酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

相対主義、公正世界仮説 ウイズ&アフター・コロナの後景に見えた都知事選

2020-07-05 22:36:05 | 社会、政治
コロナ禍のさなか、九州地方は深刻な豪雨の被害に見舞われた。行政の手厚い対策と一刻も早い原状回復を願っている。

 都知事選の投票を済ませてパソコンを立ち上げると、ワイヤレスのマウスが不調でポインターが消えていた。ビックカメラに直行し、購入したコード付きマウスを繋いだら、小池当選確実の速報がアップされていた。予測通りに進んだ理由を考えてみた。

 この国で<正義>を語れば冷笑の対象になる。信念に基づいて怒りを表現したら即〝炎上〟だ。日本だけではないが、<正義>の価値が低下した理由として、前稿で紹介した斎藤幸平大阪市大准教授は〝悪しき相対主義〟を挙げていた。斎藤はマルクス・ガブリエルとの対話(「未来への大分岐」)で、「〝悪しき相対主義〟の典型はガザ。ホロコーストを利用し、弾圧が身に染みているのはユダヤ人だけとの前提で、パレスチナ人の苦しみを顧みない」と記していた。

 「国家安全法」を施行して市民を弾圧する中国の陰に隠れ、イスラエルはトランプ大統領を後ろ盾にヨルダン川西岸併合を画策している。香港とパレスチナが<悪>に蹂躙される光景に絶望感と無力感を覚えつつ、有効なパンチを放てるか自問した。思い浮かんだのは沖縄だ。民意を無視して辺野古埋め立てを強行する自公政権は明白な<悪>で、埋め立て事業者は安倍首相に近い企業である。日本人が香港やパレスチナに連帯するための第一歩は、この国から<悪>を駆逐することだ。

 俺は小池氏の冷酷さ、ヘイト集団と変わらぬ差別的体質を批判してきた。加えて、五輪と選挙を意識し、補償に消極的なコロナ対策も明白な失敗だ。だが、都民は是とした。重なったのは「逃亡者」(6月23日の稿)で中村文則がテーマに据えた心理学用語<公正世界仮説>だ。簡潔に説明する。

 <社会が理不尽で危険と思うと人は不安になるから、問題があると感じても認めない。誰かが被害を訴えた時、あなたにも落ち度があったと被害者を批判する>……。蔓延すれば、権力者(小池知事)に阿り、自己責任論を当然と受け入れることになる。これが東京、そして日本の主音なのだ。

 今回の選挙でウイズ&アフター・コロナの正しい形が提示されることに期待していた。コロナ禍は〝身体性〟を武器にしてきた山本太郞候補に不利に働いたはずだ。街宣のネット中継は今後も効力を発揮するはずだが、フェスのような空気を醸成し、伝播させることで山本は支持を広めてきた。俺が今回、山本氏に否定的だった理由のひとつは、気候危機への政策に不十分さを感じてきたことにある。

 上記の斎藤氏は民主党ミシガン州予備選での得票率を分析していた。社会主義を掲げるバーニー・サンダースは18~24歳で83%、25~29歳で81%、30~39歳で62%の票を得ていた。オカシオコルテス下院議員らサンダース・チルドレン(民主党プログレッシヴ)は全米で勢力を伸ばしている。英国でも同様で、若年層で党内最左派のジェレミー・コービン労働党前党首への支持は高い。「ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー」(ブレイディみかこ著、新潮社)にも、コービンに憧れる10代前半の中国系の少年が登場する。

 英米の例はビフォア・コロナ時代だが、貧困層が増え、失業者が街に溢れるアフター・コロナ時代には、公正を求める声がさらに大きくなるはずだ。五輪中止は確実で、適格な補償を訴える抗議にさらされることに小池氏は堪えられるだろうか。変わり身が早い〝女帝〟は都政をほっぽり出し、国政に逃げ込むタイミングを計っているはずだ。

 アフター、否、アンダー・コロナに必須の政策――綿密なコロナ対策、多様性の尊重、グリーンニューディールの実践、格差是正、弱者救済etc――を政策集に組み込んだ宇都宮健児候補の声は届かなかった。NHKの出口調査では、18、19歳の80%近くが小池支持だったという。彼らの目に、宇都宮、山本両氏は映っていなかったのだろう。

 欧米や香港との若者との意識の違いに愕然としたが、日本の未来を担う若者にとって俺みたいに御託を並べるジジイは桎梏でしかないはずだ。それでも、無意味なニヒリズムには手を染めない覚悟は出来ている。
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