酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

ハラリの危機感と希望~民主主義はポスト・コロナに生き長らえるか

2020-05-10 23:45:28 | カルチャー
 俺は地球温暖化による生態系破壊を新型コロナ発生の原因とひとつと考えている。世界的な生産活動休止で二酸化炭素排出量が急減しているが、残念なニュースもある。今年1~4月のアマゾン森林破壊面積は前年同期比55%増となり、過去最高を記録した。新型コロナは終息しても、新たなウイルスが人類を襲うだろう。

 ローソンの試みに心が和んだ。道の駅出荷を予定していた農家は自粛で大打撃を受けたが、新鮮さが命の産直野菜や果物はGW中、ローソンの一部店頭に並ぶ。配送を担ったのは経営難の高速バス会社だった。苦境に直面した者が手を携える<シェアする精神>こそ、ポスト・コロナの肝になるだろう。

 感染者の数は減っているが、世界は日本のPCR検査数の少なさに疑惑の目を向けている。BBCは<日本の感染者数は28~70万>との試算を紹介していた。日本政府は東京五輪開催を既成事実化するため検査数を最小限にとどめているのかもしれないが、世界の目は欺けない。

 人類はAI、ビッグデータ、5Gなどテクノロジーを駆使してウイルスを封じ込めようとしている。<連帯>と<民主主義>に多くの識者が言及しているが、ETV特集「緊急対談~パンデミックが変える世界 ユヴァル・ノア・ハラリとの60分」NHK・BS1)は示唆に富む内容だった。聞き手は道傳愛子キャスターである。

 歴史学者のハラリは冒頭、喫緊の課題を提示する。コロナ蔓延が国家崩壊に繋がりかねない第三世界への対応と、ウイルスの突然変異だ。スペイン風邪(実はアメリカが発生源)の例を挙げ、感染者増が致死率の高いに変異をもたらす可能性を指摘していた。史実に則れば、第2波に備えるためというスウェーデンの<集団免疫方式>は最悪の結果を招くかもしれない。

 民主主義は緊急時にこそ機能するべきと考えるハラリは、<ポスト・コロナで独裁が常態化するのではないか>と危惧している。ハラリは私権と自由の制限は終息後も継続され、拡大解釈した政権が〝お友達〟に便宜を図る可能性を指摘した。

 時代に先行したのが安倍政権だ。ビフォア・コロナで森友、加計、桜と隠蔽・捏造を繰り返し、身内のレイプ記者不起訴に続き、高検検事長を検事総長に据えようと画策している。コロナ蔓延は民主度を測る格好のリトマス紙だ。初動ミスを棚に上げ、安倍首相は「緊急事態対応を憲法に盛り込むべき」と憲法改正への執念を隠さない。

 ハラリは国民監視に警鐘を鳴らしている。個々の行動を把握する<ハイパー独裁>は中国から全世界に広がっているが、更に深刻なのは皮膚の下にまで監視が及びつつあることだ。健康アプリは体温、血圧、動悸だけではなく、その先にある感情までチェック可能で、「虐殺器官」(伊藤計劃、2007年)に描かれた生体情報収集が現実になっている。

 テルアビブ在住のハラリはイスラエルの監視体制に疑義を示す。<感染拡大阻止を治安当局が担当することに、パレスチナ人が納得しないことは理解出来る。保健機関を軸にウイルス蔓延をチェックすることが,イスラエルだけでなく全ての国に必要>と語っていた。

 最も記憶に残ったのは<EMPOWERMENT=市民に力を与えること>である。健康データだけでなく、気候変動などあらゆる情報を国家と個人が双方向で共有することが独裁を防ぐために必要と語っていた。むろん、市民の側にも責任は生じる。<民主国家では全ての市民は活動家であるべき>というマイケル・ムーアの言葉が甦った。

 トランプ大統領がWHOへの拠出停止を発表した直後、ハラリは100万㌦の寄付を発表した。「何億もの人が職を失っている時、生活に困っていない者は出し惜しみするべきではない」とのコメントを添えたハラリは、賛同のメッセージだけでなく、「なぜ母国イスラエルではなくWHOなのか」との非難を浴びせられる。

 ハラリは<テルアビブの病院は新型コロナの遺伝情報を中国とドイツから受け取り、イタリアとアメリカから最良の治療法を教わった。協力がなければテルアビブの病院は無力になり、ワクチンの開発は不可能>と答えた。ハラリは「連帯と協調こそ、現在の人類に求められている」と主張する。

 マルクス・ガブリエル同様、ハラリはユーモアと茶目っ気に溢れ、問いかけによどむことなく答える。柔らかく鋭い〝知の最前線〟に感銘を覚えた。「必ず人類はコロナを克服する」と繰り返し希望を語ったのが印象的だった。
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