真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「どすけべ女社長 未亡人の性欲」(2000/製作・配給:新東宝映画/監督・脚本:小林悟/企画:福俵満/撮影:飯岡聖英/照明:ICE&T/編集:井上和夫/助監督:竹洞哲也/監督助手:村松健/撮影助手:岡宮裕/タイトル:ハセガワタイトル/出演:愛染恭子・小池結・横塚明・けーすけ・草野陽花・坂入正三/客演:港雄一・久保新二・薩摩剣八郎)。
 三年前に死んだ亡夫(遺影すら一切登場せず)の法事を終へた、多分苗字は広瀬―廣瀬か弘瀬かも―彩乃(愛染)とその多分一人娘・麻美(小池)、彩乃とは幼馴染で、劇中“大将”ではなく“マスター”と呼称される居酒屋店長(坂入)が連れ立つて歩く。坂入正三十八番の陽性にウジウジとしたメソッドで、未婚のマスターは彩乃にそろそろと再婚のカマをかけるも華麗にかはされつつ、自宅に戻る彩乃と、店(屋号ロスト)に向かふマスターと麻美とは一旦別れる。喪服姿の愛染塾長を、無理矢理官能的にだか叙情的に捉へ、きれてはゐないショットに噛ませてタイトル・イン。彩乃と、家に遊びに来てゐた近所の御隠居・城山(港)の、濡れ場のハチャメチャさに関しては既に語り尽くされて来たことなので割愛するが、彩乃が継いだ零細運送会社(有)「ヒロセ運輸」に、薄給故従業員が居つかないとの悩みの種が蒔かれる。といふかここは、導入のアヴァンギャルドの領域にすら突入しかねないプリミティブさは最早さて措き、愛染恭子×港雄一といふ合計年齢がやんごとない数値になりさうな顔触れによる絡みを、寧ろ有難く有難く押戴くのも酔狂の範疇に含まれはしないか。一方麻美も彩乃の下に向かつたマスターの目を盗み、カッコいいではなくあくまでカッチョいい彼氏でヒロセ運輸社員でもある、殿山(横塚)との情事を店内にて披露。そんなこんなする内に、ここは正直よく判らない設定だが大学在学中にヒロセ運輸への勤務込みでの就職を決めた、西川きよしならぬひろし(けーすけ)の歓迎会。何故かその場に同席するマスターは、その後も普通に朝食を、ヒロセ運輸の社屋兼彩乃宅に住まふ従業員と一緒に摂つてゐたりなんかする。かういつた辺りの描写が、m@stervision大哥が今作を変格未亡人下宿と目された所以なのであらう。話を戻して、城山の明後日な進言に素直に沿つた綾乃は、肉弾戦術と称して西川を筆卸、最低三年間は辞めないことを約束させる。おとなしく篭絡される西川も西川なのだが、何故か敵がけーすけだと、頓珍漢なシークエンスも何となく定着し得て見えるのは御大こと小林悟映画の魔法か、単に小生の病がいよいよ膏肓に入つただけのことか。癖のないイケメンを活かし、当時ピンクやエロ系のVシネに役者として数作参加してゐた現在映画監督の草野陽花は、ヒロセ運輸の真面目社員・東(あづま)。ひとまづ役者が揃つたところで、麻美の元カレを彩乃が排除しただのしないだのといつた、薮から棒な母娘の確執が放り込まれる。開巻など殊にそこに至るまで、彩乃と麻美の仲が悪さうな風情なんぞ1カットたりとも見受けられなかつたのだけれど。
 ヒロセ運輸の経営問題と麻美との親子問題とに揺れる、未亡人女社長の奮戦記。案の定といふか何といふか、性質の悪いスケコマシであつた殿山が会社の金を持ち出し姿を消す、一応大騒動を巻き起こしたまではいいとして、最終的にはこれといつた作劇の求心力ないしは説得力が発揮されることもないままに、何となくの勢ひでとりあへずの大団円に軟着陸する。本来ならばキチンと懲悪されるべき悪漢たる、殿山のトンズラ後の去就が綺麗に通り過ぎられて済まされる辺りに、やつゝけ感が爆裂する小林悟の逆噴射ビートは別の意味で鮮やかだ。それでゐて更にそこから、薮蛇気味に、といふか薮蛇でしかないのだが彩乃が従業員三冠をせんでもいいのに達成する対東戦に際しては、東が恋愛もセックスも否定する、宇宙真理教の信者であるなどとする破天荒なギミックも繰り出される。この、天衣無縫といふに値しよう闇雲な破壊力も、紛ふことなき御大仕事。素面の娯楽映画として面白いのか否かといつた、平板な議論はいつそのこと兎も角、愛染恭子が居て坂入正三がその周囲を取り巻き、客演ながら港雄一は二度も塾長戦を戦ひ更に後述する久保新二と薩摩剣八郎までもが、正しく賑やかしに降臨する。良くも悪くも小林悟の名前なくしては為し得なかつたであらう、案外味はひ深い、かも知れないルーチンワーク。塾長要素さへ凌駕し塗り潰す小林悟色は、実は何気に驚異的。前年、即ち今作からは翌年の撮影中に、文字通りの壮絶な戦死を遂げた遺作「川奈まり子 桜貝の甘い水」(2002)以降、新版公開されることも滅多になく、小林悟の映画に触れる機会はめつきり減つたどころか極々稀ともなつてしまつたが、個人的にはまだまだですらなくガンガン観たいし、世間(の片隅の)一般的にも、もう幾分生温かい目で玩味されてもいいのではあるまいかなどと、甚だしい錯乱を仕出かさぬでもない。
 オーラスに満を持して飛び込んで来る久保新二は、殿山が姿を消したヒロセ運輸に新加入する大法螺鯉三郎。当時既に五十前の、久保新二が新入社員といふ箆棒を打ち消す薩摩剣八郎は、歓迎会に同席する鯉三郎の何と父親・睦五郎。毒を以て毒を制すかの如く、一見ルーズに見えて攻撃的な配役だ。いや、矢張り適当なだけかも。因みに鯉三郎は牛乳瓶メガネに黄色いジャケットと赤いベストを華麗に合はせ、睦五郎は何時もの作務衣姿。清々しく束の間の出演時間とはいへ、彩乃の歓迎会肉弾二次会と麻美の三次会との狭間で混乱を来たした―何処で何を迷ふことがあるのか、といふ激しい疑問はこの際呑み込むことにする―鯉三郎が卒倒してしまふ間際に、「見たいハメたい舐めたい、の下三段活用」なる初見の大技と、持ちネタ「アシャアシャアシャ・・・・」をどさくさ紛れに叩き込んでみせる辺りは久保チン流石である。

 毎日決まつた時間に、綾乃の風呂を覗きに行くマスターが23分32秒中座する、営業中の居酒屋店内風景。三人見切れる客はL字型のカウンター画面左奥に福俵満、折れて中央が竹洞哲也、一番手前でほぼ後姿しか見せないのが、御大・小林悟その人である。それなりに接客する坂入正三まで含め、なかなか渋いショットだ。


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