弁理士の日々

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足利事件のDNA鑑定(2)

2009-06-09 20:50:44 | 歴史・社会
足利事件のDNA鑑定に関する前報で、大雑把な説明をしました。6月5日の朝日新聞朝刊の記事が出典だったのですが、旅行中に読んだもので新聞を保管することができず、概略のみの報告になりました。

その後調べた結果、まず私が読んだ朝日新聞の記事についてBecause It's Thereで確認することができました。

朝日新聞平成21年6月5日付朝刊2面(14版)「きょうがわかる」
「検察 DNAに完敗 足利事件釈放 旧鑑定「二重のミス」
 「科学的捜査」の代名詞だったはずのDNA型鑑定。足利事件で菅家利和さんを「有罪」とする根拠とされた旧鑑定は、約20年を経て、誤りだったことがほぼ確実となった。検察側は捜査員の汗などのDNA型を誤って検出した可能性も探ったが、ついに折れて釈放を決めた。他の事件への影響も、ささやかされ始めた。
 弁護側が推薦した鑑定人の本田克也・筑波大教授(法医学)が今春の再鑑定で最初に手がけたのは、91年に行われた旧鑑定と同じ「MCT118」という方法を、もう一度試みることだった。
 本田教授は当初、女児の肌着に残る体液のDNA型と菅家さんのDNA型は一致するだろうと思っていた。 「これまでの裁判で、そう認められているのですから」
 菅家さんの型は「18-29」というタイプ。しかし何度実験しても、肌着の体液からは、そのDNA型が検出されない。むしろ「18-24」という別の型がはっきりと出た。
 自分が間違えているのではないか。鑑定書を裁判所に提出する前日まで実験を繰り返した。 「国が一度出した結論を、簡単に『間違っている』と否定できるわけがありません。でも何百回試しても、一致しませんでした」
 旧鑑定では、肌着の体液と菅家さんのDNA型はともに「16-26」で一致すると結論づけていた。
(中略)
旧鑑定書にはDNA型を示す帯グラフのような写真が添付されており、これが判断の根拠とされていたが、写真を見た本田教授は「これでよく同じ型と言えたな」と感じた・・。
(後略)」

もうひとつ
<「足利事件」とDNA鑑定>佐藤博史弁護士に聞く(2/10)の中でのコメントを紹介します。
「科警研が行ったDNA鑑定は、MCT118と呼ばれる遺伝子の部位を対象とする鑑定法で、MCT118法と呼ばれていますが、科警研のMCT118法では誤った判定がなされる危険性があることが当時から指摘されていました。DNA鑑定を行うための基盤になるゲル(寒天のようなもの)と物差しに当たるマーカーにそれぞれ問題があったのです。
 1995年には科警研も当時の判定が間違っていたことを論文で認めました。しかし、当時の判定と正しい判定には規則性があるといい、16型は18型、26型は30型であるとしました。
 当時のDNA鑑定によれば、犯人と菅家さんのMCT118型は16-26と判定されたので、科警研の論文によれば、正しい判定は18-30だったことになります。菅家さんと犯人のMCT118型は、16-26ではなく、同じ28-30だというのです。
 しかし、弁護団が菅家さんの毛髪を用いて行ったDNA鑑定では、菅家さんのMCT118型は18-29で、18-30ではありませんでした。日大の押田茂實教授による鑑定がそれです。」


以上を総合すると、以下のような状況だったようです。

(1) 事件当時の科警研が行ったDNA型鑑定は、「MCT118」という方法を用い、犯人と菅家さんがともに「16-26」という型であると判定した。
(2) 科警研も当時の判定が間違っていたことを認めたが、間違いには規則性があり、「16-26」は正しくは「18-30」であると主張した。
(3) 弁護側が推薦した鑑定人の本田克也・筑波大教授(法医学)が、同じ「MCT118」法を用いて鑑定したところ、菅家さんは「18-29」、犯人は「18-24」であって、いずれも科警研が出した結論「18-30」とは相違していた。
(4) 弁護団が菅家さんの毛髪を用いて行った鑑定(2002年)も、「18-29」であって本田教授の鑑定結果と一致している。


いやはや。驚いたものです。
裁判の現場では、「科学絶対信奉主義」のような雰囲気に縛られていたのでしょうか。誰か一人でも、「鑑定結果に落とし穴はないのだろうか」と疑問を持ち、その点を追求しさえすれば、このようなことにはならなかったのでは、と悔やまれます。
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