真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「SEX実験室 あへぐ熟巨乳」(2013/製作:旦々舎/提供:オーピー映画/脚本・監督:山﨑邦紀/原題:『絶頂研究所』/撮影:鏡早智/撮影助手:北野奈央/照明:ガッツ/照明助手:蟻正恭子/助監督:北川帯寛・藤崎仁志/編集:有馬潜/音楽:中空龍/録音:シネ・キャビン/ポスター:本田あきら/タイトル:道川昭/現像:東映ラボ・テック/出演:有奈めぐみ・里見瑤子・なかみつせいじ・津田篤・荒木太郎・大城かえで)。照明のガッツは、守利賢一の変名。
 暗い書斎にて、滅びを予感したなかみつせいじが馬鹿げたこと、物笑ひの種になるやうな愚かで意味のないことに尽力する腹を固める。絶望的かつ―反―英雄的な開巻を経て、机上のパイナップルを抜きタイトル・イン。タイトル明けると招聘されホテホテ歩く有奈めぐみ、ファースト・カットから受けた印象を一言で片付けると、首から下のフォルムがまんま漫才師の今くるよ。正直、個人的には全ッ身全ッ霊を込めて御免蒙りたいタイプではある。口を開くと針生未知(ex.川瀬有希子)系の素頓狂な声質がどうにもアテレコ臭く聞こえるのは、為にする勘繰りなのかも。一万人斬りを誇る性豪・輝葉(有奈)が到着したのは、大企業の会長・城前耕造(なかみつ)が開設した「CLIMAX LAB」こと“絶頂研究所”。城前以下秘書、兼愛人の杏奈(大城)、研究員の栗城洋二(津田)と、言葉とセックスの出会ひに関する集中実験に被験者として参加する目的で輝葉は招かれたものだつた。城前いはく輝葉を称して“どんな状況にも対応出来る全天候型の女”、褒めてゐるのだか人間扱ひしてゐないのだか判らない。ところで、紹介されたとされる輝葉に対し、一応象牙の塔の出身でもあるものの、巨根を買はれた洋二は城前がサウナでスカウトしたとのこと、ハッテンかといふ話である。
 濡れ場が一段落つく毎に、新たな面子がラボに加はる構成は地味に秀逸。荒木太郎は城前とは旧知と思しき、官能小説家の泡肌凡人、性癖的には好対照を成す。里見瑤子は、洋二を頼る路頭に迷つた義姉・風花。ピンク映画全体の製作本数自体が激減した現在にあつても安定した仕事ぶりに、やゝもすると忘れがちになりかねないが、十年どころか里見瑤子は十五年選手でも納まらない事実は、この期に及ぶと弥増して頼もしく輝く。案外、何時も通りの飄々とした風情で、女優部のラスト・スタンディングはこの人なのではなからうか。里見瑤子と荒木太郎が奇矯に脇を固め、なかみつせいじがダンディに扇の要を務める布陣はその限りに於いては全く磐石。
 山﨑邦紀2013年第二作にして、御大将・浜野佐知の決裂に伴ふ旦々舎オーピー最終作。最期を見据ゑた男が仕掛ける、大真面目な茶番。まるで、山﨑邦紀が浜野佐知とオーピーの関係の末期を悟つたかのやうな挑戦的な物語にも思へるが、ここは一旦、邪推に過ぎまいと呑み込む。それは兎も角、斯くいふ当方もかうして厭きもせず“虚空を撃ち続ける無為”の果てに、どれだけ積もらせても所詮塵は塵のまゝの岡をオッ建ててゐる次第ではあるが、城前と小生、彼我のベクトルは出発点が異なる。その心は?惨めたらしくしかならないからいはない。それもさて措き、“セックスで人がどんな言葉と出会ひ、最高潮のエクスタシーを得るのか”。そもそも捉へ処のない城前の提出したテーマは、東郷健的な比較文化論に展開するですらなく、“黒い犬が草原を走る”だの“ピンクの豚が青い空を飛ぶ”だの、“モグラが熱く密度の高い土の中をグイグイ進んで行く”だなどと、甚だ他愛のない動物ポエムが実験の成果だといふのは腰も砕ける御愛嬌。寧ろ、自家用のテキストを輝葉に渡した泡肌が要は女王様プレイを満喫する件の方が余程充実、前戯あるいは挿入中に相手の肛門に指を挿し入れ抉るフランス流テクニック・ポスチョーナージュまで繰り出される大サービスには、山﨑邦紀自身のノリノリぶりも窺へる。城前自ら輝葉に皮膚感覚を開発され、絶頂に達した風花は、プッチーニのオペラ「蝶々夫人」を代表するアリア「ある晴れた日に」を出し抜けに披露する。実際にそんな女と対面した男は大抵萎えるに違ひないとも思ひつつ、そのやうな珍奇なシークエンスを堂々と成立せしめられるのも、改めて流石里見瑤子だ。城前の元々思ひつきじみた目の鱗が落ちたところで、ブラックアウトする研究所。即ち、完璧なタイミングで、終る祭り。正しく劇的、それ以外の言葉が見付からぬ見事な終盤は、なほも静かに、然れども同時に猛然と加速する。杏奈と洋二、風花と泡肌を手際よく落ち着かせた上で、城前と輝葉が沈黙した屋敷に残される。男と出会ふと握手するやうにセックスする女は、別れる時にも手を振るやうにセックスするといふのは画期的に洒落てゐる。だから有奈めぐみがせめて体型だけでも標準的であつたならば、歴史的な名場面たり得てゐた可能性もあつたのに。ディバイン好きの山﨑邦紀は首を縦に振るのかも知れないが、有奈めぐみは単なる単に太つた女だ。気を取り直して、そして、あのオーピーが手切れ代りなのかよくぞ許した、静謐にして衝撃的なラスト・ショットが、如何とも形容し難いエモーションを叩き込む。執拗に繰り返すがエクセスに劣るとも勝らない、裸映画的には更に肝要なビリングの頭に開いた主演女優の太穴、もとい大穴。現に尺も喰ふ最重要の筈の実験室が、一番貧しいロケーション。少なくも小さくもない弱点に関しては、この際忘れてしまへ。相変らずな奇人変人の変態博覧会に偽装した引導にしか最早どうしても思へない、もしかすると2013年最大の問題作。とりあへず、普通に充実した映画を残し後を濁さず綺麗に飛び立つた旦々舎の、古巣エクセスでの更なる大飛翔―浜野佐知による、帰還作が目下大絶賛撮影中―が今から楽しみで楽しみで楽しみで仕方がない。
 蛇足にいはずもがなな瑣末をツッコんでおくと、全部落ちても、館内は生きてるんだな。それともうひとつ、触れられたくない過去に洋二が見せるチック風の異常動作。津田篤が全く似たやうな演技プランを何処かで採用してゐたやうな気がするのだけれど、「性欲診察 白衣のままで」(2007/監督:池島ゆたか/主演:結城リナ・星沢マリ)であつたか?

 ここから先は、映画単体からは完全に離れた余談であるが、今回今作を観たのは小倉駅前徒歩二分の小倉名画座。二本立ての併映は、新田栄の現状最終作「未亡人家政婦 -中出しの四十路-」(2009)。主演は何れも肉襦袢、それぞれの事情による二本の最終作。後ろ半分は結果的な偶然にせよ、一見頓着なさげに見せて、小倉名画座はなかなかハイ・コンセプチュアルな番組を組む。因みに、肉の厚みは有奈めぐみ>>>大空音々。


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