弁理士の日々

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オリンパス財テク損失はなぜ一千億円まで脹らんだか

2011-12-08 23:15:06 | 歴史・社会
オリンパス問題の発端については、「バブル期に財テクに走っていたが、1990年のバブル崩壊で損失が脹らんだ。2000年頃に損失隠しのために「飛ばし」を開始した。そして数年前のM&Aがらみで捻出したおカネで損失補填に当てた。その額一千億円に及ぶ。」と理解されています。

私はてっきり、「バブル崩壊と同時に一千億円規模の損失が生じた」と思い込んでいました。

12月6日に第三者委員会報告が公表されました(第三者委員会調査報告について)。その中の「第三者委員会調査報告書_要約版」をざっと読むと、この20年間の一連の流れを理解することができます。「大方の予想通りの流れであった」というのが印象でしょうか。

私がオリンパス問題と海外メディアで紹介した、11月7日付けロイター電には、「助言会社が関係している中川昭夫氏という人物(野村證券OB)」が登場します。今回の第三者委員会報告でも、この中川昭夫氏をはじめとする外部の人物が深く関わっていたことが明らかになりました。

ところで、さらに詳細に踏み込んで「 第三者委員会調査報告書_01」を読んでみると、財テクの損失はバブル崩壊時に一気に噴出したものではないことがわかります。
『いわゆるバブル経済が1990年に破綻したことにより、1989年末には高値3万8000円以上を付けた日経平均株価が、1990年後半には2万円を割り、わずか1年足らずの間に半分まで下落した。』
私はてっきり、このときに一気に損失が脹らんだと思っていたのです。ところが・・・
『オリンパスはこうして拡大していった金融資産の運用損を取り戻すとともに、バスケット方式原価法による含み損の計上を免れるために、特金による運用を増加させた。具体的に判明している金額としては、当初1990年3月期決算における特定金外信託の残高は約36億円であったが、翌1991年3月期決算における特定金外信託の残高は約97億円へと増加し、1992年3月期決算における同残高は約466億円へと急激に脹らんでいった。・・・
このようにオリンパスの金融資産運用による損失額は増加し続け、正確な金額は不明であるが、1995年頃には、含み損の額は数百億円の規模に増大していった。』

バブルが崩壊した1991年3月期の特定金外信託(特金)残高はまだ百億円以下でした。経営者が「ここでやめておけ」と決断できれば、損失は圧倒的に少ない額で済んだのかも知れません。その後もハイリスク投資で損を取り戻そうとした結果、たったの1、2年で、損失は5倍にも10倍にも膨れあがっていったように見受けられます。

もう1点。
上記の記述によると、「1995年頃には、含み損の額は数百億円の規模に増大していった」ということで、一千億円には遠く及びません。2000年頃になぜ一千億円まで損失が脹らんだのか。
伊藤 博敏氏の『「1000億円なんてありえない!」"飛ばし仲間"が驚くオリンパス第三者委員会報告書の裏側に金融庁と特捜部「裁量行政」の思惑』によると、『「特定金外信託(特金)の運用損が一番大きいということですが最大でも300億円。そのほかにペイン・ウェーバー時代に寄せられていた相談などから推計すると、100億円や200億円の"飛ばし"はありましたが、それを総合しても最大で500億円です。その倍の隠さねばならない損失があったとは、考えられない。運用損以外の何か、表に出せない損失が溜まっていて、それを同時に処理したのではないでしょうか」(アクシーズ元幹部)』ということのようです。
『別のアクシーズ関係者は、この発表に捜査・行政当局の"思惑"を感じるという。
「証券取引等監視委員会は、早くから法人としてのオリンパスの罪は問わず、課徴金で行政処分する方針と報じられました。おそらく金融庁は法人の罪は問わず、経営者個人の罪にして上場維持、従業員4万人の大企業を揺るがせたくないのでしょう」』

第三者委員会報告も、損失一千億円の中味には踏み込まず、その意味合いは、損失の中味の悪質性については蓋をし、
『「反社は関与せず、特別背任的なものもなく、悪質ではないということで上場は維持され、事件はコンパクトにまとめられる」
金融庁の裁量行政、特捜部の裁量捜査への逆戻り、という"見立て"である。』

これはこれで恐ろしい話ですね。

もっとも、第三者委員会開設が11月1日、そして委員会への委嘱事項として「損失の先送り」についても委嘱したのは11月8日(森当時副社長の自白が発端)ですから、損失発生の顛末についての調査を詳細に行うには時間が足りなかったのかもしれません。

最近になって、「誰の懐に入った?」71億円…オリンパス(読売新聞 12月8日(木)18時23分配信)で、
『第三者委員会の甲斐中辰夫委員長(元最高裁判事)は8日、損失隠しにかかわった関係者に71億円が流れた可能性があることを明らかにした
オリンパスの損失飛ばしは2003年に1177億円に達し、英医療機器会社と国内3社の買収費用として拠出した1348億円で穴埋めした。
甲斐中委員長はこの差額171億円のうち100億円が正規の手数料や金利、ファンドの維持費だったことが判明したが、残る71億円は「(買収を仲介した)ファンドなどの口座に入り、おそらくは外部協力者の周辺に行っている」と指摘した。』
と報じています。
このような大事な事項が、報告書には記述されていなかったのでしょうか。
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