弁理士の日々

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イージス艦事故海難審判申し立て

2008-06-28 17:59:52 | 歴史・社会
イージス艦事故 審判開始申し立て 護衛隊と前艦長ら4人
6月28日8時0分配信 産経新聞
「 イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故で、横浜地方海難審判理事所は27日、あたごが所属する海上自衛隊の第3護衛隊(旧第63護衛隊、京都府舞鶴市)と前艦長ら4人を、裁判の被告にあたる「指定海難関係人」に指定し、横浜地方海難審判庁に審判開始を申し立てた。海自の組織が対象になるのは、昭和63年の潜水艦「なだしお」の事故以来、2例目。
 指定されたのは、護衛隊のほか、前艦長の舩渡健1佐(53)と、衝突前に当直責任者だった前航海長の後瀉桂太郎3佐(36)、衝突時に当直責任者だった前水雷長の長岩友久3佐(34)、レーダー監視を行う戦闘指揮所(CIC)の責任者だった船務長、安宅辰人3佐(43)。
  ・・・・・
【用語解説】海難審判
 海難事故の原因を究明し、再発を防止することを目的に、海難審判庁が2審制で行う行政審判。免状をもつ船員は「受審人」に、他の関係者は「指定海難関係人」に指定して、審判を行う。海難審判理事所が検察的な役割を担当し、審判を申し立てる。審判では証拠調べや尋問が行われ、裁決により受審人に対する行政処分や、指定海難関係人への勧告がなされる。今年10月から、海難審判庁は海難審判所となり、船員の行政処分を行う機関となる。事故原因の調査は、新たに設置される運輸安全委員会が担う。」


朝日新聞6月28日の記事で補足します。

「■あたごと清徳丸の衝突までの経緯
①3:30 あたご当直員が右前方に灯火を視認
②3:40 航海長が灯火を確認。創業地家をの漁船で接近しないと判断
③3:50~3:55 当直交代。「漁船群は危険性なし」と申し継ぎ
④3:57~3:58 あたごの右前方3マイル(約5千メートル)に清徳丸→見合い関係発生。CICは清徳丸をレーダーで捕捉したが水雷長に報告されず
⑤4:06 右前方至近に清徳丸の赤灯視認。「両舷停止、自動操舵止め」指示。汽笛を鳴らし「後進いっぱい」指示。清徳丸は大きく右転
⑥4:06 衝突」

「(横浜地方海難審判)理事所は、衝突9分前の午前3時57分45秒ごろには、衝突のおそれがあり、かじを右に切るなどの回避措置をとる必要があったと判断した。」


《見合い関係とは》
上記④3:57~3:58に「見合い関係発生」とあります。他の新聞では、「回避動作をしなければ衝突してしまう「見合関係」」といった説明がされています。
見合い関係とは何でしょうか。

以前、イージス艦衝突事故(3) の記事で、2隻の船が、お互いに航路が交差する方向で進んでいるとき、将来衝突するか否かを簡単に予測する方法について説明しました。
相手船が右舷側に見える場合、
①相手船の方位が左に移動していれば(θ2<θ1)、相手の船が先に行きすぎる。
②相手船の方位が右に移動していれば(θ2>θ1)、相手の船が後に行きすぎる。
③相手船の方位が変化しなければ(θ2=θ1)、2隻は衝突する可能性が高い。

「見合い関係」とは、上記③のような状況を示す言葉ととると、すっきり理解できます。
記事を書いた記者は、「見合い関係」の意味をちゃんと理解して記事にしているのでしょうか。

同じイージス艦衝突事故(3) の記事において、私は3月21日夕刊で防衛省が発表した中間報告について記録しました。
この中で、
「3時58分(衝突9分前、距離4.5km)当直員Dは前の当直から「右の白灯群」との申し継ぎ。右30~40度、距離5千メートルと5千メートル以遠に三つの赤灯を確認。右5度の水平線にも白灯二つを視認、4時2分に「白灯二つ」を当直士官に報告。その後、右30度に左に動く白灯を視認」
について、私は
「なお、3時58分の「右30~40度、距離5千メートルと5千メートル以遠に三つの赤灯を確認。」については、方位の変化がわからないので①~③のいずれであるか判別できません。距離は清徳丸の予想位置にぴったりです。」
と述べました。今回の記事を読むと、まさにこれが清徳丸です。

やはり、3時58分にあたごの見張り員は清徳丸を発見しており、衝突の可能性がある「見合い関係③」であると認識していたのですね。3月の防衛庁中間報告は、この点を巧妙に隠蔽していたように思えてなりません。


海難審判では、自衛隊の組織も審判対象としています。事故当時の自衛隊の組織は、あたご艦長までの指揮命令系統に記事にしました。

先日の3管による刑事訴追は、個人の刑事責任を問うものです。それに対し今回の海難審判は、衝突事故の原因究明と再発防止が目的です。この海難審判をこそ、われわれは注視すべきでしょう。

なお、審判では、清徳丸側の責任についても触れています。
「理事所は衝突を避けるための『最善の協力義務』をとらなかったと認定した上で、死亡により審判に参加できないことを理由に対象からはずした。」

以前、イージス艦衝突事故で報告したように、4級小型船舶免許の更新教科書には、海難防止の基本的ポイントの中に以下の記述があります。
「大型船を避けよう。
小型船は、大型船と出合ったときには、早い時期に大きく、大型船の進路を避けましょう。操船の容易な小型船が、操船の容易でない大型船の進路を避けるというのが海上交通のマナーです。」

審判でも、やはりこの点は考慮されているようです。
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