真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「杉本笑 スペルマ全身愛撫」(1990『ぐしよ濡れ全身愛撫 BODY TOUCH』のあんまりなAV題/製作:バーストブレイン・プロダクツ/配給:新東宝映画/監督:佐藤俊喜/脚本:小林宏一/プロデューサー:佐藤靖/音楽:山田勲生/撮影監督:重田恵介/照明:林信一/編集:金子尚樹/ヘアメイク:岡本佳代子/助監督:上野俊哉/演出助手:森田高之/撮影助手:古谷巧/照明助手:池田ヨシオ/録音:ニューメグロスタジオ/現像:東映化学/出演:杉本笑・早瀬美奈・中根徹・木村ヤスシ・清水大敬・牧村耕次・江藤保徳・三橋昇・荒木太郎・山科薫)。実際のクレジットは英語なのだが、アルファベットを打つのが面倒臭い。人名の片仮名は漢字に辿り着けない反面、佐藤俊喜は片仮名表記が正解なのかも知れん、牧村耕次も牧村耕治かも。脚本の小林宏一は、小林政広の前名義。
 時計音と、ホテルの一室に入る男女。挿入間際の土壇場中の土壇場で拒みだす岸田容子(杉本)を、沢井か澤井邦夫(中根)は無理矢理抱く情事、馬鹿デカい―AV版の―モザイクに苦笑させられつつタイトル・イン。ある意味当然、容子は邦夫に距離を取つて一ヶ月。雑誌社に勤務する容子が作家先生を缶詰にしたプラザホテル417号室の電話番号を聞き出した邦夫は、強引にその夜会ふ約束を取りつける。但し容子が指定した待ち合せ場所は、歌舞伎町のカフェバー。数年前、邦夫がバイト先で知り合つた由美子(早瀬)とホテルから出て来たところで、由美子が歌舞伎町のヤクザ・根本(木村)とその子分(江藤保徳・三橋昇・荒木太郎)に絡まれる。情けないにもほどがある邦夫は一人で逃走、由美子は輪姦される。以来邦夫は、新宿ごと足を遠ざけてゐた、この世から遠ざかれ。仕方なく恐々歌舞伎町に足を踏み入れた邦夫を、今ではすつかり根本の情婦の座に納まつた由美子が見付ける。結局容子とは喧嘩別れ、邦夫が飲み代を払ふ店に、子分を招集した根本一派も五名様御来店。例によつて逃げた邦夫を、根本は子分に追はせる。
 登場順に配役残り清水大敬は、邦夫を歌舞伎町にオープンする知り合ひの店に誘ふ、会社の上司・田沢か田澤。猫撫で声で声をかけ、本当に容子と予定のある部下に断られた途端に激昂するのは、清水大敬のお家芸。山科薫はママなのか、邦夫が一瞬根本と見紛ふカフェバーのオカマ。山科薫がサトウトシキ作でオカマを演じるのは、さういへば「アブノーマル・エクスタシー」(1991)でも観た。牧村耕次か耕治は、いざ書き始めるや仕事の早い玉井先生。
 jmdbによるとちやうど前後で漢字と片仮名に分れる分水嶺につき、正確な名義のハッキリしないサトウトシキ1990年第一作。佐藤寿保だサトウトシキだと、ドロップアウトの分際で豆腐の角で脳でも強打したのかといふ話ではあるが、「レズビアンレイプ ‐甘い蜜汁‐」でシャープな美貌が目を引いた、杉本笑の映画を他にも見てみたくなつたのだ。さうしたところがさうしたところが、素頓狂に前髪をアップした出鱈目なヘアスタイルで、杉本笑が全然不細工に見えるまさかまさかのサプライズ。と匙を投げかけてゐたら、カフェバーにて容子が邦夫と会つてゐる間は、前髪を普通に下した形に修正されてある。間は修正されてあるとは何事かといふと、要は劇中時間の進行に伴ひ主演女優の髪型が一回変り、その後元に戻るのである。スクリプターが居る居ないの騒ぎどころではない、当該件の撮影順が一番最初なのか最後なのかは知らん。四天王方面に慣れぬ食指を伸ばしたからなのか、己の頓珍漢な引きの強さには流石に呆れるばかりである。映画本体に話を戻すと、四人が薄汚れた街を威勢よく駆け抜ける、邦夫と根本子分のチェイスは見応へがある。杉本笑が岡本佳代子に後ろから撃たれる中、イイ感じの沸点の低さとエッジの鋭さを弾けさせる、三人の中ではリーダー格の江藤保徳が俳優部最も輝く。とはいへどうにもかうにも呑み込み難いのは、根本一派には手も足も出ない割に、無理矢理抱いた容子にしつこく付き纏つた上で、漸く会つたとなると身勝手極まりなく逆ギレすらしてみせる邦夫の惰弱な造形は激しく癪に障る。選んで観てゐる訳ではないのでよく知らないが、「アブノーマル・エクスタシー」も想起するにグジャグジャ自堕落な主人公―がついでにボコられるの―が、小林政広脚本の色なのか?自ら渋る邦夫を呼び出しておいて、プラザホテルにとんぼ返つた容子は歌舞伎町の一夜を綺麗に素通りした挙句に、根本が再会した邦夫を“丁重におもてなし”することを、頑なに子分に命ずる理由といふのが致命傷。敢て中身には触れないが、旧来とは一線を画した新しい時代のアーバンなピンクを気負つたかのやうにみせて、下手なルーチン以上に―以下だ―御都合的な方便の底の抜け具合には唖然も通り越して愕然、観客を馬鹿にしてゐるのかと本気で思つた。小屋で観てもゐない癖に、といふのはツッコまないで欲しい。それでゐて、1990当時年既にさういふ風潮は出来上がつてゐたのか、『PG』前身の『NEW ZOOM-UP』誌主催によるピンク映画ベストテンに於いて今作が作品部門一位を獲得したとのことだが、もう少しマシな映画は幾らもあつたらうにといふ風にしか思へない。僅かに観た見た範囲で個人的なイグザンプルを戯れに挙げてみると、浜野佐知の「団地妻 恵子のいんらん性生活」とか、深町章の「激撮!15人ONANIE」とか、片岡修二の「ザ・高級売春 地獄の貴婦人」とか。別の意味でならば面白いことは猛烈に面白いが、大御大の「痴漢電車 よせばいいのに」といふのは冗談だ。

 最後に、もうひとつ注目は、一体何時の時点で、荒木太郎は現在の顔が完成してゐたのか、清水大敬も。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )