓坂からの誕生日プレゼントである特製の試験管を、但し誕生日の翌日に受け取つた今日子は厄介に豹変、實子の手を傷つける。想ひを寄せる實子と、距離を近づけるどころか衝突すらした―当たり前だといふ気しかしないが―今日子は、透明なサイレンサーのついた改造銃で女をレイプして回る、夢を今日子に語つた弓坂を抱き込み、實子を犯すことを画策する。弓坂改め今泉浩一が「僕が見た夢の話聞いて呉れますか?」と切り出す瞬間が、今作の明々後日だか一昨日の方向に輝く最高潮、笑ひ死ぬかと思つた。
 配役残り前村進は扮装は怪しいが素顔は普通な、今日子と予想外にコロッとホテルに入るナンパ師。水鳥川彩は、腹に一物含んだ今日子の協力を受ける形で、弓坂にレイプされる女。ん、これで終り?まだ残してないか(´・ω・`)
 何でまた関根和美や新田栄の温泉映画が大の好物で、最近では小川欽也の伊豆映画が、三本立てで並べて観た訳ではないので何となくにせよ案外一作毎にプログレスしてゐるやうな気もする小生ドロップアウトが、わざわざDMMで動画をダウンロードして対極に存しよう、得意でなければ別にファンでもない佐藤寿保を見てゐるのかといふと、どれでもいいから石川恵美の出演作が見たい気持ちになつたからである。そこでだから何でまた佐藤寿保なんだ、深町章なら何本も観てゐるから一旦回避したんだ。特に美人といふこともなければ決して超絶のプロポーションを誇る訳でもないけれど、如何にも人の好ささうな笑顔から銀幕を介して滲み出る穏やかな幸福感は、量産型娯楽映画の大海の中慎ましやかに輝く何気に得難い宝石であるのではなからうか。如何せん、活動時期なりポジションあるいは扱ひ的には橋本杏子の一歩後ろに下がりがちともなつてしまひかねないのかも知れないが、個人的にはこの期に、石川恵美に地味に注目してゐる。さうしたところが、まさかの石川恵美が見切れすらしないサプライズ。クレジットは、確かにされる。面倒臭い研究室の先輩に食傷した實子が、帰宅後友人に連絡を試みるも捕まらないといふ一幕に於いて、アツコ役の留守電メッセージで特徴のあるハニー・ボイスを聞かせては呉れる。但し、脱ぐ脱がないの以前に出て来やしない。石川恵美ルネッサンス企画のど頭にて、かういふ話の種にブチ当たる辺りは我ながら流石だと別の意味で感心する。
 仕方がないので映画に話を戻すと、仕方のない映画であつた。何はともあれ、新東宝公式の配信頁にある今作の紹介文が振つてゐるのも通り越して完璧。斯くも見事なイントロダクションには、さうさう巡り合へるものではない“夢野史郎のサイキックなシナリオを俊英・佐藤寿保監督がシュールな演出で描くサスペンス調の傑作”。“サイキックなシナリオ”とは果たして何ぞやといふのが最大のツッコミ処であるのはいふまでもないとして、それをおまけに“シュールな演出で描”いちやつたりしたりなんか日にはどうなるものやら。ある意味当然、サスペンスの体を成してゐなければ傑作でもない。女学生時代の強姦被害を方便とするのか、苛烈に異性を憎悪する同性愛者にして、終に正体不明のまま終るテレコに謎メッセージを吹き込み続ける。頭を抱へたくなるやうな造形のヒロインが、屈折したガンマニアを巻き込み百合の花を狂ひ咲かせる。無理矢理纏めてみたが、実際の始終は個々の遣り取りから展開の各々、ラストに及んではカットの繋ぎに至るまでことごとく噛み合はない。何処に向かつてゐるのだか見当もつかない反面、頑なに真直ぐ進みたくはないことだけならば如実に看て取れる。女装すると主演女優より美形になる今泉浩一も、元々大概な支離滅裂に更に火に油を注ぐへべれけな口跡は、ひとつきりではない致命傷。そもそも、メインのガジェットからして頓珍漢。サイレンサーに試験管を装着した改造銃といふと聞こえは激しくロマンチックではあるものの、劇中実際の代物は、銃口に先端に吸盤的な構造物のついた軸を挿して、底を抜いてはゐない試験管を固定する。・・・・あのさ、

 それ弾出ないよね?

 高樹麗は美波輝海似の鬼瓦系面相はさて措いて、首から下は適度にグラマラスな美しい体をしてゐる。杉本笑は狐系のシャープな美貌と、全体的なイメージも全く損なはないスレンダーな肢体を誇る。おまけに三番手に水鳥川彩をも擁しておいて、挙句に石川恵美は温存さへしておいて。裸映画的には幾らでも戦へた布陣であつた筈なのに、無駄に捏ね繰り回して逆の意味で綺麗に仕出かした一作。作家主義だか何だか知らないが、俺の立ち位置でいはせて貰ふとかういふ映画は鳥の里に紛れ込んだ蝙蝠だ。尤も、ここは蝙蝠も同居する鳥の里の多様な豊潤さをこそ、寧ろ尊ぶべきなのか。


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