酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「欲望の資本主義」の彼方にあるもの

2019-01-22 22:21:02 | カルチャー
  BSプレミアムで昨秋再放送された「ハゲタカ」(全6話)を録画し、12年ぶりに見た。時代設定はバブル崩壊後の90年代後半からリーマン・ショックまでの約10年。<誰かが言った。人生の悲劇は二つしかない。一つは金のない悲劇。そして、もう一つは金のある悲劇>……。冒頭のナレーションが、宿命に紡がれたドラマの本質を抉っている。

 堀江貴文氏や村上ファンドが耳目を集めた時期、メディアに躍った「ゴールデンパラシュート」、「プロキシーファイト」、「ホワイトナイト」、「バイアウト」がストーリーに織り込まれている。「ハゲタカ」と罵られる鷲津(大森南朋)、常にコストカッター担わされる柴野(柴田恭兵)……。恩讐を超えた両者が〝目に見えない価値(情と矜持)〟で結ばれる展開に熱くなった。

 「ハゲタカ」が格好の予習になったのが「欲望の資本主義~偽りの個人主義を越えて」(BS1、前後編)だ。世界7カ国の知のトップランナー12人の提言に学ぶことが多かった。今週末に第17回「脱成長ミーティング」に参加するが、そこで交わされる議論と重なる部分が大きいはずだ。本稿と次々稿で本番組について記すことにする。

 <ハイエクVSケインズ>がクローズアップされていたが、俺はフリードリヒ・ハイエクの名を知らなかった。新自由主義の提唱者と評され、著書「隷従への道」を愛読したサッチャーは、レーガンとともに市場の自由を提唱し、規制緩和、民営化、減税(富裕層)を推進する。小泉元首相もこの流れを引き継いだ。

 新自由主義は格差拡大をもたらした。〝諸悪の根源〟と見做されたハイエクだが、自由と民主主義に絶対的な価値を置いていた。「ハイエクはハイジャックされた」と語るトーマス・セドラチェク(チェコの経済学者)の分析は、恐らく的を射ている。「後継者を自任したフリードマンがハイエクの思いを歪めた」とハイエク信奉者が語っていたからだ。

 市場の自由が社会の自由をもたらすのか、それとも自由の抹殺に繋がるのか……。現状を見れば後者に理がある。その点について、ハイエクとケインズ、それぞれの後継者の間で論争が繰り返されてきた。メルクマールになったのはリーマン・ショックで、資本主義の暴走の前に鳴りを潜めていたケインズが脚光を浴びる。

 翻って今、日本で何が起きているのか。別稿(昨年11月28日)に記した研究所テオリア主催のシンポジウム「日本の政治と社会を立て直す」で杉田敦法大教授が、安倍政権を支える4本の柱を新自由主義、国家社会主義、排外主義、内閣中心主義と分析していた。新自由主義と国家社会主義(日銀の市場への介入)の混在は、乱暴に言えば、それぞれハイエクとケインズに溯る。
  
 <暴走する資本主義を止めるもの>は社会主義だと当ブログで記してきた。アメリカ、とりわけ民主党支持者に社会主義が浸透している。当番組でもそのことを感じた。ホワイトハウス前の反トランプ集会である参加者は、「この国で1億4000万人が貧困に喘いでいる」と嘆いていた。

 マルクス主義者の集会で、ムスリムの女性が「2017年で富裕層の資産は25%増加した」と訴えた。「今という時代は自由の罠に陥っている。社会主義的な政策で富を正しく分配することが自由への道>と説くヒスパニック系の若者の主張は、そのままトマ・ピケティだ。

 上記のトーマス・セドラチェクに加え、俺の心に最も響いたのはマルクス・ガブリエル(ドイツの哲学者)とユヴァル・ノア・ハラリ(イスラエルの歴史学者)だ。両者はともに<疎外>をベースに論を組み立て、欲望の資本主義を補強しているGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)を俎上に載せる。人間の欲望を操る司祭といえるGAFAの時価総額はドイツのGDPを超えた。スタートアップ企業を買収し、独占化を進めている。

 ガブリエルは「GAFAは我々に労働を強いる。フェイスブックの〝いいね〟象徴される無意味なことを、意味のあることに感じさせられている。それはまさに労働で、SNSは最もダーティーなカジノだ」と断言する。ハラリもまた、自ら作った技術や仕組み(パソコンやスマホ)に支配される人間に危機感を抱き、GAFAが形成する<監視資本主義>に警鐘を鳴らす。「20年後、世界中でトマトを売っているのはアマゾンだけ」と予言していた。

 次々稿では、「脱成長ミーティング」の報告に加え、本番組で提示された資本主義とGDPの関わり、分散型システムへの志向について記すことにする。
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