真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「新妻の味 ONANIEと覗き」(1992『ザ・裏わざONANIE』の2010年旧作改題版/製作:新映企画株式会社/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:亀井よし子/撮影:千葉幸男/照明:渡波洋行/編集:酒井正次/助監督:国沢実/監督助手:石田孝/撮影助手:片山浩/照明助手:新井英夫/音楽:レインボー・サウンド/出演:麻川梨乃・本田美希・松田恵子・石神一・吉岡市郎・久須美欽一)。
 新婚の中田家、前夜の営みをタップリと通過した上で、夫の幸男(石神)は新妻の杏里(麻川)を残し、三日間の地方支社出張へと向かふ。表に出て幸男を見送る杏里に、御近所の清水聡(吉岡)が声をかける。ヌメヌメした好色さを漂はせる、吉岡市郎はなかなか得難いキャラクターだ。清水が自らに向ける邪欲に気付かない杏里に、清水の妻・晶子(本田)から電話が入る。出張美容師を呼んでゐるので、遊びに来ないかといふのである。そんなこんなで杏里も同席した清水家に、近所の主婦連に大評判の出張美容師・カール太田(久須美)登場。カール太田・・・・コントかよ。尤も、特にカール的なギミックが施されるでなく、若い以外は何時もの久須美欽一。カール太田は晶子の髪を整へると、目を丸くする杏里の前で躊躇みもせずにいはゆる“逆ソープ”サービスを提供。要はカール太田はさういふ業態の、半ば男娼であつた。折角セットして貰つたスタイルが、直ぐに乱れてしまふのは気にするな。後に起こる事件に対するリアクションに照らし合はせると、意外にも思へる気軽な素直さで、杏里は晶子に勧められるまゝに翌日カール太田を予約する。そして当日、亭主の居ぬ間に若妻が家に連れ込んだ間男といよいよ事に及びかけた時、カール太田に、次の予約客の田口妙子(松田)から電話が入る。営業トークとはいへ、目の前の自らはさて措き妙子に愛を囁くのに匙を投げ、杏里はカール太田を追ひ出す。ところで、妙子の部屋に貼られた馬鹿デカい「赤い光弾ジリオン」(昭和62)のポスターと、カール太田が美容師道具、と淫具とを入れ持ち歩くトランクに内臓式の、携帯電話は大いに時代を感じさせるアイテム。杏里の部屋で鳴つた電話にカール太田が何気なく出るので、一瞬新田栄の名前に引き摺られ、清々しい頓珍漢を仕出かしたのかと思つた。
 夫が家を空けた三日間の、若妻のアバンチュール。当初はライトな肌触りにも思はせておいて、不能を打開するためだとか大胆不敵といふか犯罪的に傍迷惑な方便―現に犯罪でしかないのだが―にて、ストッキングで覆面を施した清水は杏里を強姦。役立たずにもすつかり事後駆けつけたカール太田は薮蛇に杏里と距離を縮め、駆け落ちするだのしないだのといつた方向に転がる展開は、実は伏線も敷設済みであるとはいふものの流石に予測不能。そこに幸男が、旅支度を整へる杏里の前に予定を早めて帰宅。超絶に不自然な妻の風情に、頼むから幸男は触れて呉れ。ニュース番組テーマ曲のやうな劇伴鳴る中、―カール太田との待ち合はせ―に「行かせて!」と、夫婦生活に際しての「イカせて!」のダブル・ミーニングなどといふ、コロンブスの卵的な荒技を駆使する締めの濡れ場は、切ないのと扇情的なのと、激弾きされる琴線をどちらに振ればよいものやら戸惑ひも禁じ得ない、意外な名シークエンス。事実上杏里にフラれた格好のカール太田は駅から寂しげに姿を消す一方、満足気にシャワーを浴びる幸男に対し完全に箍の外れた格好で狂乱する杏里のエクストリームな自慰で、必ずしも綺麗に纏められてはゐない起承転結を振り逃げる。エレファントカシマシの宮本浩次似ながら、絶妙に当時風のアイドルの香りも残す主演女優を筆頭に、製作年次と新田栄作である点を鑑みれば奇跡的なラックにも思へるが女優三人がそれなりに粒揃ひゆゑ、変則的な構成の妙を見せる一作を、まあまあ楽しんで観てゐられる。但し甚だしく大きな疑問を残すのが、回復し晶子との夫婦仲を修復しすらした、清水に些かの懲悪も加へられない娯楽映画としてのバランスの悪さ。そもそも杏里とカール太田を結びつける目的のギミックとしてならば、清水の凶行は別に未遂でも構はなかつた筈ではなからうか。

 旧題にあるONANIEの裏技に関しては、カール太田排斥後に杏里は蒟蒻を持ち出し、一方カール太田を迎へ入れた妙子は、泥鰌を用意してゐたりする中盤で律儀に回収する。食べ物と生き物を粗末にしてばかりである、後にちやんと腹に入れたのかも知れないが。


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