真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「熟女たちの欲求 イジリ喰ひ」(2000『いぢめる女たち -快感・絶頂・昇天-』の2008年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:浜野佐知/脚本:山﨑邦紀/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/撮影:下元哲・アライタケシ/照明:上妻敏厚・河内大輔/編集:㈲フィルム・クラフト/音楽:中空龍/助監督:松岡誠・田中康文・小川隆史/録音:シネ・キャビン/現像:東映化学/出演:時任歩・里見瑤子・風間今日子・佐々木基子・鈴木エリカ・吉田祐健・なかみつせいじ・やまきよ/thanks:荒木太郎・国沢実・内藤忠司・加藤義一)。thanksの四人は本篇クレジットのみで、正確な位置は杉本まことと山本清彦の間。
 一流企業のエリート社員と、臆面もなくモノローグで自負する浦島慶一(やまきよ/a.k.a.山本清彦)は、頭に怪我をし急患で運ばれる。浦島はぼんやりと、こんな筈ぢやなかつたと回顧する。浦島は同僚の桃川友里(里見)を口説き、関係を持つ。急な物入りに見舞はれた浦島は、貯金を当てに友里に無心してみたところ、(貯金は)「私が幸せになるためのものなの!」と激昂した友里にビール瓶で頭を割られたのであつた。看護婦の吉田さつき(風間)は、そもそも浦島が金策に追はれる羽目になつた顛末に興味を示す。昨晩、イイ調子で酔つ払つた浦島は、公園でチンチロリンに興じる五人の浮浪者の群れに割つて入る。さりげなくも驚くほど豪華なspecial thanks勢は、その内の四人、最低一言は全員台詞も与へられる。最初は勝ち続ける浦島であつたが、五人のリーダー格・大熊蔓造(吉田)が四のゾロ目を出した瞬間、浦島は余所に一同の顔色が変る。凄んで一千万支払へと詰め寄る大熊を、浦島は悪い冗談かと一笑に付すが、五人は完全に本気であつた。その夜のチンチロリンは、臓器移植の闇ルートで、捌けるボディ・パーツは全て金に換へるスペシャル・ルールの、命懸けのラスト・チンチロリンであつたといふのだ。恐れをなした浦島は逃げ帰るが、如何に調べ上げたものか、大熊は家にまで取立てに押しかけた。と、浦島が語り終へたところでどういふ訳でだか、俄かにさつきが欲情してゐたりする辺りはピンクとはいへ流石に少々粗雑ではあれ、風間今日子のオッパイに免じてさういふ無粋はいふまい。割られた頭を縫つたばかりなのに一戦交へた浦島が眠りに就いてゐると、大熊は病室にまで現れる。
 佐々木基子は、茫然自失とひとまづ退院した浦島を病院前で拾ふ、取引先の女社長・小倉由美子。“関良平映画のミューズ”鈴木エリカは、由美子の秘書・北原和美。浦島の窮状を看て取つた由美子は、二百万の返さなくともよい金、いはばギャラで、和美も交へて三人のセックスの模様を収めるプライベート・ビデオに出演するやう持ちかける。主演作では傍若無人な自由奔放ぶりを炸裂させる鈴木エリカも、幸なことに今作に於いては、佐々木基子の陰でおとなしくして呉れてゐる。といふか、要は浜野佐知がおとなしくさせた格好なのか。
 由美子から得た二百万、更には自らの貯金四百万。浦島は六百万を渡すも、大熊は残り四百万と頑として首を縦には振らなかつた。なかみつせいじは、もうどうしやうもなくとぼとぼ夜の街を彷徨ふ浦島に声をかける、中年女性・マリリン。階段の踊り場で事に及び、相手が女装子であるのを漸く知つた浦島が騒ぎ始めると、「マリリン怒つちやつた!」とポップに大激怒。手錠で浦島を手摺に固定し、平素よりも過分に動物的な腰使ひで後門を犯す。事後吐いた捨て台詞が、「オカマをバカにすんぢやないよ」、「アタシたちだつて、一生懸命生きてるんだからさ!」。それは判らぬではないが、今作あれこれ浦島が遭ふ酷い目の中でも、一際恐ろしいシークエンスではある。
 最早自暴自棄気味に更にウロつく浦島は、半ば最期に温かい酒が飲みたくなり、一軒の赤ちやうちん「ふく仙」の暖簾を潜る。店は遺産を得た田並美江(時任)が買ひ取つたものの、女将が美江に変つてから、客足は途絶えがちであつた。
 例外の殆どない、基本的には男客相手に女の性を商品化することを宗とするピンク映画にあつて、頑なに女の主体性、あるいは女性優位を謳ひ続ける浜野節は、攻撃的なタイトルに比して今回は比較的控へ目。強ひていふならば友里のストレートな利己主義や、さつきや由美子のアグレッシブな好色が挙げられようが、それらは何れも、仔細を側面から彩る枝葉に過ぎない。代つて最終盤には夢をメイン・モチーフとした、力技ともいへ情感豊かな人情ドラマへとシフトしてみせる。男の主人公が、翻弄され続けた末にとはいへ、最後は新しい未来を手に前を向いたラストを迎へる映画といふのは、この人の場合結構以上に珍しいのではなからうか。受身ながらに劇中先頭を走るのは常に浦島で、最後に登場する、そして終の女の美江にしても、ポジションとしてはあくまで浦島の脇を飾るに止(とど)まる。更によくよく顧みてみるならば、今作は豪華にも四大女優と飛ばせなかつた飛び道具、更には飛び過ぎるマリリンまで擁しておいて、驚く勿れ実は全員濡れ場要員であるとすらいへるのではないか。ともいへ時任歩に関しては、閑散としたカウンター席に、浦島と二人並ぶショット。抜群に素晴らしい映画的叙情を漂はせる深い眼差しが、木に竹を接いだといへなくもない展開に、大いに説得力を付与した功績は高く評価出来よう。個人的にはオーラス「ふく仙」に、<死んだ筈の>大熊まで含め全ての登場人物が集ひ和やかに飲み交し食ひ笑ふ、大団円が設けられてゐて良かつたやうにも思へるが、浜野佐知の強靭な論理性は、そのやうなものは芸を欠く予定調和、あるいは惰弱と一瞥だにせぬところであるのやも知れない。


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