英国で現在、最も客を呼べるバンドはミューズとフー・ファイターズだ。二つのバンドには共通点がある。ともにウェンブリースタジアムで2日間公演し、17万人を動員した。日本では海外に比べて人気も評価も格段に低いが、ともに頻繁に来日し、旺盛なサービス精神でファンを楽しませている。
今回は先月発売されたDVD「フーファイ・アット・ウェンブリースタジアム」をベースに記すことにする。
初めてフーファイを見たのは暴風雨下のフジロック'97初日だった(2日目は中止)。レイジの歴史的名演にレッチリもフーファイもかすんだ感はあったが、デイヴ・グロールはMCもなく首を振りながらシャウトしていた。だが、集まったファンにとって、デイヴはあくまで<ニルヴァーナの元メンバー>だった。
傑作アルバムを次々に発表したフーファイは、スーパーバンドへの階段を登り詰めていく。その間、ヘビメタ系が結集するオズフェストに出演したり、デイヴがクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジに参加したりと、<オルタナ/グランジ>の領域から自らを解き放っていく。
フーファイが“普通のバンド”に移行するのと比例して、アメリカのバンドながら英国で人気を確立していく。最大の理由はオアシスの失速だと思う。
90年代中盤から後半、英国においてオアシスは絶対王者だった。セールスも動員力もビートルズ並みだったが、勢いは次第に衰えた。オアシスは労働党ど真ん中のリベラルで、若者の心情を代弁する普遍的な曲が多い。“大衆の応援歌”が消えた空白を埋めたのが、フーファイではなかったか。
「アット・ウェンブリー」で楽曲の素晴らしさを改めて認識した。アコースティックショーを挟み、♯1「プリテンダー」、♯5「ラーン・トゥ・フライ」、♯11「マイ・ヒーロー」、♯13「エヴァーロング」、♯14「モンキー・レンチ」、♯15「オール・マイ・ライフ」と一撃必殺のパンチ力を秘めたナンバーが続く。目を潤ませるデイヴに、8万超の観衆が大合唱で応えていた。
絵に描いたようなロックの祝祭だが、へそ曲がりの俺は高揚感と同時に違和感を覚えてしまった。同じくウェンブリーでのライブを収録したミューズの「ハープ」には、ロックの進化の可能性が提示されていたが、現在のフーファイは70年代ど真ん中だ。俺はスプリングスティーンのライブを思い出していた。
デイヴが「人生最高の夜」と語るステージに招かれたのは元ツェッペリンのジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズだ。ちなみに10万人を動員したフーファイのハイドパーク公演ではクイーンのメンバーが参加していた。
デイヴはカート・コバーンの呪縛から逃れんとするあまり、時の壁を突き破ってしまったのではないか。仮にカートが生き永らえ、「人生最高の夜」にゲストを呼ぶとしたら、ヘンリー・ロリンズ(元ブラックフラッグ)、ブラック・フランシス(元ピクシーズ)、サーストン・ムーア(ソニック・ユース)、マイケル・スタイプ(REM)らが候補だろう。いずれにせよ、ツェッペリンやクイーンとは対極に位置するロッカーたちだ。
まあ、ロックを堅苦しく論じても仕方ない。好漢デイヴは先達に敬意を表し、自らもロックスターの道を歩もうとしているのだろう。グラミーで最優秀アルバムに選ばれた最新作は、ルーツミュージックへの接近や内省的な詞など、成熟した部分を見せていた。デイヴは既に40歳。活動再開後の新境地に期待したい。
今回は先月発売されたDVD「フーファイ・アット・ウェンブリースタジアム」をベースに記すことにする。
初めてフーファイを見たのは暴風雨下のフジロック'97初日だった(2日目は中止)。レイジの歴史的名演にレッチリもフーファイもかすんだ感はあったが、デイヴ・グロールはMCもなく首を振りながらシャウトしていた。だが、集まったファンにとって、デイヴはあくまで<ニルヴァーナの元メンバー>だった。
傑作アルバムを次々に発表したフーファイは、スーパーバンドへの階段を登り詰めていく。その間、ヘビメタ系が結集するオズフェストに出演したり、デイヴがクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジに参加したりと、<オルタナ/グランジ>の領域から自らを解き放っていく。
フーファイが“普通のバンド”に移行するのと比例して、アメリカのバンドながら英国で人気を確立していく。最大の理由はオアシスの失速だと思う。
90年代中盤から後半、英国においてオアシスは絶対王者だった。セールスも動員力もビートルズ並みだったが、勢いは次第に衰えた。オアシスは労働党ど真ん中のリベラルで、若者の心情を代弁する普遍的な曲が多い。“大衆の応援歌”が消えた空白を埋めたのが、フーファイではなかったか。
「アット・ウェンブリー」で楽曲の素晴らしさを改めて認識した。アコースティックショーを挟み、♯1「プリテンダー」、♯5「ラーン・トゥ・フライ」、♯11「マイ・ヒーロー」、♯13「エヴァーロング」、♯14「モンキー・レンチ」、♯15「オール・マイ・ライフ」と一撃必殺のパンチ力を秘めたナンバーが続く。目を潤ませるデイヴに、8万超の観衆が大合唱で応えていた。
絵に描いたようなロックの祝祭だが、へそ曲がりの俺は高揚感と同時に違和感を覚えてしまった。同じくウェンブリーでのライブを収録したミューズの「ハープ」には、ロックの進化の可能性が提示されていたが、現在のフーファイは70年代ど真ん中だ。俺はスプリングスティーンのライブを思い出していた。
デイヴが「人生最高の夜」と語るステージに招かれたのは元ツェッペリンのジミー・ペイジとジョン・ポール・ジョーンズだ。ちなみに10万人を動員したフーファイのハイドパーク公演ではクイーンのメンバーが参加していた。
デイヴはカート・コバーンの呪縛から逃れんとするあまり、時の壁を突き破ってしまったのではないか。仮にカートが生き永らえ、「人生最高の夜」にゲストを呼ぶとしたら、ヘンリー・ロリンズ(元ブラックフラッグ)、ブラック・フランシス(元ピクシーズ)、サーストン・ムーア(ソニック・ユース)、マイケル・スタイプ(REM)らが候補だろう。いずれにせよ、ツェッペリンやクイーンとは対極に位置するロッカーたちだ。
まあ、ロックを堅苦しく論じても仕方ない。好漢デイヴは先達に敬意を表し、自らもロックスターの道を歩もうとしているのだろう。グラミーで最優秀アルバムに選ばれた最新作は、ルーツミュージックへの接近や内省的な詞など、成熟した部分を見せていた。デイヴは既に40歳。活動再開後の新境地に期待したい。