真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「好きなをばさん 疼いてしやうがない」(1994『近所のをばさん2 -のしかかる-』の2004年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山崎邦紀/撮影:稲吉雅志・片山浩・丸北弘/照明:秋山和夫・荻野真也・近藤満次郎/音楽:藪中博章/助監督:佐々木乃武良/制作:鈴木静夫/効果:時田滋/スチール:岡崎一隆/出演:辻真亜子・吉行由美・田代葉子・栗原良・平賀勘一・太田始・甲斐太郎)。
 男根を正しく貪る、辻真亜子怒涛のイメージ・ショットで猛然と開巻。尺八の勢ひと速度が半端ない、喰ひ千切られてしまひさうだ。
 水商売上がりで今は定食屋「味茂」のパート店員・萩原野乃子(辻)は、あんまり客が無造作に“をばさん”“をばさん”と連呼することに激昂、店を飛び出して行く。その様子を、厨房の中から店長にしては少々若い、小椋義男(太田)が不安げに見やる。ところで、十年以上前に活動停止してゐる反面今でも根強いファンが居るらしい、文字通り熟女AV女優の辻真亜子ではあるが、新日本映像のエクセス公式サイトによれば―恐らく今作製作当時―御歳五十四歳。野乃子は腹を立てるものの、仕方もなからう、形式的にも実質的にもオバサン以外の何者でもない。帰宅した野乃子は、十年前のバー「アカネ」のママ時代に蒐集した、関係を持つた常連客の、魚拓ならぬいはゆるチン拓のアルバムに目を落とす。未来に繋げる為の過去を振り返ることを思ひ立つた野乃子は、チン拓の主を訪ね歩き、なほかつ十年後のチン拓も新たに取ることにする。ババアがチン拓を手にかつて体を重ねた男々を巡る、ピンク・ロード・ムービー。逃げ場のない熟女ものを製作するに際して、これほどまでに画期的なプロットを未だかつて観たことがない。トータルではそれどころではない衝撃に打ちのめされ忘れてしまひがちにもなりかねないが、このことは、確かに特筆されるべきであらう。
 最初に野乃子が訪問したのは、何かの製造会社の常務・桑島五郎(甲斐)。この期の来訪に脊髄反射で困惑しつつも過去の恥づかしい記録を突きつけられた桑島は、野乃子に社内でペロリと喰はれ、これで終つたかとひとまづ安堵したのも束の間、現在のチン拓を採集される。細かいのか重大なのかよく判らない瑣末に触れておくと、次のパートで再度同様の流れは繰り返されるが、ここは少々、順序がおかしくはあるまいか。壮年期の男を捕まへて、一度撃たせてからもう一度勃たせることには、それなりの困難が伴なふ場合も常識的に想起されて然るべきでは。ともあれ、野乃子を金輪際厄介払ひしたい桑島は、二度と自分には近づかないことを条件に、矢張り当時の常連客で現在は外資系企業の部長・原田真之介(平賀)と、ベストセラーを当て左団扇の出版社社長・松川勇二(栗原)の住所と連絡先とを野乃子に渡す。全く以て、個人情報並びに仁義といふ言葉を知らない常務さんである。今作のオアシスたる吉行由美は、原田の秘書、兼愛人の高見祐子。田代葉子は、松川の妻・絵美。
 ポルノグラフィーとしては、辻真亜子の五十四歳の肉体に喰ひつくには、まだまだ個人的には年季が幸か不幸か足りない。二作前の前作「近所のをばさん -男あさり-」(主演:辻真亜子)も、2000年に「破廉恥をばさん 欲しくてたまらない」と旧作改題されてゐる模様ではあるが、観たいものやら如何なものやら、激しく逡巡するところでもある。そんな次第で、正方向の煽情性に関しては兎も角、何をトチ狂つたか後に進んで地雷原に飛び込んで来る太田始のことは一旦措いておくとして、順に甲斐太郎・平賀勘一・栗原良(=リョウ=ジョージ川崎=相原涼二)。曲者揃ひの三人を辻真亜子が単騎で撃破して行く加齢なr・・もとい華麗なる戦記としては、変な方向に見応へがなくもない。この三人が、全員これほどまでに苦しい防戦を強ひられた印象は極めて珍しい。
 桑島のチン拓最新版を更新した野乃子が放つ名―もしくは直截に迷―台詞、「人に歴史ありね」、確かに歴史かも知れないけどよ。原田から野乃子に接触し十年前のチン拓を買ひ取ることを指示されながら、祐子がコロッと先輩同性に共感し懐柔される件の拍子の抜け具合。野乃子が松川と絶賛交戦中に、絵美が帰宅してしまふカットのテンポとてんこ盛りの笑かし処に、止めを刺すのは小椋。桑島・原田と連破したまではいいとして、松川に対しては絵美の闖入を招き当初目的を果たせず仕舞ひの野乃子の足は、ションボリと味茂に向かふ。すると一応伏線も敷設済みとはいへ小椋が、「こんなチン拓は捨てて、僕と一緒に未来を生きませう!」と藪から棒に情熱的な告白、そのまま雪崩れ込むクライマックスの壮絶な濡れ場。野乃子の肉体に、小椋は滅茶苦茶な舌鼓を打つ。「この弛んだ肉」、「この潮」、「腐りかけたこの匂ひ」。それで褒めてゐるつもりか、野乃子も腹を立てていいぞ。挙句に、「果物だつて肉だつて、腐る直前が一番美味しいんだ!」・・・・

 お前定食屋だろ!

 こんな変態が料理を作る危険な店では、絶対に飯を食ひたくはない。面白いのか詰まらないのかと問ふならば、少なくともピンク映画としては、別の意味で抱腹絶倒に面白い、ある意味圧倒的な快作あるいは怪作である。浜野佐知一流の平素の攻撃的な女性主義ではなく、今回はこれで意外と穏当な女性映画として実は手堅く纏められてゐる点は、不思議ですらある。
 更に細部を突くと、映画の神が微笑んだのか対原田戦に於いて、野乃子が履く年甲斐もないライトグリーンのパンティの、左尻の縫ひ目付近に小さな穴が開いてゐたりする辺りは妙にリアルである。更に更に、当然浜野佐知自宅である松川家で、松川と野乃子がチン拓を返せ渡さないと争ふ攻防戦。流石に男の力に押され気味の野乃子が自ら宝物のチン拓を手放すや、松川に覆ひ被さり責めに転じる逆襲も、実に秀逸な戦術といへるのではなからうか。

 ところで、劇中のキー・アイテムとなる野乃子のチン拓集のタイトルが、アルバムの表紙に「CHINPOLER'S FILE」。“チンポラー”てのは何々だよ、“チンポラー”てのは。斬新過ぎて最早言葉を失ふ。


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コメント
 
 
 
チンポラー (XYZ)
2010-11-19 03:32:26
多分、時期的にスピルバーグ監督の映画「シンドラーのリスト」のパロディだと思われます。
 
 
 
>チンポラー (ドロップアウト@管理人)
2010-11-19 07:39:02
 うわあ、成程!
 当然この空け者は「シンドラーのリスト」なんてまるで観ちやゐないので、
 不完全無欠に気が付きませんでした><
 
 
 
脚本タイトル (ヤマザキ)
2010-11-22 15:36:14
すっかり忘れてましたが、脚本の仮題が「チンポ等のリスト」でした。そんなところまで読み取って頂き、旧作改題公開も時には悪くないと思いました。なお『お前定食屋だろ!」の大文字のスルドイ指摘には、関係者ながら爆笑してしまいました。太田くんのこの呟きこそ、わたしの主モティーフだったのです。
 
 
 
>脚本タイトル (ドロップアウト@管理人)
2010-11-22 19:38:16
 これはこれは、斯様な僻地に御来訪頂き光栄の限りに御座います。

>脚本の仮題

 わはははは!わはははは!凄い、そこから膨らませて映画を一本撮れるんですね。
 スピルバーグにも見せてやりたい。早撮りの巨匠として知られるスピルバーグですが、
 撮影期間の短さならば、ピンク勢は決して遅れをとらないでせう。

>旧作改題公開も時には悪くない

 これは折に触れ繰り返す持論なのですが、
 未見の旧作は、未知の新作と何ら変りは無いとするものです。
 
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