酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

静謐と狂気、繊細と野性~アンビバレンツな友川ワールドに浸る

2017-12-20 21:44:26 | 音楽
 齢を重ねるとは、消しゴムのカスだらけになることだろう。アンテナは錆び付き、好奇心は後退する。素晴らしいシーンに出合っても、既視感を覚えるだけだ。ここ数年、俺のノートから多くのものが消えた。NFL、欧州サッカー、WWEに関心がなくなり、スポーツといえば競馬、そして横浜ベイスターズだ。

 61歳にもなれば、最先端(とされる)のロックを追いかける気にもならない。今年購入したCDは20枚前後だが、フリート・フォクシーズ「クラック・アップ」、グリズリー・ベア「ペインテッド・レインズ」、モグワイ「エブリ・カントリーズ・サン」、ステレオフォニックス「スクリーム・アバヴ・ザ・サウンズ」に加え、The1975の2ndアルバム(昨年発売)が愛聴盤だった。

 ライブに足を運んだのはPJハーヴェイ、遠藤ミチロウ×PANTA、シガー・ロス、PANTA「クリスタルナハト30周年記念ライブ」、ミューズ、そして先日の友川カズキの6回だ。5組のアーティストの共通点は、表現方法は異なるが世界観を確立していることである。

 〝チーム・ミューズ〟の壮大かつ精緻なライブから1カ月、「友川カズキ阿佐ヶ谷ライブ」(阿佐ヶ谷ロフト)はアコギ一本の手作りだった。形式は対極だが、スケール感は引けを取らない。オルタナプロジェクト(大場亮代表)の端くれである俺にとって、友川で一年を締めるのは3年連続になる。

 オープニングアクトの火取ゆきは友川のカバー「サーカス」などを、ギターをかき鳴らして熱演する。火取は来年早々、心臓の手術を受け、しばし休養するとのこと。恒例の友川の年末ライブには元気な姿を見せてほしい。続いて登場した友川は、遠藤賢司への弔意を込めて、「ギターのチューニングしてくれた4人のうち、清志郎と遠藤が亡くなった。三上寛もそのうち……」と語り、笑いを誘っていた。

 順不同にセットリストを挙げると、「生きてるって言ってみろ」、「椿説丹下左膳」、「彼が居た-そうだ!たこ八郎がいた」、「グッドフェローズ」、「夜へ急ぐ人」(ちあきなおみへの提供曲)、「ワルツ」、「エリセの目」、「一人ぼっちは絵描きになる」、「青いアイスピック」、「家出青年」、「三鬼の喉笛」etc……。勘違いで演奏していない曲もあるはずだ。

 それぞれの曲に静謐と狂気、繊細と野性のアンビバレンツがちりばめられ、冷徹、諦念、絶望、孤独を表現しながら叙情に包まれている。友川の創造性と独自性、そして哲学的な詩は、晩年の大岡昇平を感嘆させた。

 頭脳警察のメンバー、遠藤ミチロウと共演することも多く、前衛的なミュージシャンとアルバムを作ってきた。その活動はフォークシンガーにとどまらない。今稿を書くに当たって知ったのは福島泰樹(歌人)との交流だ。情念を身体性で表現するという点で両者には共通点がある。

 友川は先月、アメリカに渡った。ニューヨークでは狂気を秘めた若者が200人集まり、友川の歌に感応する。画家でもある友川はニューヨークとロサンゼルスでは美術館を訪れ、たっぷり時間を費やす。「当然のことだけど、絵は現物を見るに限る」と強調していた。訪米が新曲への刺激になったはずだ。

 友川はモノローグと叫びで表現する。合間のMCもラディカルで魅力的だ。反原発、ホームレスの痛み、政治の腐敗を訴え、自虐的、自嘲的に語る。「射殺してやる」が乱暴な口癖だが、優しさを隠すための〝偽悪〟かもしれない。当夜が仕事納めで、原稿(平松洋子との往復書簡)を書き上げた後、競輪グランプリに向けて深い思索にこもるはずだ。

 友川について一層、興味が湧き、来年1月13日のワンマンライブに申し込もうとしたが、既に落語会の予定が入っていた。いずれにせよ、〝年相応〟のイベントである。友川は33枚のアルバムを発表しているが、俺が持っているのは3枚きりだ。旧作を集めて少しでも理解を深めたい。
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