弁理士の日々

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足利事件再審公判での科警研所長証言

2009-12-25 23:25:29 | 歴史・社会
菅家利和さんの再審第3回公判が24日、宇都宮地裁で開かれ、警察庁科学警察研究所(科警研)の福島弘文所長が証人として出廷しました。証人尋問は5時間半にも及んだようです。
捜査段階の鑑定手法や判定内容については「特別に否定できる事情はなく、大きなミスは見当たらない」と証言し、当時のDNA型鑑定の評価については妥当性を主張しました。
捜査段階で行われた科警研のDNA型鑑定について、「後の研究で識別能力が低いことが分かった」と精度の低さを認める証言をしましたが、これはあくまで、「当時の方法では、たとえ同じDNA型と判定されても、300人に一人を割り出す判別能力しかなかった」ということを言っているにすぎません。

弁護側推薦で再鑑定を行った本田克也筑波大教授の鑑定を、再審請求即時抗告審で提出した意見書の中で批判したことについては、「世界的に標準化されたキットを使っておらず、信頼できない」と改めて批判しました。

今年6月2日にこのブログの足利事件のDNA鑑定(2)でも書いたように、本田教授の見解によると、足利事件のDNA鑑定は複合的な問題をかかえています。

(1) 事件当時の科警研が行ったDNA型鑑定は、「MCT118」という方法を用い、犯人と菅家さんがともに「16-26」という型であると判定した。
(2) 科警研も当時の判定が間違っていたことを認めたが、間違いには規則性があり、「16-26」は正しくは「18-30」であると主張した。
(3) 弁護側が推薦した鑑定人の本田克也・筑波大教授(法医学)が、同じ「MCT118」法を用いて鑑定したところ、菅家さんは「18-29」、犯人は「18-24」であって、いずれも科警研が出した結論「18-30」とは相違していた。
(4) 弁護団が菅家さんの毛髪を用いて行った鑑定(2002年)も、「18-29」であって本田教授の鑑定結果と一致している。

上記の(1) に(2)の修正を行うと、当時の科警研は、犯人と菅家さんは同じ「18-30」と鑑定されたことになります。
ところが本田教授によると、菅家さんは「18-29」、犯人は「18-24」でした。

今回の再審公判においては、犯人のDNA鑑定について、科警研所長は「間違っていなかった」と証言しています。「犯人のDNA型は鑑定通り「18-30」であり、本田教授の出した「18-24」が間違いだ」という意味だと思われます。
その点は議論を続けてもらうこととして、もう一方の菅家さんのDNA型はどうなのでしょうか。
本田教授は「菅家さんは18-29である」としています。2002年の弁護団鑑定でも、菅家さんは「18-29」です。

科警研所長が「当時の鑑定はミスではなく、犯人と菅家さんは同一の型と鑑定されてもやむを得ない」というのであれば、犯人の型と菅家さんの型の両方について「ミスではない」ということを説得的に説明する必要があります。
菅家弁護団も当然その点について追求したと思われます(5時間半も尋問が続いたのですから)。ただし新聞報道からは見えてきません。

どうもフラストレーションが溜まる報道です。
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