弁理士の日々

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エマニュエル・トッド「米国はすでに敗北している」

2023-11-27 18:21:13 | 歴史・社会
エマニュエル・トッド氏のウクライナ戦争論評については、「第三次世界大戦はもう始まっている (文春新書 1367)」がありますが、私がこの本の存在を知ったのは発行からずいぶん経った後だったので、対象が時事問題であったこともあり、結局読みませんでした。このたび、文藝春秋12月号を購入して読んだところ、トッド氏の執筆記事を読むことができました。

エマニュエル・トッド「米国はすでに敗北している」

ウクライナ戦争について、テレビのニュース番組や新聞の記事で見聞する内容とは全然見えているものが違っているので、今後のためにここにポイントを列記しておくことにします。

--以下、ポイント抜粋---------------
ウクライナ戦争の勝敗は事実上、決していて、米国の敗北はほぼ確定している。米国が十分な武器や弾薬を物理的にウクライナ軍に提供できないからだ。
膨大な額の軍事支援を約束しているのに、軍事物資そのものはウクライナに届いていない。そのため、ウクライナの「反転攻勢」はほぼ失敗に終わっている。
グローバリゼーションによる「産業空洞化」という米国の弱点がここに来て露わになっている。
米国に対して、「国内の産業基盤」を維持しているロシアは、この点で優位に立っている。
経済の金融化、サービス産業化が進む中で、GDPがもはや「生産力=真の経済力」を測る尺度としての効力を失っている。
ウクライナ軍の「反転攻勢」は、米国がウクライナを勇気づけるためのものというより、米国がウクライナに強いたものであるようにトッド氏には見える。勝敗はほぼ決まっているのに、戦争を無理に長引かせようとしてきた。
戦争が長期化するほど、多くのウクライナ人が犠牲となり、ウクライナの建物や橋が破壊されていく。米国は“支援”することで、実はウクライナを“破壊”している。

《子供っぽい米国のエリートたち》
この戦争を巡る一番の不安定要因は、米国側にある。
トッド氏は新著を刊行するため、米国のエスタブリッシュメントの現実認識や世界戦略を理解しようとした。そこから見えてきたのは、米国のエリート集団が、実は真面目でも有能でもない、とういことだ。かれらの言動は、合理的な戦略に基づいているわけではなく、抑制が利かない一種の興奮状態にある。とりわけ“大人”であることが要求される安全保障問題で“子供”のように振る舞っている。「バイデンという老いぼれに率いられた子供っぽい集団」というのが、「世界一の大国」であるはずの、この国の指導層の実態なのだ。“現実”を直視できない彼らは、何をしでかすか分からない。

《米国が恐れる独露の再接近》
独露の接近は、米国が最も恐れている事態だ。強力な軍事支援でウクライナを「NATOの事実上の加盟国」とすることでこの戦争を嗾(けしか)けた米国の隠れた真の目的は、ロシアとドイツの分断にあった。
もともとロシアとドイツは、エネルギー面・経済面で緊密な相互補完関係にあり、両者の協力関係は、地政学的にも地域の安定に寄与する。
だからこそ、両国に挟まれたポーランドがいらだち始めた、といえる。

《ウクライナの分割とポーランド》
現在、ロシアが占領している東部四州だけでなく、ハリコフ州やオデッサ州などもウクライナ中央部から分離し、「ウクライナの分割」が本格化すれば、「ポーランドへの併合」か、「独立」かはわからないが、ウクライナ西部もウクライナ中央部から分離する可能性が高まる。
2014年のいわゆる「ユーロマイダン革命」、プーチンに言わせれば、「ヤヌコピッチ政権を非合法的手段で倒したクーデタ」を最も積極的に主導したのは、ウクライナの極右勢力だ。この極右勢力が最も活発だったのが、かつてナチスドイツ側に立ったウクライナ西部地域だ。

《ドイツの真意はどこに?》
ウクライナ以外で、この戦争で最も経済的打撃を被ったのはドイツだ。ドイツのレオパルド戦車をウクライナに供与したとき、ドイツは逡巡に逡巡を重ねた上での決定で、「本当は供与したくないんだ」というサインをロシアに出している。
「ノルドストリーム」パイプラインの破壊は、米国とノルウェーが爆破したと考えられるが、最も損害を被るはずの当事者であるドイツは、奇妙なことに何も発言しなかった。ドイツの本音が隠されている。

《予測不可能な米国こそリスク》
本来、容易に避けられたはずのウクライナ戦争の原因と責任は、ロシアよりも米国にある、とトッド氏は見ている。「ウクライナのNATO加盟は絶対に許さない」とロシアが明確なメッセージを発していた中で、ウクライナ軍を増強し、「NATOの事実上の加盟国」にしていたからだ。
米国も、プーチンがここまで大規模にウクライナに侵攻するとは思っていなかったが、戦争が始まって高揚したウクライナのナショナリズムを見て、「これは、不倶戴天の敵であるロシアを弱体化させる絶好のチャンスかもしれない」と米国は考えた。ウクライナのナショナリズムが米国をこの戦争に巻き込んだと見ることもでき、アメリカが“罠”に嵌まったようなものだ。

《イスラエル・パレスチナ問題》
パレスチナ人とイスラエル人を本気で支えるにはどうすればよいか。
世界はむしろ「これは自分たちの問題ではない」と理解すべきだ。「非常に複雑な一つの地域の問題」であって、「世界の問題」ではない、と。とにかく殺し合いをしている人々のナショナリズム的感情を煽ってはいけない。この問題に世界中が注目しないことこそが、彼らが紛争から抜け出すための道となるように思う。
--ポイント抜粋、終わり---------------

私がこのブログで書き留めておいた以下の書籍における論評などと方向性が共通しているようです。
東郷和彦著「プーチンvsバイデン」 2022-11-20
副島隆彦、佐藤優 「よみがえるロシア帝国」 2022-11-16
ウクライナ問題 2022-03-14

「子供っぽい米国のエリートたち」との指摘は、イラク戦争をはじめたときの米国の政権の状況と酷似しているように思います。ベトナム戦争の泥沼に向かっていったときの米政権の「ベスト&ブライテスト」とも共通するかもしれません。
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