真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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丸見えやり抜き温泉
関根和美
/
2010年10月27日
「
丸見えやり抜き温泉
」(2010/製作:関根プロダクション/提供:オーピー映画/監督:関根和美/脚本:関根和美・新居あゆみ/撮影:下元哲/照明:代田橋男/助監督:新居あゆみ/スチール:小櫃亘弘/編集:有馬潜/録音:シネキャビン/撮影助手:浅倉茉里子/照明助手:榎本靖/監督助手:新井愁一/効果:東京スクリーンサービス/現像:東映ラボ・テック/出演:倖田李梨・鈴木ミント・里見瑤子・なかみつせいじ・久保田泰也・天川真澄)。ポスターには選曲が山田案山子とあるが、本篇クレジットには載らない。
舞台は伊豆大室高原の和風ペンション「るりいろ」、主人の高谷剛志(なかみつ)は妻・ルリ(倖田)を三年前に亡くし、現在は四年前に離婚したルリの双子の妹・清水美紀(当然倖田李梨の二役)に手伝つて貰ひながらどうにか切り盛りするも、どうにも仕事には熱が入らない。ところで「るりいろ」の物件は、必ず表札乃至は看板を抜く変なところで律儀な小川欽也とは異なり、明示的には捉へられないが、小川欽也や深町章の伊豆映画で御馴染みの
花宴
である。ここで改めて振り返つてみると、関根組が遠方にロケを張るのは実は結構久し振りで、些か記憶が覚束ないが「
兄嫁の谷間 敏感色つぽい
」(2008/主演:平沢里菜子)での地元パートがさうでなければ、水上荘映画である「
未亡人温泉 女湯でうなぎ昇り
」(2007/主演:瀬名ゆうり・佐々木基子)まで遡るといふことになる。話を戻して、年に一回命日に幽霊として「るりいろ」に戻つて来るルリは、何時までも未だ立ち直れぬ夫と、いつそ一緒になつてしまへばいい妹との、矢張り何時までももどかしい関係にヤキモキしてゐた。そんな中、幽霊スポットの取材に訪れた雑誌記者の大槻可愛(鈴木)と、可愛とは男女の仲にもある怖がりカメラマン・見附真治(久保田)。二人に続いて、戯画的に思ひ詰めた風情の永沼庸平(天川)と妻・敦子(里見)の夫婦が、「るりいろ」に宿泊する。巫女の血を引き霊感があるとの可愛にはルリの姿が見え、何やらシュウヘイといふ家族が重病だとかいふシリアスな事情を抱へてゐるらしき永沼夫妻は、まさか心中目的で伊豆にやつて来たものではなからうかと、美紀と剛志は早とちる。
特段瑞々しくもないがポップなシークエンスばかりが鏤められた、ラブコメ調の幽霊譚。シュウヘイは実はペットの亀で、庸平も敦子も別に死なうといふ気などさらさらないといつた真相は清々しく他愛ないが、ルリの霊力で回復したシュウヘイが、藪から棒にガメラよろしく空を飛び永沼夫妻は驚喜する傍ら、美紀と剛志は仰天するといふ羽目外しは、近年の関根和美にしては打点が無闇に、あるいは無駄に高い。久方振りのロケ撮影に、大ベテランも思はず心を弾ませてしまはれたのであらうか。とはいへルリが可愛の力も借り、剛志と美紀を結びつけようとするのは麗しい王道展開で、ハッピー・エンドにまで綺麗に辿り着く物語にはホンワカと温かい気持ちにさせられる。画期的に珍しく高打率のギャグ演出を、猛烈に加速するなかみつせいじ一流の大オーバー・アクトも素敵だ。突出したものは一欠片たりとてないまゝに、だからこそ逆に完成されてゐるといへなくもない、敷居の低いウェル・メイドな娯楽映画である。風呂を浴びる可愛にルリがファースト・コンタクトを試みる浴室の件。一旦はルリはこの世のものではないため鏡には映らないといふ描写を経ておきながら、別のカットでは特に工夫するでもなく可愛に並んでルリも平然と浴室鏡に映り込んでゐたりする無頓着さは、最早天衣無縫と通り過ぎよう。尤もあへていはずもがなをいへば、かういふ時にキャスト如何によつては無理にジタバタした回避を強ひられることもある一般映画に対し、寧ろ当然の要請として乳も尻も思ひきり放り出してみせればいい、ピンク映画の大らかさも尊びたい。
一箇所ユニークなのが、本筋には一切関らない純然たる繋ぎの準濡れ場として、下元哲―もしくは松原一郎―映画に於ける定番といふべき、排尿の愉悦に打ち震へる女のショットが、可愛を主体に構図も趣向も全く同様に差し挿まれる。最終的には同じ下元哲がカメラを回してゐる以上、さういふいはばコピーが生じてしまふことも然程不思議ではない、ともいへるのかも知れないが、自監督作時と比べると若干緩めの画質まで含めて、さりげなく御愛嬌である。
厨房での剛志とルリの夫婦生活に鼻の下を伸ばす、初老客二人は暖簾で半分顔も見えず、何れも不明。オーラスに声のみ登場する関西人の女編集長は、新居あゆみと考へてまづ間違ひあるまい。
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