酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「あまくない砂糖の話」~資本主義の矛盾を突く激辛ドキュメンタリー

2016-04-13 23:02:06 | 映画、ドラマ
 別稿(3月29日)で記したが、3月26日に開催された「原発のない未来へ! 全国大集会」(代々木公園)にスタッフとして参加した。オルタナミーティングVo9「チェルノブイリ事故から30年 3・11から5年~講談とチンドンが世界を変える!?」(4月26日)の告知が目的で、ブースは大盛況だった。10日付東京新聞東京版に大きく取り上げられ、あす14日は朝日新聞にも関連記事が掲載される。

 パナマ文書が世界を震撼させている。リストに名が載っていたアイスランドのグンロイグソン首相が辞任したが、抗議の声はイギリスでも起きている。両親がタックスヘイブンで得た富を贈与されたキャメロン首相の弁明は情緒的だったが、キャメロン労働党党首は鋭く切り込んでいた。「報道ステーション」の邦訳を以下に記す。

 <保護者は子供に食事を与えるために、食糧配給所に列を作っている。障害者は手当を失い、高齢者ケアは切られ削減された。生活水準は低下している。税金を払いたがらない大金持ちにいいようにされてなければ、避けられたことだ>……。

 アメリカで地殻変動を起こしたサンダース、別稿(4月2日)で記したピケティ、英労働党最左派のコービンは同じ視座に立っている。世界共時性から取り残された日本に必要なのは、永田町の狭い地図から政治を解き放つことだ。そのための方策を模索中だが、いい案が浮かばない。

 前稿で紹介した「光りの墓」に続き、イメージフォーラムで「あまくない砂糖の話」(15年、デイモン・ガモー)を見た。オーストラリアでは史上最高の動員記録をマークしたドキュメンタリーである。

 食を巡って自らを実験台にした作品といえば、本作にも影響を与えた「スーパーサイズ・ミー」(米、モーガン・フローリック監督・主演)だ。スパーロックは一日3食、マクドナルドを30日食べ続けたが、「あまくない――」ではガモー(人気俳優でもある)がティースプーン40杯分の砂糖を60日にわたって摂り続ける。

 「スーパーサイズ・ミー」と比べたら、「あまくない――」の試みは常識の範疇だ。大抵の人は気付かないうちにティースプーン40杯の糖分を摂取しているが、殊の外、効いたのはガモーが節制を続けてきたからだ。加工食品の80%に砂糖が含まれており、ガモーは果汁ジュースや朝食用シリアルを俎上に載せる。アメリカで健康食品と見做されているスムージーは、1本でスプーン34杯分の砂糖が含まれている。

 予告編を見て、マイルドな味付けを予想していた。CGやガモーの演技はユーモアに溢れているが、〝あまくない〟どころか激辛の作品だ。ガモーの摂取カロリーは標準の2300㌍以下の日もあったが、体重はどんどん増え、あらゆる数値が悪化する。ガモーが教えてくれたのは、真にチェックすべきはカロリーではなくカロリー源であることだ。

 健康に害を与えるのは脂肪か、それとも糖分か……。第2次大戦後、〝豊穣の国〟アメリカで論争が起きたが、糖分が勝利し、脂肪が悪役と定まる。この結果、私たちはカロリー量という陥穽に落ちてしまった。決着の過程で大企業が研究者を買収していたことを、本作は示唆している。

 食の問題を語る際の必読書は、別稿(14年10月1日)で紹介した「ファストフードは世界を食いつくす」(エリック・シュローサー著、草思社文庫)だ。同書はアメリカの背筋が凍るような実態が詳らかにされている。多くの州で可決された「農産物名誉毀損法」は、<科学的根拠なしに農産物を批判してはいけない>という大企業を守る奇妙な法律だ、サルモネラ菌によって年に50万人以上が食中毒を発症し、300人以上が死ぬが、〝加害者〟は制裁を受けない。

 「あまくない砂糖の話」でも、行政、大企業、研究者の癒着を示している。実験を継続しながら、ガモーはアポロジニの居住地に向かう。当地でもコカ・コーラやマクドナルドが浸透し、健康的な食生活が破壊された。そこで1970年代、「マイ・ウイル」というプロジェクトが立ち上がり、糖分摂取にブレーキが掛かる。この動きを潰したのが、企業の圧力を受け入れた行政である。

 ガモーはアメリカに渡り、マウンテンデューが支配するケンタッキー州の街を訪ねた。そこではマウンテンデューが常食になっており、ペットボトルを一日数本飲み続けた17歳の少年の歯は糖分に溶かされていた。砂糖を切り口に、本作は格差と貧困、情報操作と洗脳、資本主義の冷酷さに切り込んでいた。

 本作にも描かれていたように、糖分は麻薬同様、人々を常習に導く。俺も30代、砂糖漬けになっていた。休日などファンタオレンジやスプライトのペットボトルをがぶ飲みし、あずきアイスを箱食いしていた。ガモーがたった60日間で実感したが、心身の影響は甚大だった。でも、後悔はしていない。〝怠惰な10年間〟を経たからこそ、還暦前の今、未消費気力が残っている。
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