弁理士の日々

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「世界」誌の小沢一郎書簡

2007-11-04 19:34:18 | 歴史・社会
民主党の小沢代表、大変なことになってきましたね。
おかげでちょっと時期外れになってしまいましたが、小沢さんが「世界」誌に投稿したテロ特措法関連の論文についてアップしておきます。

月刊誌「世界」11月号には、川端清隆氏への公開書簡という形で、「今こそ国際安全保障の原則確立を」と題して民主党代表小沢一郎氏のテロ特措法に対する論文が掲載されています。

新聞報道をざっと見る限り、小沢一郎氏の意見は、「国連至上主義」のように見受けられます。この論文から、小沢氏の真意を探ってみました。
結論からいうと、小沢氏の議論は大まかに納得できるものであり、そんなにおかしなことは言っていません。ただし国連と国との関係について、ちょっと行きすぎた考えがあるように思います。

《納得できる点》
多くの人が「国連中心主義か日米同盟か」の二者択一の議論をするのに対し、小沢氏は、国連中心主義と日米同盟を両立させることによって日本の安全が保障されると主張します。
日米同盟といっても、日本は米国にただ追随するのではなく、米国にきちんと国際社会の重要な一員として振る舞うよう忠告すべきだとします。そのためには、日本自身が世界の平和を守るために率先してあらゆる努力をし、平和維持の責任をシェアする覚悟が不可欠とします。

自民党政府(内閣法制局)は今も、国連の活動も日本の集団的自衛権の行使に当たると解釈し、国連憲章第7章42条に基づく、武力の行使(PKO、国連の認める多国籍軍を含む)に参加することは憲法9条に違反するとの解釈を続けています。だとしたら、アフガンで「不朽の自由作戦」(OEF、NATO条約5条の「集団的自衛権」の行使)を支援する給油活動も、集団的自衛権の行使であって認められないではないか、というのが小沢さんの主張です。「後方支援は武力行使ではない」ということこそ詭弁です。

この9月に国連決議の前文に、日本政府の働きかけにより、OEFへの各国の貢献に対する「謝意」が盛り込まれたことについて非難しています。海上自衛隊の活動はあくまで米国の自衛権発動を支援するものであり、国連の枠組みでの行動ではないからです。

イラク特措法によるイラクへの自衛隊派遣と、小沢氏の考え方(イラクへの自衛隊派遣を認めない)の関係について、「イラク特措法の根拠とされている国連決議1483号は、米英主導の治安維持を認めただけであり、多国籍軍の設置をオーソライズしたものではない、としています。

小沢氏は、「国連の決議に基づいて参加するに際し、何でもやるということではない。国連の決議があっても、実際に日本がその活動に参加するかしないか、あるいはどの分野にどれだけ参加するかは、その時の政府が総合的に政治判断することです。」としています。


《納得できない点》
「国連と国との関係」を「国と人との関係」になぞらえていますが、これは納得できません。
「国と人との関係」において、人は「自力救済禁止の原則」に基づき、他人との争いを自分の暴力で解決することが許されず、一方、国は警察を使い公権力で人を拘束し得ます。
一方、国は(他国との関係で)交戦権を認められ(もちろんある国が交戦権を自分から放棄する自由はありますが)、「国連の言うことを各国は何でも聞かなければならない」なんていう原則はありません。
「国連と国との関係」は、せいぜい「村の寄り合いと村人との関係」程度ではないでしょうか。村の寄り合いの決定には強制力はありませんが、その決定に従わないと、村人は「村八分」にあったりして不利益を被ります。

従って、「国連と国との関係」を「国と人との関係」になぞらえた小沢氏の議論には無理があります。国連をそのように高い存在として認めるのではなく、あくまで「交戦権をも認められた国々が、妥協の産物として生み出した機構に過ぎない」程度に考えておいた方が好ましいでしょう。

「国連決議に基づく軍事活動に参加するのであれば、憲法9条に違反しない」と断じています。しかしこのような考え方は、決して日本国民のコンセンサスに到っていません。このような考え方で政策を進めようとしても、結局は挫折するでしょう。湾岸戦争のときも結局はそうだったと思います。
国連の活動に自衛隊が参加するにしても、やはり後方支援活動や、実際には戦闘が起こらないような活動に限定しておいた方が、実現可能性が高いと思います。

《その他》
この論文で小沢氏は、湾岸戦争のときに自分は自民党幹事長であり、今回と同様の主張をしていた、と述べています。
そこで、手嶋龍一著「外交敗戦」をめくってみました。
当時は、海部総理の時代です。海部総理、ときの外務次官である栗山氏は、ともに自衛隊が嫌いです。
このとき小沢氏は、集団的自衛権は憲法9条違反であるとの解釈とは別に、「国連による集団安全保障は、集団的自衛権の行使とは区別して違憲ではない」と主張していました。まさに現在の小沢氏の考えかたどおりです。
海部総理は最初は小沢幹事長の考え方を認めません。しかし、ブッシュ(父)と海部の日米首脳会談において、海部総理はブッシュ大統領からの強い要請を受け、変身します。そして海部首相と小沢幹事長ら自民党は、外務省の意向に反し、自衛隊員の身分のまま協力隊に参加させるという「国連平和協力法」草案を手渡すのです。
しかしこの法案は、国会での審議に耐えられず、結局廃案となりました。

むしろ民主党小沢代表としては、湾岸戦争時の経緯を反省として受け止め、「日本国民が受け入れ得る政策」をよく練った方がよろしいかと思います。
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