酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

グリーンリカバリーはウイズ・コロナ時代の指針になり得るか

2020-07-29 21:37:59 | 社会、政治
 ソーシャルディスタンス、希薄になった死者への思い、格差とパンデミックの相関関係etc……。人類はコロナに様々な課題を突き付けられた。習近平、トランプ、プーチン、ボルソナロ、ドゥテルテらの強権的な言動に暗澹たる気分に陥ったが、希望が消えたわけではない。

 独メルケル首相はロックダウンに際し、<私は東独出身だから、移動の自由を制限する意味は身に染みている>と苦渋の思いをのぞかせた。コロナ禍で多くの政治家が<哲学>を示したが、彼らは自由、公正、民主主義に価値を置く強靱な市民社会に支えられている。

 安倍首相や小池都知事に<哲学>の欠片も感じないが、日本人が日常的な活動と無縁であることの必然の帰結であることを、オンライン連続セミナー<気候危機とコロナ危機 新しいシステムを求めて>(25日、グリーンズジャパン主催)で再認識する。

 第5回のテーマは<公正な税制とグリーンリカバリー>で、講師の岸本聡子さんは「トランスナショナル研究所」(アムステルダム)に所属し、欧州を拠点に市民運動に関わっている。「水道、再び公営化! 欧州の水の闘いから日本が学ぶこと」(集英社新書)の著書もある。

 EUではコロナ危機で停滞した経済を、気候変動を抑え、生態系を守りながら立て直す<グリーンリカバリー>がクローズアップされている。岸本さんは財源と税制を踏まえて報告したが、そもそも理解度が低い上、レジュメのダウンロードに失敗したので、大雑把な内容になることをご容赦願いたい。

 〝強靱な市民社会〟と上記したが、<コモン=全ての人にとっての共用財、公共財>を重視する運動がここ数年、欧州で力を増している。その軸と位置付けられているのが水道再公営化。今回のセミナーで言及された<コモン>は、水道だけでなく食料、教育、エネルギー問題にも波及し、民主主義の本質を問うムーブメントになっている。

 コロナ禍で浮き彫りになったのは、<コモン>である病院の縮小だ。市場原理優先で医療・福祉予算が削減されたことが全世界でパンデミックを深刻にしている。岸本さんが期待を寄せるのは、<ミュニシパリズム>を掲げる自治体連合で、6月のフランス地方選では緑の党の市長が4人誕生した。
 
 市民の政治参加、公共サービスの再公営化、地方公営企業設立、地元産の再生可能エネルギー活用、市政の透明性を掲げるのが<ミュニシパリズム>で、スペインやイタリアにも広がっている。岸本さんは市民と市政を結ぶプラットホームを構築した<ミュニシパリズム>発祥の地バルセロナの具体的な施策を挙げている。格差と貧困の克服を目指し、スペインでベーシック・インカムが導入された。

 コロナ禍で損失を出した企業を救済するため税金が投入されるが、欧州ではリーマン・ショック時の経緯――企業が生き残って増収し、格差が拡大――を踏まえ、縛りをかける動きが顕著になっている。タックス・ヘイブン関連企業を除外、従業員に一定の賃金を保障、病院援助、市民の経営参加などの条件を付ける案が議論されている。

 欧州のグリーンディールと、英米のグリーンニューディールの違いについて別稿で記した。体制内改革か、ポスト資本主義を見据えるかの差は大きい。岸本さんは前者の側(企業)によるロビー活動の凄まじさを語っていた。一方で、バーニー・サンダースが提唱したグリーンニューディール、英労働党の提言を高く評価する。

 欧州では気候正義のみならず、若い世代が運動の前面に立っている。翻って日本では、第3回セミナーで講師を務めた斎藤幸平氏がマルクス・ガブリエルとの対談で言及したように、相対主義、冷笑主義が高度のファイアウォールを構築し、若者は沈黙している。
  
 世界標準が日本の非常識になっていることをここ数年、痛感してきた。反原発集会で供託金違憲訴訟の署名を集めていた時、<供託金がなかったら有象無象が立候補して混乱する>と詰め寄られた。<先進国に例を見ない莫大な供託金によって、国会は中下流層の苦しみが届かない貴族院になり、結果として民主主義を阻害している>と反論しても無視される。戦争法反対を訴える人の大半が死刑賛成というアンケート結果に愕然としたことがあった。

 欧州だけでなくカナダ、コロンビア、オセアニア、アフリカでグローバルグリーンズ(90カ国以上)は躍進しているが、その一員で<多様性とアイデンティティーの尊重>を前面に掲げるグリーンズジャパンをカルト扱いする人もいる。かつて日本人はいい意味でミーハーだった。ガラパゴス化した日本は中国と別の方法でファイアウォールを張り巡らせてしまったのか。今回のセミナーで覚えたのは、欧州への羨望と日本の現状への絶望だった。

 今稿から絵文字をやめます。悪しからず。
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