真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
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福岡市在住のピンクス。ピンクスとは、ピンク映画愛好の士、を意味する造語である。
仮名遣ひは正仮名を使用。
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尼寺の御不浄 太股観音びらき
新田栄
/
2010年10月05日
「
尼寺の恥部 見られた御不浄
」(2001『尼寺の御不浄 太股観音びらき』の2010年旧作改題版/製作:サカエ企画/提供:Xces Film/監督:新田栄/脚本:岡輝男/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/撮影:千葉幸男/照明:高原賢一/編集:酒井正次/スチール:佐藤初太郎/助監督:田中康文/音楽:レインボー・サウンド/監督助手:北村隆/撮影助手:前井一作/照明助手:石井拓也/効果:中村半次郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:滄麗美・林由美香・佐々木基子・色華昇子・石川雄也・丘尚輝・久須美欽一)。
くどいやうだが、新田栄の尼もの映画といへば御馴染み大成山
愛徳院
。本山に命ぜられ二十四の若さで庵主となつた浄泉(滄)が、寺に代々秘かに伝はる張形を用ゐ汲み取り式の手洗ひにて自慰に耽つてゐたところ、気が付くとお互ひにあらうことか、便槽の中に潜んだ久須美欽一が太股観音びらき―然し超絶のタイトル・センスだ―の女陰を下から覗いてゐた。この大らかなアナーキーさはもう少し顧みられてもいいやうな気がするのは、純然たる、断固たる気の迷ひに違ひない。
新田栄が爆発的なスタート・ダッシュを何気なく決めるオープニング・シークエンスを経て、愛徳院を、子供を授からぬことから夫の両親に離縁させられてしまつた、根本かなえ(佐々木)が修行を志望して訪ねる。夫・鈴木勇也(石川)との夫婦生活をついつい想起してしまふかなえの肩に、浄泉が己は棚に挙げ警策を与へつつ、ひとまづ修行は続く。と、いふのが起承転結でいふと起。
浄泉が自室で写経してゐると、息急き切つたかなえが飛び込んで来る、女が駆け込んで来たといふ。匿つた女・池田弥生(色華)を風呂に入れた浄泉は驚く。着替へを届けてみると、弥生はオッパイもうつすら膨らんでゐたものの、何と棹もついてゐたのだ。性同一性障害を主張する弥生は、髪だけでなく行く行くは男性自身も下ろすつもりだと、へべれけな覚悟で浄泉に愛徳院に置いて呉れるやう哀願する。かと思へば舌の根も乾かぬ内に、「ワタクシ、女として、女を愛したい!」と世界の最周縁で愛欲を叫ぶや凄惨な濡れ場を敢行する。尼僧が御不浄で便壷に隠れた久須美欽一に恥部を見られたかと思へば、レズビアン志向のニューハーフなどといふ、変則的な飛び道具が来襲する。何とファンタスティックな尼寺なのかとクラクラさせられるここまでが、前半を締め括る起承転結の承。これでそれなりに締め括れてしまふのは、最早不可思議の領域に足を踏み入れた世界だ。
正確には承部のエピローグを占める、秘かに今作にあつての、何はともあれベクトルの極大値を叩き込む繋ぎの一幕に関しては後回しにするとして、明後日から一昨日へと流れ過ぎるやうに映画は後半戦に突入。老人ホームの慰問にと寺を離れた浄泉に久須美欽一が改めて接触する一方、姿を消したかなえを追つて、勇也も愛徳院を訪れる。郷土史研究家といふ一面も持つ田治見洋二(久須美)は浄泉に、室町時代から愛徳院に伝へられるとされる、隠し本尊を用ゐた秘儀を乞ふ。犯罪的な歳の差はさて措き、夏子(林)の婿養子として田治見コンツェルンに入つた洋二は然れども贅沢にも不能に悩み、愛徳院秘伝の儀式には、男性機能の回復に関する効があるとのこと。とはいへ浄泉は、隠し本尊の存在自体を知らなかつた。ところで鬼ならぬ仏の居ぬ間に、男子禁制の尼寺にあつて堂々と奪はれかけた夫婦の絆を勇也と再確認してゐたかなえを、浄泉は晴れ晴れと前向きに破門する。そんなこんなが、開巻を回収しながら本筋への道筋をつける、起承転結の正しく転換部。
正味な話関根和美映画並みの、ルーズな編集を駆使する浄泉と洋二の夢オチ情事―正直この絡みは、別に要らないやうに思へる―を通過した浄泉の夢枕に、室町時代最初に愛徳院秘儀を執り行つた浄海(滄麗美の二役)が立つ。浄海に導かれ浄泉は張形の納められた木箱の中から、鍵を発見する。遂に姿を現した隠し本尊とは、判り易くいふと
抱き枕サイズの長大な張形
。何だか段々、新田栄と岡輝男はもしかすると映画史に名を残すべき大天才なのではなからうかとすら思はず血迷つてしまふのは、致命的に疲れてゐるからに絶対に間違ひない。隠し本尊に跨りガンガン腰を使つた浄泉が、やがて腿を伝ひ滴り落ちるいはゆる愛液を、別にロケーションは他にもあるやうな疑問は蹴散らし、便槽の中から口を開け舌を出し待ち構へる洋二の口に垂らせる、といふのが件の儀式。三ヶ月後、かなえと洋二とからそれぞれ子宝を授かつたとの吉報を受け取つた浄海が、けふもスタッフの何れかか若い男相手に秘儀に明け暮れるのが、のうのうと全篇トレースしてのけたがそこそこに据わりのゴキゲンなフィナーレである。
夫婦関係に際して繁殖行為を最重要視する前時代性に関しては、脊髄反射的な反発を主に大いに評価も別れよう。尤も本稿に於ける評価としては、かなえと勇也、洋二と夏子それぞれの営みに一応豊かに込められる情感に免じて、その点は等閑視したい。その上で、例によつてツッコミ処過積載の底抜けプロットに惑はされるでなく、強ひて冷静な鑑賞を試みるならば、さりげなく完璧な起承転結の構成に支へられ磐石の、悶々とした肉欲に対する葛藤からも開放された主人公まで含めると、二段三段構へのハッピー・エンドを麗しく迎へる一作は、そこはかとなく抜群の安定感を誇る。その安定感の源を自足に見るか自閉と見做すかの相違は、開明的たらんとするがゆゑに、先に述べた夫婦観の是非に拘泥するか否かによつても生じて来ようが、ここはピンク映画をピンク映画固有の論理で読み解くべく目論むピンクスとしては、細かい野暮はいはずにそれはそれとして、これはこれでも新田栄愛徳院映画の中では、幾分高目の水準作と憚りながら称へるものである。
そんなこんなで意外と順当な人情映画とも思はせておいて、唯一人弥生に対しては、ドライな無体が軽やかに火を噴く。そこに香るのは百合の花かはたまた毒キノコの放つ腐臭か、オバQ顔のニューハーフVS.破戒尼僧だなどと、ディストラクティブな一夜とカット明けるや、丘尚輝(=岡輝男)登場。このくらゐの木に竹の接ぎ具合は、寧ろ然程でもないかのやうにこの期には錯覚しかねないが、実は代議士の息子であるとの弥生を黒塗りのセダンで連れ戻しに来た風間恭介(丘)に、浄泉は小指を動かすほどの抵抗を示すでもなく、寧ろ微笑みすら浮かべ易々と引き渡してみせる。
仏の慈悲も、オカマには届かぬと申すか
、などといふのはためにする方便で、実際には綺麗な見殺しぶりが、可笑しくて可笑しくて仕方がなかつた。
以下は再見に際しての付記< ラスト便槽で待機してゐるのは若き日のタナヤス
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