真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫旅行 恥悦ぬき昇天」(2009/製作:《有》幻想配給社/提供:オーピー映画/脚本・監督:友松直之/撮影:百瀬修司/照明:太田博/助監督:安達守・林雅之・菅原正登/撮影助手:大賀明義・鈴木聡介/メイク:江田友理子/スチール:山本千里/制作:池田勝る/編集:酒井正次/出演:亜紗美・山口真里・しじみ・藤田浩・如春)。
 確か女の方は有休を取つたとかいつてゐた割には、大胆にも社用のライトバンで温泉旅館へと向かふ、一組の男女。助手席の女は「オーピーリース」OLの沢村恵美(亜紗美)で、運転する男は同じ会社に勤める不倫相手の山田宏(藤田)。離婚する離婚すると口では繰り返す癖に、妻は次の子供を出産間近であつたりする山田と、恵美は別れる腹づもりでゐた。男女関係に際し山田がひけらかす、この期に俗流利己的遺伝子論に関しては苦笑も禁じ得ないがそれはさて措き、運転中に助手席から尺八を吹いて貰つてゐたカップルの車がクラッシュ。弾みで一物を噛み千切られた男は失血死し、女はその棹を喉に詰まらせ窒息死。以来、事故現場には失はれた男性自身を探し求める男の幽霊が現れる、などといふバッド・テイストな話をした上で、全く同じシチュエーションにも関らず山田は平然と恵美に口唇性行を乞ふ、どういふ神経をしてをるのだ。運転席の男の股間に顔を埋めた亜紗美の、窓に向けて突き出す格好になつた肉感的な尻が、抜群にいやらしくて素晴らしい。案の定車は危なつかしく蛇行しながらも、ひとまづ目指す矢野屋旅館に到着した二人を、若旦那の健司(如春)が出迎へる。宿に着いたら着いたで、入浴を主張する恵美と食事を求める山田とは早速対立。無作法な山田の喰ひ散らかし方に完全に臍を曲げた恵美は、一人で風呂に入りに行く。浴室でざんばら髪の女の幽霊を見た、恵美が上げた悲鳴に慌てて健司が飛び込んで来る一方、部屋で一人料理と酒に舌鼓を打つ山田を、女将の明美(山口)と、明美の妹で女子高生の沙織(しじみ/ex.持田茜)が歓待する。ところが不思議なことに、山田から健司の話を向けられた明美は、自分には確かに弟は居たが、既に死んでしまつたといふ・・・・
 普通に映画にせよ小説にせよ、物語に触れる習慣のある者ならばまあ途中でオチは読めてしまふであらう、いはゆる“意外な真相”とやらを丁寧に形にした、スマートな幽霊映画である。後述するがてんこ盛りの濡れ場でなほかつしなやかにストーリーを展開させつつ、六十分でネタを明かせて綺麗に映画を畳み込む。山田と恵美が、彼岸からの手招きに対し「行つとく?」、「しやうがないみたい・・・・」と終に観念するラスト・ショットに際しては亜紗美の、無愛想であると同時に色つぽい、独特の口跡がさりげなく火を噴く。ふざけたコントのやうに全篇を飾らない、効果のない効果音にさへ耳を塞げば、実はこれまで絶妙に作品に恵まれなかつた亜紗美にとつて、五作目(後藤大輔の『新・監禁逃亡』もカウントすれば六作目)にしてピンクに於ける初日が出たともいへるのではなからうか。

 磐石な構成に加へて今作の白眉は、オーピー前作「わいせつ性楽園 をぢさまと私」(主演:無月レイラ・野上正義)にも見られた方法論を更に前に推し進めた、浴室の恵美×健司に、居室の明美×山田×沙織。交錯する二組の絡みが次第にエスカレートして行く、クロスカンター濡れ場が圧倒的に素晴らしい。まづは入浴中といふことで勿論既に全裸の恵美が火蓋を切り、山田にカメラが戻るや、いきなり姉妹丼を完成せしめてゐたりする大飛躍で猛加速。以降居室と浴室の間をカットが切り替る毎に、煽情性のレベルを徐々に上げて行くと共に、予め終りかけた恵美と山田の男女のドラマをも進行させて行く一連の完成度は比類なく、正しくピンクで映画なピンク映画といふべき決定的な名シークエンス。松岡邦彦がエクセスと命運を共にする気配を漂はせないでもない中、目下のピンク最強は、渡邊元嗣でなければ友松直之に違ひあるまい。


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コメント
 
 
 
最強の称号は身に余りますが(笑) (友松直之)
2011-06-30 10:39:30
 この時はセックス場面が撮りたくて撮りたくて。そこを汲んでもらえてうれしいです。
 カラミだけでストーリーを進めるというか、カラミを、ある種の観客たちの休憩時間、にしたくなかったのですね。
 あっちとこっちでカップルがそれぞれ別の相手とカラミ、というのは、もっとも正しい展開なのですが、最近は使いすぎてネタばれな気も。
 それ以外に何かないか?と自問しながらも、また形を変えてやってみたい気もしています。
 
 
 
>最強の称号は身に余りますが(笑) (ドロップアウト@管理人)
2011-06-30 21:10:05
>あっちとこっちでカップルがそれぞれ別の相手とカラミ

 女の裸だけでなく、映画的なグルーブ感が何かかう、
 グワーッとやつて来て、圧倒されました。
 
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