酔生夢死浪人日記

 日々、思いついたさまざまなことを気ままに綴っていく

新作「4:13ドリーム」に寄せて~キュアーと過ごした30年

2008-11-07 01:00:29 | 音楽
 オバマ勝利、小室哲哉逮捕については、次稿で感想をまとめることにする。今回は小室と同い年(49歳)のロバート・スミス率いるキュアーについて記したい。

 「あんたが最後に聴いたポップミュージックは何? パール・ジャム、それともキュアー?」……。

 「ダイハード4・0」(07年)でハッカーの青年がマクレーン(ブルース・ウィルス)の趣味の古さをからかう台詞に、欧米でのキュアーの認知度の高さをあらためて認識できた。

 キュアーとの出会いは30年ほど前だ。輸入盤を購入したが、スカスカ、ぬるい、学生サークル的といった印象で、同時期デビューのジョイ・ディヴィジョンの方をひいきにしていた。就職したらロック卒業のはずが、元祖ニートで籠もりがちになり、キュアーとの距離は一気に縮まった。

 死に彩られた4th「ポルノグラフィ」(82年、初の国内盤)とポップな「日本人の囁き」(83年、日本企画盤)を、迷い猫と遊びながら日当たりの悪い部屋で聴いていた。アンビバレントなキュアーは、欝と躁を行き来する俺の心的風景と重なっていた。キュアーとは俺にとって、切なさに満ちた万華鏡であり、闇と光を操るプリズムでもあった。

 キュアーの新作「4:13ドリーム」を聴き、気分はあの頃にタイムスリップした。ギター2本にベース&ドラムというシンプルな構成で、6分台の♯1を除き、2分台2、3分台4、4分台6とコンパクトな曲が並んでいる。

 ♯2~♯4の軽やかな転調、ガレージロック風の♯6、メランコリックな♯7、切迫感に満ちた♯8、浮遊感を覚える♯9とクオリティーの高い曲が並んでいるが、初期のミニマル的志向を彷彿とさせる♯12“The Scream”が新鮮だった。最近のロックは、オーバープロデュースで芯のないタマネギみたいな音になっている。そんな風潮へのアンチテーゼなのか、ロバートは曲の骨格を浮き彫りにする手法を選んだ。

 キュアーは<ポストパンクの旗手>、<ニューウェーヴの中心バンド>、<オルタナの創始者>としてロック史にその名を刻む。UK勢以上にメタリカ、レッチリ、ナイン・インチ・ネイルズ、コーン、グリーン・デイらコアなUSバンドから支持されているが、神輿に乗らず自然体で活動を続けている。メイクを施すロバートは、自らをトリックスターと位置付けているのかもしれない。

 俺がロッカーの優劣を決める一つの基準は<サービス精神>だ。ロバートは恐らく嫌な奴だが、ファンへの愛情はニール・ヤング並みで、代表曲を網羅した3時間近いショーを平気でこなしている。悪魔憑きとも思えるロバートの声は、涸れることはないだろう。

 ライブでの実力を見せ付けたのが「キュアー・イン・オランジュ」(88年)だ。吉祥寺の映画館で2日にわたり計4度見た。完璧な演奏、お城という舞台装置、ライティングのコラボレーションが相まり、ロック史上NO・1のライブ映像と断言できる。「ショウ」(93年)ともどもVHSは廃盤だが、DVD化を心待ちにしている。


コメント (8)
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