ロシアのウクライナ侵攻が世界を震撼させている。ウクライナのNATO、EU加入を阻止したいロシアの暴挙に、世界が「NO」を突き付けている。両国を巡る歴史的な経緯は知らないが、資源大国ロシアとグローバルな軍需産業の思惑が、背後で蠢いているのだろう。
コロナ禍のさなか、世界はおぞましさを纏っているが、それは日本も変わらない。福井県の高校演劇祭で福井農林高の女子部員2人が演じた「明日のハナコ」がケーブルTVでオンエアされなかったことが、「週刊金曜日」、ラサール石井のコラム(仕事先の夕刊紙)で紹介されていた。「週刊金曜日」は脚本中に再現された元市長や北野武の原発礼賛発言に、高校演劇連盟が忖度した可能性を示唆している。教育現場における言論抹殺に愕然とするしかない。
テアトル新宿で「さがす」(2022年、片山慎三監督)を見た。舞台は大阪で通天閣近くである。主人公の原田智(佐藤二朗)と娘の楓(伊東蒼)、山内照巳(清水尋也)の3人の主観がカットバックしながら、目に見える世界と裏側にある真実が暴かれる。別稿(21年12月22日)で紹介した「悪なき殺人」と手法が近い〝タイムトリップムービー〟で、再構築された時間で真相に誘われる。智がハンマーを振り回す謎めいたシーンは、後半に繋がっていた。
楓が夜の街を必死に走る姿で物語は始まる。行き先はスーパーの管理室で、智が店長と警官の前で力なく座っていた。少額の品を万引したという。普通の父娘と逆の構図で、料金を払った楓は智をボロクソに詰る。仕事をしないだけでなく、食べ方が汚く臭い。でも、心は通じている。
ストーリーの紹介は最小限に記したい。智は楓に<指名手配犯の顔を偶然見かけた。賞金300万円がかかっている>と打ち明けた直後、姿を消した。警察はまともに対応せず、楓は担任の蔵島先生(松岡依都美)、楓に思いを寄せている豊(石井正太朗)の協力で父を捜し始める。楓は父と同じ「原田智」の名前で工事現場に派遣されている青年を見つける。身長が高いやせ形で、父とは似ても似つかない。その男こそポスターで見かけた通称名無しこと山内照巳だった。
時間は遡り、自殺願望のある女性で自称ムクドリ(森田望智)と山内との関わりが描かれる。逃走中の山内を保護したのは果凛島でみかん栽培を営む老人(品川徹)だった。論理を弄び狂気を秘めた山内を演じた清水尋也の存在感に瞠目させられる。22歳だが、映画やドラマで実績を積んでいることを知った。智役の佐藤二朗に注目したのは「ひきこもり先生」(21年、NHK)で、楓役の伊東蒼も出演していた。
一歩引くと、破綻しているような気もする。「相棒」の杉下右京なら、事件の全容をたやすく解明しただろう。だが、細かい点は別に、作品を疾走させるシーンの数々が記憶に残っている。第一は、楓が通天閣の近くで山内を自転車で追跡するシーンだ。街の人情も描かれ、楓は父に繋がる痕跡を入手する。伊東の目力と豊かな表情に魅せられた。
智の妻、そして楓の母である公子(成嶋瞳子)は筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っていた。死を望む公子と智のやりとり、そして2人が交わすキスシーンに心を揺さぶられた。そして、ラストの智と楓の卓球シーンで、物語の真相が明らかになる。楓は単に智をさがしていたのではなく、父の心の奥深くに入り込んでいた。パトカーのサイレンが、エンドマークの後を暗示している。
余韻が去らない作品だが、肝というべきは感情を殺した佐藤の演技だったのか。佐藤二朗、伊東蒼、そして清水尋也の今後に注目していきたい。
コロナ禍のさなか、世界はおぞましさを纏っているが、それは日本も変わらない。福井県の高校演劇祭で福井農林高の女子部員2人が演じた「明日のハナコ」がケーブルTVでオンエアされなかったことが、「週刊金曜日」、ラサール石井のコラム(仕事先の夕刊紙)で紹介されていた。「週刊金曜日」は脚本中に再現された元市長や北野武の原発礼賛発言に、高校演劇連盟が忖度した可能性を示唆している。教育現場における言論抹殺に愕然とするしかない。
テアトル新宿で「さがす」(2022年、片山慎三監督)を見た。舞台は大阪で通天閣近くである。主人公の原田智(佐藤二朗)と娘の楓(伊東蒼)、山内照巳(清水尋也)の3人の主観がカットバックしながら、目に見える世界と裏側にある真実が暴かれる。別稿(21年12月22日)で紹介した「悪なき殺人」と手法が近い〝タイムトリップムービー〟で、再構築された時間で真相に誘われる。智がハンマーを振り回す謎めいたシーンは、後半に繋がっていた。
楓が夜の街を必死に走る姿で物語は始まる。行き先はスーパーの管理室で、智が店長と警官の前で力なく座っていた。少額の品を万引したという。普通の父娘と逆の構図で、料金を払った楓は智をボロクソに詰る。仕事をしないだけでなく、食べ方が汚く臭い。でも、心は通じている。
ストーリーの紹介は最小限に記したい。智は楓に<指名手配犯の顔を偶然見かけた。賞金300万円がかかっている>と打ち明けた直後、姿を消した。警察はまともに対応せず、楓は担任の蔵島先生(松岡依都美)、楓に思いを寄せている豊(石井正太朗)の協力で父を捜し始める。楓は父と同じ「原田智」の名前で工事現場に派遣されている青年を見つける。身長が高いやせ形で、父とは似ても似つかない。その男こそポスターで見かけた通称名無しこと山内照巳だった。
時間は遡り、自殺願望のある女性で自称ムクドリ(森田望智)と山内との関わりが描かれる。逃走中の山内を保護したのは果凛島でみかん栽培を営む老人(品川徹)だった。論理を弄び狂気を秘めた山内を演じた清水尋也の存在感に瞠目させられる。22歳だが、映画やドラマで実績を積んでいることを知った。智役の佐藤二朗に注目したのは「ひきこもり先生」(21年、NHK)で、楓役の伊東蒼も出演していた。
一歩引くと、破綻しているような気もする。「相棒」の杉下右京なら、事件の全容をたやすく解明しただろう。だが、細かい点は別に、作品を疾走させるシーンの数々が記憶に残っている。第一は、楓が通天閣の近くで山内を自転車で追跡するシーンだ。街の人情も描かれ、楓は父に繋がる痕跡を入手する。伊東の目力と豊かな表情に魅せられた。
智の妻、そして楓の母である公子(成嶋瞳子)は筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患っていた。死を望む公子と智のやりとり、そして2人が交わすキスシーンに心を揺さぶられた。そして、ラストの智と楓の卓球シーンで、物語の真相が明らかになる。楓は単に智をさがしていたのではなく、父の心の奥深くに入り込んでいた。パトカーのサイレンが、エンドマークの後を暗示している。
余韻が去らない作品だが、肝というべきは感情を殺した佐藤の演技だったのか。佐藤二朗、伊東蒼、そして清水尋也の今後に注目していきたい。