酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

「アルゴ」~細部にまで気配りされたエンターテインメント

2012-11-06 23:11:36 | 映画、ドラマ
 昨日(5日)は紀伊國屋寄席で匠の話芸を満喫する。6月上旬の末広亭から紀伊國屋、鈴本演芸場、そして今回と、落語に少しずつ馴染んできた。噺家5人はそれぞれ個性に溢れていたが、瀧川鯉昇の飄々とした「味噌蔵」、五街道雲助のオーソドックスな「夢金」に聞き惚れた。噺家はみな、鋭い視線で客席を観察している。「落語を聞いたって何の役にも立ちません」なんてへりくだりながら、笑いを取るために身を削っているのだ。

 落語だけでなく、鉄拳とミューズのコラボにも癒やされた。パラパラ漫画「振り子」に感銘を受けたミューズのオファーを受け、鉄拳が4分37秒のロングバージョンを作成し、「エクソジェネシスPART3(あがない)」のPVが完成する。「妻(恋人)と見て涙にむせんだ」といった世界中からの書き込みが、反響の大きさを物語っている。ぜひYoutubeでチェックしてほしい。

 先週末、新宿で「アルゴ」(米、12年)を見た。ベン・アフレックが監督と主演を務める話題作で、ソールドアウトの盛況だった。制作は「スーパー・チューズデー」(11年)で監督を務めたジョージ・クルーニーである。題材は1979年にイランで起きたアメリカ大使館人質事件で、6人の外交官が占拠直前に脱出し、カナダ大使公邸に匿われた。本作は実際に採用された救出作戦、架空の映画「アルゴ」でっち上げをベースにしている。

 国策映画かもと訝っていた。核開発疑惑に揺れるイランは、現在もアメリカの仮想敵国で、大統領選挙の年とくるから胡散臭いが、本作は普遍性を保っていた。登場するイラン人は厳格、頑迷ともいえるが、非は明らかにアメリカに亡命したパーレビ国王にある。その放恣と冷酷が国民を苦しめ、革命の導火線になったという史実が前提になっている。石油利権で動くアメリカへの批判も語られていた。

 緊張感はたっぷりだが、実話ゆえアクション満載ではない。人質救出に尽力するトニー・メンデス(アフレック)のクールさが、作品の基調になっている。人質たちは自然体で不安と勇気を表現していたが、異彩を放っていたのがメイクアップアーティスト役のジョン・グッドマンだ。容貌魁偉でユーモラスな佇まいが、張り詰めた空気を和ませている。

 国家中枢の混乱も描かれ、ハリウッドへの風刺も効いている。メンデスと息子の絆が重要なポイントになっていた。レッド・ツェッペリンやダイアー・ストレイツなど、音楽の使い方もなかなかで、細部まで気配りが行き届いたエンターテインメントといえる。

 CIAとハリウッドにしてやられたが、イラン人はそもそも映画に弱い。「アルゴ作戦」から三十余年、アッバス・キアロスタミ、モフマン・マフマルバフ、バフマン・ゴバディ、アスガル・ファルハーディーらが弾圧下で撮った作品の数々が世界を瞠目させてきた。テヘランは質の高さで他の追随を許さない映画の都といっていい。

 米大統領選挙の投票が始まった。当稿を書きながら今夜放送されたNHKBSの特番を見ていたが、医療や福祉の充実を社会主義的と断じるアメリカ保守派に狂気を覚えた。よって俺は消極的なオバマ支持だが、ともあれ明日、日本の実質的な指導者が決まる。年内解散の気運が高まる中、〝州知事候補〟たちは息を潜めてワシントンを眺めているはずだ。
コメント (2)
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