真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「和服巨乳妻 不倫・淫乱・悶絶」(1998/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:夏季忍/企画:稲山悌二《エクセス》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/助監督:加藤義一/メイク:馬場一美/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:弁田一郎/照明助手:原康二/効果:中村半次郎/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:小島翠・田口あゆみ・林由美香・杉本まこと・尾崎和宏・久須美欽一)。脚本の夏季忍は、久須美欽一の変名。
 和服の前を完全に肌蹴た巨乳妻の、爆裂する自慰にて豪然と開巻、何はともあれといはんばかりのビート感が実に清々しい。
  最初のカットがプールのミサトニックな洋館は、資産家の石川悠三(久須美)邸。五年前に交通事故で前妻―遺影さへ登場しない―と下半身の自由を男性機能ごと喪つた石川は、実家工場への支援を盾に、先刻の巨乳妻・加奈子(小島)と再婚。夫が不能ゆゑ独り遊びに溺れる次第といふ、何気ない論理性が慎ましやかに光る。しかも猛烈に女の裸を見せる、ピンク映画とは、かくあるべきではなからうか。話を戻して、夫を車椅子に乗せ河原をお散歩。寂しげな石川が、抱いてやれない妻に浮気すら許容したその日、加奈子は家を訪ねて来た、都市銀行地方支店支店長代理として単身赴任中のかつての同僚・金井伸吾(杉本)と再会する。早速翌日、石川には着付け教室に向かふと称して外出した加奈子は、田舎住まひを嫌ひ残して来た、上司の娘でもある妻・直美(林)とは心を擦れ違はせる金井と密会、トーマス・マックナイトのポスターが貼られた金井自室で逢瀬を重ねる。公認直後の加奈子の翻心にも呆れるが、タップリとしたボリュームの金井との絡みを経た中盤、映画は本格的に壊れ始める。何時の間にか夜も更け遅くに帰宅した加奈子を、石川は不貞を疑ひ手篭めにでもするかのやうに激しく責める。舌の根も乾かぬ内に、とは正しくこのことだ。とはいへ自身は勃たないので、淫具を持ち出したそれはそれとして派手な見せ場を通過すると、今度はへべれけな繋ぎでいきなり一夜明けた直美の朝、時制のジャンプ具合が半端ない。昨晩豪遊し二日酔ひ状態の直美の傍らには、ホストクラブから持ち帰つた木村良平(尾崎)が。ここで見慣れない名前、かつ然程仕事をした形跡も見当たらない尾崎和宏は、簡単に譬へると少しだけ男前にした西村博之。要は八十年代の残滓を引き摺る、微妙なハンサムである。
 無闇に盛り沢山の濡れ場の合間を、僅かな僅かなドラマ・パートが曲芸のやうにすり抜けて行く様はある意味スリリングといへなくもないものの、直截に片づけてしまへば、水が流れるが如く展開は一応滞りなく進行する反面、物語本体も明後日から一昨日へと流れ消え去るやうな一作である。唐突感が煌く直美with間男登場後、今度は石川から資金の援助も受けるバーのママ・吹田礼子(田口)が電話越しにリング・イン。“いゝ男と歩いてゐた”、とプリミティブに加奈子の金井との不義を密告する礼子に対し、石川は改装資金を出汁に調査を依頼。即座に二人連れ添ふ加奈子と金井を尾行した礼子は写真も激写、更にそれを東京の直美にも送る。この際礼子の妙な名探偵ぶりを称へるべきなのか、それとも田舎町の狭さを嘆くところなのか。そこまでの礼子の活躍は、新田栄が実は秘かに誇る語り口の速さの中に含めて済ませられなくもないとして、ここから先の終盤に荒れ狂ふ無造作ないゝ加減さは、寧ろいつそシュールの領域にすら突入しかねない。ハニー・トラップを命ぜられた礼子は、酔はせた金井を首尾よく寝取る、全く以て有能な女だ。それはさて措きその現場にのこのこ鉢合はせさせられるべく、加奈子は金井の部屋へと向かふ。徐々に数字を上げるエレベータのデジタル階数表示に、体位を変へた礼子と金井の絡みが差し挿まれる、クロスカッティングの原初的なポップさは微笑ましい。問題なのは、こゝで映画史上空前の偶然が火を噴き、直美から泥棒猫にレイプの鉄槌を下すべく差し向けられた、木村も参戦してみせるドラマツルギーの過積載。「和服の女、間違ひないな」だなど危なつかしく標的を特定した木村は、狙ひ通り金井と礼子の情事を目撃し、ショックを受け部屋を飛び出して来た加奈子を捕獲、エレベータ内で犯す。事後恥づかしい写真も撮影した木村が、加奈子に投げる捨て台詞「奥さん、不倫はやめといた方がいゝぜ」。何故この男は私の不倫を知つてゐるのか、といふ身元が割れる危険性以前に、強姦もやめろ。最終的に筆を滑らせてみるがすつかり懲りた加奈子と、石川は満足気にヨリを戻す。さういふ次第で石川が一人勝ちを果たす結末には、名実ともの無体さに開いた口が塞がらないのも通り越し、この、妙な敗北感は一体何なのか。そもそも、冒頭石川の加奈子に対する浮気容認が、よくよく考へると感動的に余計なものに思へる。これさへなければ、まだしももう少しお話が順当に繋がるといふか、最低限破綻は来たさなかつたのではなからうか。遥か遠く銀河の彼方にそれどころではない、やうな気も激越にするけれど。


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