弁理士の日々

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アフガニスタンに陸上自衛隊派遣?

2008-06-15 10:16:15 | 歴史・社会
報道されたとき私は気が付かなかったのですが、陸上自衛隊をアフガニスタンに派遣しようとする計画があるのでしょうか。

政府、アフガンへ調査団送る方向 陸自派遣の可能性探る
2008年6月5日13時15分
「政府はアフガニスタンの復興支援のため、海上自衛隊によるインド洋での給油活動に加え、陸上部隊派遣の可能性を探るため、近く外務、防衛両省などの担当者でつくる調査団を現地に派遣する方向で調整に入った。複数の政府関係者が明らかにした。
 アフガンへの陸上部隊派遣には、新たな立法が必要。政府は陸自派遣を前提とした調査ではなく「状況を見極める事務的な調査」(高官)と位置づける。民主党の小沢代表がアフガンで活動する国際治安支援部隊(ISAF)への参加に前向きなため、秋の臨時国会に向け、自衛隊海外派遣のための恒久法(一般法)など、安全保障論議を呼びかける狙いもありそうだ。
 町村官房長官は5日の記者会見で「現に40カ国以上の部隊も派遣されており、現地での調査を行うか否かも含めて幅広い検討の対象に含まれている」と述べた。アフガンへの陸自派遣については福田首相も1日、「日本の協力が出来るような態勢になればできる。そういう可能性については常に考えている」と語っている。 」


昨年秋に福田政権が誕生してから、昨年いっぱいは、海上自衛隊のインド洋での給油活動を再開するための法案成立にかかりきりでした。ところが法案が成立した後、新聞やテレビではアフガニスタンについての報道をとんと見ません。すっかり国民は関心を失っていると思っていたら、陸上自衛隊を派遣する話があるというのでしょうか。

今、アフガニスタンのために日本がなすべきことは何か。その点をまず深く議論すべきと思うのですが、月刊誌でも最近はそのような議論を見ないですね。私が知る範囲では、昨年11月号の月刊誌「世界」で東京外語大教授の伊勢崎賢治氏が述べている内容が最も信頼が置けそうです。

アフガニスタンで外国の軍隊が行っている軍事行動は、OEFとISAFという2つの枠組みがあります。議論をする上で、どちらの枠組みに参加しようとする活動なのか、それを明確に区別する必要があります。

OEF:911同時多発テロを契機とし、アメリカの「タリバン=アルカイダ憎し」で始まった戦争は、OEF(不屈の自由作戦)であり、NATO加盟国にとってNATO条約5条の「集団的自衛権」の行使です。テロ特措法による日本自衛隊の洋上給油はこちらの範疇です。
ISAF:一方、ISAF(国際治安支援部隊)は、アフガンの治安維持のために国連が国連憲章第7章に基づき全国連加盟国に参加を呼びかけた「国連的措置」です。
両者の法的な根拠の違いは明確です。米国の体制も複雑で、OEFは米国防省直轄、復興支援担当は米国国務省です。

その他、いくつかの略語を挙げておきます。
PRT:地域復興支援チーム:ISAFの下で活動する軍事チームのようです。
DDR:「武装解除」と呼ばれている活動で、アフガニスタンで日本が担当し、成功裏に終了しています。
SSR:治安分野復興:武装解除、国軍の整備、警察の整備、麻薬対策、司法の確立など、当事国の現政権の治安装置を安定化させるための活動です。


アフガニスタンにおけるSSRのうち、国軍の整備は米国、警察の整備はドイツ、司法改革はイタリア、麻薬対策は英国、旧軍(北部同盟の軍閥など)のDDRは日本と、分担しました。当時の川口順子外務大臣が現地で変な約束をしてしまい、それがために日本が武装解除を担当することになりました。できっこないと思われていた活動を、日本は伊勢崎氏を中心に成し遂げてしまったのです。
ところが、肝腎の国軍の整備も警察の整備も一向に進みません。そんな中、武装解除だけが完了してしまったので、アフガニスタンには「力の空白」が生まれます。最近のタリバンの勢力復活もそのあたりが影響している可能性があります。4月27日にはカルザイ大統領暗殺未遂発砲事件がありました。

日本が担当した「武装解除」活動において、活動を見守る軍事監視団が結成されます。非武装の軍人が当たります。武器を持っている軍閥から、非武装の軍事監視団が監視して武器を取り上げるというわけで、勇気のいる仕事です。2003年当時、日本の自衛隊がこの軍事監視団に加われば、名誉ある地位を得ることができたでしょうが、伊勢崎氏の進言にもかかわらず、日本政府は一顧だにしませんでした。

また、2003年当時であれば、日本の自衛隊はPRTに参加して実効を挙げることができたようですが、日本はイラクに陸上自衛隊を送り込むことのみに熱心で、やはりアフガンには目もくれませんでした。
伊勢崎氏は世界誌で「今のアフガニスタンの現状で、日本のPRTを出すことに私は反対ですが、当時はそういうオプションも可能だったのです」と述べています。
もし、現在の日本政府が陸上自衛隊をPRTとして派遣することを考えているのだとしたら、派遣すべき時期を間違えたと言うことになります。
PRTの最近の活動状況について、日暮れて途遠しさんのブログに、「2008.2.24朝日新聞 オピニオン 耕論」の中の中村哲さんのコメントが転載されています。
中村哲さん 医師・医療NGO ペシャワール会現地代表 46年生まれ。84年からアフガン難民診療に携わる。
「日本が復興支援に多額の援助をしていることは、民衆レベルでも広く知られている。一方、インド洋上での給油活動は、ほとんどの人が知らない。日本政府が洋上給油を国際貢献の象徴だと声高に叫べば、米軍と一体視され、対日感情の悪化につながる。それは、現地での復興支援活動を困難にするものだ。
最近、日本政府が軍民一体型の「地域復興支援チーム」(PRT)に途上国援助(ODA)資金を出していることが、日本で報じられた。
私たちの診療所にも、軍服姿の者たちが突然、装甲車で乗りつけ、薬を配らせてほしいと言われたことがある。診察もなしに投薬するのは危険だと断ったが、PRTの実態は軍による宣撫工作に過ぎない。道路を造るにしても、戦闘地域に通じる道路を優先する。現地では、PRTと米軍は一体だと誰もがみている。
そこに日本の資金が使われていることも、現地では知られている。それでもこれまで、日本の復興支援は評価されてきた。しかし、軍事ブロセスへのかかわりがさらに強調されるようになれば、その評価がどうなるかは危うい。」

日本の陸上自衛隊が参加しようとしているPRTの実態がどのようなものか、よく見極める必要があります。


2002年1月に東京で開かれた第1回アフガン復興会議で、日本は国策として公的資金を出し、NGOを行かせることを決めました。NGOは今でも現地で働いています。

この1月には、緒方貞子氏が見たアフガニスタンとして、国際協力機構(JICA)理事長の緒方貞子氏の意見を載せました。現在のアフガニスタンでは、日本の復興支援の成果が次々と実っています。このような民生支援によってアフガニスタンに平和が定着することこそ、「テロの予防にもつながるということは認識されねばならない」と緒方氏はいいます。まさに、日本が得意とするアフガニスタンにおける「テロとの戦い」ではないですか。

また、上の中村哲さんのコメントにあるように、また伊勢崎氏が説くように、「世界テロ戦をいかに成功に導くか、アフガニスタンをいかに安定させるか」という当事者意識で考えたときに、日本は軍事活動には参加せず、民生支援に特化することが得策である可能性は高いです。
ぜひこのような方向での議論を深めて欲しいものです。
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