弁理士の日々

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「ワクチン敗戦」厚労省の大罪??

2021-05-12 19:35:42 | 歴史・社会
日本は、コロナワクチンの供給が諸外国に比較して決定的に遅れています。

「ワクチン確保は大失敗だった」菅首相は認めている
コロナ対応に厳しさ増す世論、それでも自民党内が動かない理由
2021.5.12 田原 総一朗
の冒頭、
『日本は世界のワクチン競争から完全に取り残されてしまった。先進国の接種が完了した割合(5月8日時点)を比較すると、イスラエルは58.6%、米国は32.6%、英国は24%である一方で、日本は1%弱と大きく後れを取っている。なぜ、こんなことになってしまったのか。』

去年の暮れまでは私も、「ワクチンは副反応が恐ろしい。日本はファクターXのおかげでコロナウイルスもそんなにひどくないし、ワクチンは様子を見るのが良い。」と思っていました。
そのワクチンについて、ファイザー製のワクチンを米国で4万人規模で摂取したところ、90%超の有効性が認められ、副反応も心配するほどではない、という結果が去年の末に発表されました。そして日本での年末年始の第3波です。
ワクチンについて様子見だった私も、「これは今からワクチンに全力投球しなければいけない」と考え方を改めました。
その時点で先進諸国に2ヶ月遅れだったとしたら、緊急ダッシュで少しでも遅れを取り戻すべく、国を挙げて努力する・・・はずでした。しかし、ワクチン供給量確保についてはさらに遅れる一方です。
なぜこんなことになったのか。新聞やテレビニュースを見ている限りは、その原因がわかりません。

文藝春秋6月号に、『コロナ「緊急事態列島」~政府はいつまで愚かな対策を繰り返すのか』という討論記事があります。その中の
『「ワクチン供給」厚労省の大罪』
について見ます。
論者は、大野元裕埼玉県知事、小林慶一郎慶応大教授、三浦瑠璃国際政治学者、宮坂昌之阪大名誉教授、米村滋人東大教授の5人です。
三浦「日本の厚労省ほど管轄当局が、ワクチン接種に後ろ向きで、サボタージュをした例を聞いたことがありません。」
小林『結局、国民の健康よりも役所としての「手続きを踏む」ことを優先しただけではないかと不信感が募りました。つまり、厚労省が世間から責任を問われないようにするために手続きにこだわったのです。』
三浦『いずれにせよ、規制官庁としての自分たちの権限にこだわる権威主義やセクショナリズムのために、「ワクチン敗戦」が起きたのは間違いありません。』

具体的には、厚労省はどのようなサボタージュ、責任逃れがあったのでしょうか。文藝春秋の討論の内容もよく理解できないところがあるのですが、以下に列記します。

宮坂『(米国で、摂取・非摂取それぞれ4万人で感染の有無を比較し、90%超の有効性があった。昨年11月発表。)(副反応については、頻度は100万人に対して1~10人だから、数十万人単位で治験しないと日本人の本当のリスクはわからない。)
それで、とにかく日本でも臨床試験をやろうとなったわけですが、日本はアメリカと比べて患者が圧倒的に少ないから治験をやるにも人が集まらない。結果として行ったのは、わずか160人です。これでは、「治験をやりました」というアリバイ作りをしただけのことで、医学的には何の意味もありません。』
小林『そんな無意味な治験をするために2ヶ月も費やしたわけですよね。だったら、なぜ12月中に承認しなかったのでしょうか。』

ちょっと待ってください。ワクチンの治験であって、コロナ治療薬の治験ではないですよね。治療薬の治験だったら患者の人数を集めるのに苦労するでしょうが、ワクチンの治験は、とにかく一般の大勢の人にワクチン接種し、接種しなかった人との罹患率の比較をすればいいのです。日本人の平均的な陽性率は0.1%程度ですから、摂取・非摂取それぞれ1万人とすれば、非摂取は10人の罹患者が出て、摂取の罹患者が1人であれば、有効性90%であることがわかります。
それなのになぜ160人なのか。厚労省が、最初から万単位の治験をやる気がなかったのでしょうか。
それとも、「(万単位で)治験の希望者を募ったが160人しか希望者が集まらなかった」ということでしょうか。そうだとしたら、治験用のワクチンは万単位で準備していたはずですよね。

上記田原 総一朗論述で、田原氏は以下のように述べています。
政府が米ファイザー製ワクチンを承認する前、厚生労働省が安全性を確認するために同社から数百人分のワクチンを確保しましたが、厚労大臣が官僚たちに手配を任せっぱなしにしていたせいで大幅に遅れていました。ワクチンメーカーと直接交渉を行わず、代理店との交渉しかやっていなかったのです。調達した後も、副作用の有無を検証してから承認するまでに1カ月以上かかってしまったのです。

厚労省は最初から数百人規模でしかやる気がなかったのでしょう。

本当であれば、アメリカでのワクチン有効性の報告が出た去年末の段階で、日本でも万以上の人数でワクチン治験すべく、それだけの量のワクチン供給を「国として」ファイザーに交渉すべきでした。
ところが厚労省にはその気が全くなく、数百人分の供給があれば十分、と考えてしまったのです。それも、しぶしぶ、ゆっくりゆっくり、でした。

三浦『(「1本のバイアルからとるのは5回分か6回分か」という問題)
あの問題の背景には、ファイザー側と「6回分」で合意していたのに、出荷の際に「5回分」と記した説明書を添付することに厚労省の一部の部局が拘ったという問題があったのです。
ファイザーは、日本でも一月初旬から摂取が開始できるように準備していた。それなのに契約も遅れ、挙げ句の果てに、先進国なのに6回分取れる場合でもワクチンをムダにすると公言するのか、と。そもそも日本は世界的に見て感染者がそんなに多くないのですから、見え方はさらに良くない。
実際に契約書の書き直しとなると、当初の予定より数カ月から半年はずれるわけで、厚労省が突っ張れば大失態となる寸前でした。』
上記三浦氏が説明した内容はよくわからないのですが、厚労省が変なところで拘らなければ、もっと早く、今年の初めからワクチン接種が可能だったのかも知れませんね。

ワクチンに関する日本の司法の影響
米村『日本は、ワクチンの副反応に対して司法判断が非常に厳しい国で、訴訟になれば、安全性が非常に高水準で要求されるため、厚労省は常に及び腰になってしまうのです。』
司法は法律に基づいて判断しているだけですから、「司法が厳しすぎる」のであれば、「法律が厳しすぎる」ということですから、立法によって法律を最適化すれば良い話です。また、薬害が出て国に損害賠償が求められたら、司法判断に従って国が(国民の税金で)賠償すればいい話です。何も厚労省が及び腰になる必要はありません。

結局のところ、「厚労省が具体的にどのような対応を取った結果、今回のワクチン敗戦に至ったのか」を明確にはつかみ得ませんでした。

上記田原 総一朗論述の内容をさらにかいつまみます。
2020年6月、自民党議員で党の新型コロナウイルス感染症対策本部長代理を務める武見敬三氏と、同じく自民党の元厚労相である塩崎恭久氏が田原氏のところにやってきて「日本の今の感染症に関する法律はずっと前のもので、矛盾だらけだ。危機時には総理大臣が何の権限も持たない。抜本的な改革が必要だ」と言いましたが、改革に対して厚労省が全面的に反対していて、進められませんでした。他の自民党の議員たちと厚労省との関係が深過ぎて難しい。
2020年、新型コロナウイルスの感染が広がった当時、安倍晋三内閣の厚労相は加藤勝信氏でしたが、安倍首相は、当時経済再生担当相だった西村康稔氏を新型コロナ担当相に任命しました。安倍首相に聞くと、「加藤氏は厚労省の言いなりで、何も動くことができない。だから、厚労省に意見ができる西村氏を立てた」と言ったそうです。しかし、結局は西村氏も厚労省に取り込まれてしまい、今度は菅首相がワクチン担当相として河野太郎氏を任命しましたた。ここで、ようやくワクチンの確保が進み始めたのです。

右も左も、厚労省の悪口ばかりですね。
しかし新聞とテレビニュース番組では、このよう厚労省の悪口は聞こえてきません。なぜでしょうか。
文藝春秋の討論で発言していた小林慶一郎教授は、テレビニュース番組でちょくちょく発言していますが、今回のような厚労省の悪口を聞いたことはありませんでした。
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2 コメント

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Unknown (うさぎくん)
2021-05-13 21:44:06
細かいことで恐縮ですが、大野元裕氏は埼玉県知事になります。。

先日読んだ日経の記事では、かつて高水準を誇った日本のワクチン技術は、90年代のワクチン副作用に対する国への賠償命令(国の敗訴)、薬害エイズ事件での厚労省幹部逮捕などが転機となり衰退した、という議論でした。薬害エイズでは政治家が責任逃れをして官僚が詰め腹を切らされた、と元職員が語っていたと。

その議論が正しいかどうかはわかりませんが、とにかく接種の遅れという現実は誰もが認めざるを得ないとは思います。。
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薬害エイズ (snaito)
2021-05-16 17:09:55
うさぎくんさん、ありがとうございます。誤記は修正しました。
日本の厚労省は、新しいことを始めるのに慎重な一方、一度決めたことについて撤退することが苦手です。薬害エイズについては、その兆候が明らかになったところで厚生省がさっさと認可を取り消していれば、最小限の被害で済んだはずです。アメリカはそうしましたが日本の厚生省はしませんでした。
その意味では、「薬害エイズがトラウマになって厚労省がワクチン認可に慎重になっている」という言い訳には納得しかねています。「始めるのも撤退するのも早くしろ」ということで、薬害エイズも今回のワクチンも共通しています。
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