酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「希望のかなた」~多様性と寛容の精神に溢れた傑作

2017-12-31 15:39:17 | 映画、ドラマ
 このブログは俺にとって遺書代わり、ボケ防止の備忘録だ。付き合ってくださった忍耐強い読者の皆さまに、心から感謝したい。来年も社会の隅っこでブツブツ呟いているだろう。

 沖縄への振興費がカットされ、柏崎刈羽原発6・7号機の安全性に規制委がお墨付きを与えた。この流れと軌を一にして、埼玉県議会は原発再稼働を求める意見書を可決した。生活保護は削減され、ユニセフのレーク事務局長は日本の子供が貧困状態に懸念を表明したが、16%という数字はこの国の貧困率をそのまま反映している。

 「板子一枚下は地獄」がこの国の現実だ。かく言う俺も下流老人予備軍で、10年後を想像すると暗い気分になる。だが、軍事費を削減して割高の米国製武器輸入を中止するだけで事態は好転する。問題なのは、お上に唯々諾々と従う奴隷根性が染みついていることだ。

 世界の趨勢に異を唱える映画を先日、ユーロスペースで見た。アキ・カウリスマキ監督の新作「希望のかなた」(2017年)である。<カウリスマキのトランプへの返答>という予告編のキャッチそのままで、多様性の尊重と寛容の精神に溢れた、映画納めに相応しい作品だった。

 主人公のカーリドはシリアを脱出し、放浪の旅を経て、石炭まみれでフィンランドに流れ着いた。演じたシェルワン・ハジもシリア出身である。助演のサカリ・クオスマネンはカウリスマキ組で、謎めいた実業家ヴィクストロムを演じている。

 「それでも僕は帰る 若者たちが求め続けたふるさと」で描かれていたように、シリアは地獄の様相を呈している。一方で、世界で最も住みやすい国のひとつに挙げられているフィンランドでさえ難民に厳しく、カーリドは強制帰国を余儀なくされる。街中では人種差別主義者に付きまとわれた。

 謎めいたと評したヴィクストロムは、経営する服飾会社を畳んでレストランのオーナーになる。ポーカーでプロたちを打ちのめし、裏街道にも顔が利く。「ディーバ」のゴロディッシュを彷彿させる怪しいオーラを放つヴィクストロムは、カーリドに救いの手を差し伸べた。
 
 カウリスマキの作品に共通するのは、登場人物の目力だ。ヴィクストロムだけでなく、3人の従業員も拗ね者、アウトサイダーの目の奥に、反骨精神と義侠心を秘めていた。チームの一員になったカーリドの心残りは、生き別れになった妹の安否だった。さらなる共通点を挙げれば音楽で、カーリドもアラブ圏の伝統楽器サズの演奏を披露していた。

 本作のラスト、穏やかな表情のカーリドに<チーム・ヴィクストロム>の一員、犬のコイスティネンが近づく。ハッピーエンドとはいえない苦い後味だが、個としてのささやかな優しさ、逆説的な希望の意味をカウリスマキが示してくれた。ヴィクストロムたちが寿司屋に転じるシーン、BGMで流れる歌謡曲も違和感は覚えなかった。

 最後に、映画館で今年見た作品からベストテンを以下に。
①「The NET 網に囚われた男」
②「アイ・イン・ザ・スカイ」
③「わたしは、ダニエル・ブレイク」
④「沈黙~サイレンス」
⑤「はじまりへの旅」
⑥「パターソン」
⑦「希望のかなた」
⑧「女神の見えざる手」
⑨「十年」
⑩「マンチェスター・バイ・ザ・シー」

 「ありふれた悪夢」、「幸せなひとりぼっち」、「人生タクシー」、「永遠のジャンゴ」、「太陽の下で」と続く。「相棒劇場版Ⅳ」も見応えがあった。来年の映画初めは「キングスマン:ゴールデン・サークル」の予定だ。「花筐 HANAGATAMI」も楽しみにしている。

 それでは皆さま、いい年をお迎えください。

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