大橋巨泉さんには様々な思いを抱いている。集中治療室でがんと闘う老リベラリストに心からエールを送りたい。
サッカー欧州選手権決勝トーナメント1回戦で、イングランドは小国アイスランド(人口30万人強)に逆転負けを食らった。EU残留派も離脱派も等しく打ちひしがれているに相違ないが、EU諸国がわがままな英国の離脱を歓迎しているのは明らかだ。
意外といえば、スペイン総選挙でポデモスが伸び悩み、第3党にとどまった。英国離脱を踏まえ、バランス感覚が働いたとみる声がある。格差と貧困の是正を訴えるポデモスは、EUを<グローバリズムの象徴>と捉えている。一方でスコットランド国民党は、EUが掲げる<排外主義の克服、調和と公正>を支持し、UKからの離脱を表明した。理想と現実が錯綜し、ラディカルとリベラルが対立するパズルは、難解というしかない。
前々稿で「FAKE」(森達也監督)について記したら、貴重なコメントを頂いた。俺は違和感を覚えながら、大団円に引きずられていった。森は同作を〝壮大なフェイク〟として提示した可能性もある。「FAKE2」を期待したいが、騙されていることが心地良さをもたらすこともある。「アベノミクス」もまた、麻薬的フェイクの一種なのだろう。
先週末、高坂勝、白川真澄の両氏が主宰する第11回「脱成長ミーティング」(ピープルズ・プラン研究所)に参加した。大河慧氏と高坂氏の報告に続いてディカッションとなる。大河氏ら経済学者、メガバンク行員、官僚、自営農家らの言葉に説得力を覚えた。
「この経済政策が民主主義を救う」(松尾匡著/大月書店)に反論しつつ、脱成長とアベノミクスについて考えるというのが今回のテーマだった。<現政権を超える大胆な金融緩和と財政出動策こそ、反安倍の結集軸になる>との松尾氏の主張を、大河氏は綿密に分析していた。松尾氏の志向と与党が準備しているヘリコプターマネーとの差別化は難しく、巨額の財政負担が若い世代に先送りされるだけというのが、大河氏の結論だった。
松尾氏の大目標は民主主義の実現(≒憲法改悪阻止)だが、脱成長と方法論が真逆だ。その点を説いたのが高坂氏である。〝成長すること、成功すること、お金を得ること〟の呪縛から解放され、会社を辞めて自営農家になる若者が取り上げられるようになった。ミニマリズムの浸透につれ、高坂氏のメディア露出は増えている。
高坂、大河、白川の3氏は、アベノミクスの数々のフェイクを提示した。安倍首相は事あるごとに「有効求人倍率は24年ぶりに1・34の高水準」と自画自賛するが、生産年齢人口はバブル期の8600万人から7600万人に減少している。分母が大きくマイナスになれば、指標が押し上げられるのは当然なのだ。「100万以上の雇用を増やした」が首相の口癖だが、この3年で増えたのは170万弱の非正規雇用である。
「2012年度から税収が21兆円増えた」らしいが、これもまやかしだ。12年度はリーマン・ショックと東日本大震災の影響で税収がダウンした。そこから増えるのは自然の成り行きだが、第1次安倍政権時から増えた7・5兆円は消費税アップ分である。何より最悪なのは郵貯とGPIFから計15兆円が株式投資に回され、国民の年金資産が消失したことだ。北欧やアイスランドなら実刑を食らってもおかしくない失政を、首相は恥じる様子もない。
実質賃金は下がり続け、トリクルダウンなど不可能だ。消費増税延期の会見で、首相の本音=「増税を前提にした社会保障費の充実は難しくなった」が明らかになる。日本政府は韓国の1・5倍以上の金額でイージス艦を輸入している。2艇減らして3000億円を浮かしたら、介護に携わる人たちの賃金を5万円アップできる。軍事費から福祉をキーワード゙に、税金の使い方をチェックすべきだ。
脱原発、反戦争法、脱成長とミニマリズム、反差別、IターンとUターン……。多くの日本人の意識が変化しつつあるのに、政治は変わらない。そんな風に議論が進行したので、俺は持論を述べた。<永田町の地図に収斂させようとするから、ダイナミズムが失われてしまうのだ>と。では、誰が変化を吸い上げるべきか……。「本来なら緑の党もその役割を担うべきなのに」という忸怩たる思いが、高坂、白川氏の表情に窺えた。
脱成長は経済の在り方だけでなく、ライフスタイルの転換にも関わってくる。論理と情念、冷徹と情熱のアンビバレンツによって、ケミストリーを起こすことが求められている。格好のお手本というべきはピケティだ。
サッカー欧州選手権決勝トーナメント1回戦で、イングランドは小国アイスランド(人口30万人強)に逆転負けを食らった。EU残留派も離脱派も等しく打ちひしがれているに相違ないが、EU諸国がわがままな英国の離脱を歓迎しているのは明らかだ。
意外といえば、スペイン総選挙でポデモスが伸び悩み、第3党にとどまった。英国離脱を踏まえ、バランス感覚が働いたとみる声がある。格差と貧困の是正を訴えるポデモスは、EUを<グローバリズムの象徴>と捉えている。一方でスコットランド国民党は、EUが掲げる<排外主義の克服、調和と公正>を支持し、UKからの離脱を表明した。理想と現実が錯綜し、ラディカルとリベラルが対立するパズルは、難解というしかない。
前々稿で「FAKE」(森達也監督)について記したら、貴重なコメントを頂いた。俺は違和感を覚えながら、大団円に引きずられていった。森は同作を〝壮大なフェイク〟として提示した可能性もある。「FAKE2」を期待したいが、騙されていることが心地良さをもたらすこともある。「アベノミクス」もまた、麻薬的フェイクの一種なのだろう。
先週末、高坂勝、白川真澄の両氏が主宰する第11回「脱成長ミーティング」(ピープルズ・プラン研究所)に参加した。大河慧氏と高坂氏の報告に続いてディカッションとなる。大河氏ら経済学者、メガバンク行員、官僚、自営農家らの言葉に説得力を覚えた。
「この経済政策が民主主義を救う」(松尾匡著/大月書店)に反論しつつ、脱成長とアベノミクスについて考えるというのが今回のテーマだった。<現政権を超える大胆な金融緩和と財政出動策こそ、反安倍の結集軸になる>との松尾氏の主張を、大河氏は綿密に分析していた。松尾氏の志向と与党が準備しているヘリコプターマネーとの差別化は難しく、巨額の財政負担が若い世代に先送りされるだけというのが、大河氏の結論だった。
松尾氏の大目標は民主主義の実現(≒憲法改悪阻止)だが、脱成長と方法論が真逆だ。その点を説いたのが高坂氏である。〝成長すること、成功すること、お金を得ること〟の呪縛から解放され、会社を辞めて自営農家になる若者が取り上げられるようになった。ミニマリズムの浸透につれ、高坂氏のメディア露出は増えている。
高坂、大河、白川の3氏は、アベノミクスの数々のフェイクを提示した。安倍首相は事あるごとに「有効求人倍率は24年ぶりに1・34の高水準」と自画自賛するが、生産年齢人口はバブル期の8600万人から7600万人に減少している。分母が大きくマイナスになれば、指標が押し上げられるのは当然なのだ。「100万以上の雇用を増やした」が首相の口癖だが、この3年で増えたのは170万弱の非正規雇用である。
「2012年度から税収が21兆円増えた」らしいが、これもまやかしだ。12年度はリーマン・ショックと東日本大震災の影響で税収がダウンした。そこから増えるのは自然の成り行きだが、第1次安倍政権時から増えた7・5兆円は消費税アップ分である。何より最悪なのは郵貯とGPIFから計15兆円が株式投資に回され、国民の年金資産が消失したことだ。北欧やアイスランドなら実刑を食らってもおかしくない失政を、首相は恥じる様子もない。
実質賃金は下がり続け、トリクルダウンなど不可能だ。消費増税延期の会見で、首相の本音=「増税を前提にした社会保障費の充実は難しくなった」が明らかになる。日本政府は韓国の1・5倍以上の金額でイージス艦を輸入している。2艇減らして3000億円を浮かしたら、介護に携わる人たちの賃金を5万円アップできる。軍事費から福祉をキーワード゙に、税金の使い方をチェックすべきだ。
脱原発、反戦争法、脱成長とミニマリズム、反差別、IターンとUターン……。多くの日本人の意識が変化しつつあるのに、政治は変わらない。そんな風に議論が進行したので、俺は持論を述べた。<永田町の地図に収斂させようとするから、ダイナミズムが失われてしまうのだ>と。では、誰が変化を吸い上げるべきか……。「本来なら緑の党もその役割を担うべきなのに」という忸怩たる思いが、高坂、白川氏の表情に窺えた。
脱成長は経済の在り方だけでなく、ライフスタイルの転換にも関わってくる。論理と情念、冷徹と情熱のアンビバレンツによって、ケミストリーを起こすことが求められている。格好のお手本というべきはピケティだ。