真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 昨年九月末に消滅した旧本館より戯れのサルベージ企画、今回は二年前の正月、郷里に帰省した際に観に行つた、隣り町の尾道に当時一般公開されてゐた戦艦大和の実物大セットについての思ひ出である。いふに事欠いて“思ひ出”とは何事か。改めて振り返るが戦艦大和の実物大セットとは、「男たちの大和」(2003/製作・音楽総合プロデューサー:角川春樹/配給:東映/監督・脚本:佐藤純彌/特撮監督:佛田洋)の撮影で実際に使用されたロケセットのことである。

 焼夷弾に関して、「大きな打ち上げ花火だと思つてください」(仮名遣ひを改めるのみで原文ママ)、だなどと呑気が唸りを上げ炸裂する珍解説が付けられてゐたり、土産物のコーナーでは、何の変哲も無い従来からある旧態依然とした尾道土産に、無理から大和のシールが貼られて売られてゐたりと、大和の実物大セットは普通に一地方都市の観光スポットとして機能してゐた。大東亜戦争を忌避する者からも美化する側からも、さういふ光景に対しては何かと難癖つけたくもなりかねない雰囲気ならば酌めぬではないが、ひとまづかうして、尾道に人が集まり、そして金を落として行くといふことは、綺麗事だけでは片付かぬ日々の生活の中では、それはそれとして、その限りに於いてのみであつたとしても、矢張り結構なことに違ひない。事の是非は一旦さて措くと、今生きてゐる人間は、けふの飯を喰はなくてはならないのだ。
 艦首から艦尾までの全てが再現されてゐる訳でないことは兎も角、第一主砲と艦橋上部はCG合成であるといふことで、想像、あるいは希望してゐたものと若干趣は異なつてゐた。鉄で出来てゐるかと思へばベニヤであつたりと、間近で見てみれば案外安普請であつたりもしつつ、それにしても矢張りデカい。少し引いて眺めてみれば、予想以上に壮観である。これならば、エンジンを積み替へれば大宇宙の彼方にまで航行出来るであらうことも、十分容易に肯ける(出来ねえよ)。あんなにコスモタイガーをわらわらと胴体に艦載することは、流石に無理だとしても(だからさういふ問題ではない)。
 元々その場にあつたオンボロの建物に(普段使つてあつたのか否かも最早判らないレベル)急拵へた資料スペースも、容れ物の割に中身の方はそこそこに充実してあつた。買つてはゐないので恐らくはといふ推測であるが、パンフレットから転載した白石加代子の、かういふちやんとした映画を多くの若い人達に観て貰ひたい、といふコメントは胸を打つた。阿川弘之氏の、『大和を思ふ』と題された小文には更に胸を撃ち抜かれた。当時既にとつくに時代遅れであつたことが明らかであつた筈の、超巨大戦艦大和。それはたとへ無用の長物であつたとしても、それでも尚のこと矢張り、当時の日本のひとつの結実、ひとつの到達点であつたのだ。確かに無用ではあつたとしても、大和は決して無駄ではなかつたのだ。決して大和を無駄にしてはならないのだ。といふ内容で、結果論の泣き言といつてしまへばそれまででもあるが、衷心から時代を超え世代を超えて心に響く名文であつた。ただ、一箇所(×二回)仮名遣ひの誤りが見られたのが気になつた。あれは阿川氏御本人の筆の誤りなのか、それともアホタレの担当者が仕出かしたのか。
 大和は、正月早々大勢の人出で賑はつてゐた。普通に一地方都市の観光スポットとして機能、と先に述べたが、映画は素通りして純然に物見有山で訪れた方も多いのであらう。さうした向きの中から一人でも、もしも劇場にフィードバックされたならば、それでれつきとした正解ともいへるのではないか。土産物コーナーの一角には、封切り三週目にして未だ全国共通の劇場前売り券が売られてあつた。それはとりあへずいいとして、謎なのは。確か千三百円である筈の前売りが、千二百円で売られてゐたことである。値が崩れたのか?

 映画本体に関しては。ドラマ・パートは求心力を欠いたグランド・ホテル、航空機その他のCG合成は毎度の東映特撮ではあつたが、実物大セットの上で、若年兵中心の(最早若年兵しか残つてはゐなかつたのだ)日本軍が虫ケラのやうに無残に命を散らして行く、壮絶な悲壮は確かに見応へがあつた。三十点以下の映画を期待して観に行つたところ(どういふ屈折した期待だ)、六、七十点の映画であつた、といふのが概評である。長淵師範が、主題歌に留まらず本篇の中にまで出張つて呉れてゐたならば、もつと期待通り映画の底も抜けたのに。だから何だ、その明後日を向いた期待は。後、仲代達也の役は生きてゐれば室田日出男の役であつたらう、とは思ふ。仲代達也では幾分男前過ぎる。

 資料スペースに於いて佐藤純彌のフィルモグラフィーの中から、「北京原人」がシレッと無視されてゐたことには笑つた。


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