大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年09月21日 | 植物

<1727> 大和の花 (43) シロヨメナ (白嫁菜)とイナカギク (田舎菊)               キク科 シオン属

                                               

 シロヨメナ(白嫁菜)もイナカギク(田舎菊)もノコンギク(野紺菊)と同じシオン属シオン節の野菊で、木陰や林縁などの半日陰を好み、山地や山間地に限られ、平野部ではまず見かけない多年草である。シロヨメナは本州、四国、九州と台湾に分布する。山地で見かける白い頭花の野菊はほとんどがこのシロヨメナと言ってよいほど個体数が多い。大和(奈良県)でも、そこここで見ることが出来る。花期は9月から11月ごろで、秋に山歩きをすれば、その白い花に出会える。

 高さは1メートルほど、葉は披針形から楕円形で、大きな鋸歯があり、先端は鋭く尖る。ノコンキクの白花種やイナカギクに似るが、ノコンギクやイナカギクよりも心持ち花が小さい。イナカギクとの違いは、花柄が短いものの茎を抱かないところにある。

 イナカギクはヤマシロギク(山白菊)とも呼ばれ、本州の関東地方以西、四国、九州に分布する日本の固有種で、襲速紀要素系の野菊と見る専門家もいる。高さは1メートル前後、花の大きさは直径約2センチで、シロヨメナよりも少し大きい。茎や葉にビロード状の短毛が密生し、触れると柔らかな感触がある。葉は半ば茎を抱くのでシロヨメナとの判別点になる。 写真は左がシロヨメナ、右がイナカギク。

  花よりの教訓  (1)

     生きることは経験を積み重ねてゆくことである

     その経験に意義が認識できれば幸いである

 

<1728> 大和の花(44) センボンギク (千本菊)                                               キク科 シオン属

                                     

  センボンギク(千本菊)は渓流の岩場などに生える渓流植物の一つにあげられる多年草で、シオン属シラヤマギク節の野菊である。根や茎が丈夫であることと葉が細い特徴が見られるが、これは渓流植物の特徴の一つで、増水時の濁流に耐えるために鍛えられた自力の姿で、長い間の経験を生きる糧にしているところがうかがえる。

  本州中部地方以西、四国、九州に自生している渓流植物であるが、紀伊半島、四国、九州に分布しているものと、紀伊半島以外の本州に分布するものに違いが見られ、相対的に紀伊半島、四国、九州のものは小型で、タニガワコンギク(谷川紺菊)の別名で呼ばれているようである。写真の個体は吉野川の最上流の支流に当たる川上村の北股川の岩場で撮影したもので、撮影場所は紀伊半島の付け根に当たるところで、別名のタニガワコンギクと呼ぶ方が相応しいかも知れない。

  写真の個体は高さが30センチほどで、少ない線状披針形の葉が見られる。花は淡青紫色から白色まであり。写真の個体は白い花を元気に咲かせていた。増水すると濁流に襲われるぎりぎりの場所で、こうしたところに生える野菊もあるのだとカメラを向けながら思ったことではあった。 写真は岩場の隙間に根を下ろして花を咲かせるセンボンギクのタニガワコンギク。

  花よりの教訓 (2)

           生の経験はそれぞれにあり それぞれである 経験なくして生はあり得べくもなく 経験によって生の姿は変転してゆく

           その変転してゆく生の姿は 美しいことが何よりで 美しいことに越したことはない

 

<1729> 大和の花 (45) オオユウガギク (大柚香菊)                                   キク科 シオン属

                                               

  シオン属ヨメナ節に属するヨメナの仲間の多年草で、近畿地方以北の本州に分布するユウガギク(柚香菊)に対し、中部地方以西、四国、九州に分布し、国外では中国東北部からシベリアに見られるという。湿地や田の畦などに多く、山地には見られない野菊で、この点はヨメナに似る。高さが1メートル超、軟らかでしなやかな茎と厚手の楕円状披針形の葉により倒れるケースが多い。頭花は直径4センチほどになり、見た目にはノコンギクやヨメナよりも大きく、このためか、群生する花は乱れがちになることがある。

  花期は8月から11月ごろで、黄色い筒状花を淡青紫色の舌状花が取り巻き、ヨメナやノコンギクに似て紛らわしい。だが、花が大き目であることと舌状花が細身であることから花の雰囲気は幾分異なる。なお、和名にある「ユウガ」は優雅ではなく、柚香で、ユズ(柚子)の香りから来ていると言われるが、実際にはあまり香らない。 写真は休耕田に群生するオオユウガギク(左)と花のアップ(いずれも明日香村で)。

  花よりの教訓 (3)

        咲く花を見よ 見るほどに花は似ているけれども 一つとして同じ花はない 花も経験を積み重ねながら 生き継ぐ働きとして

         みな咲いている 輝く花も傾き萎れる花も  経験を積み重ねながら存在している  これは人にも言え 人生にも当てはめられる

 

<1730> 大和の花 (46) コモノギク (菰野菊)                                                  キク科  シオン属

                               

  鈴鹿山脈のほぼ中央に当たる御在所岳(1212メートル)のある三重県菰野町の地名に因みこの名がある多年草で、近畿地方の太平洋側、即ち、紀伊半島から四国にかけて分布する日本の固有種で、襲速紀要素系の植物にもあげられているシオン属シラヤマギク節の野菊である。大和(奈良県)では、大峰、台高山脈の高所部の岩場に自生し、自生場所が限られているうえ個体数も少ないためレッドリストには絶滅寸前種としてあげられている。

  私は大峰、台高の山岳4箇所ほどで見かけたが、全てがシカも近寄りがたい絶壁の崖地で、みな崖地のわずかな土に根を下ろし、風雪に耐えて命脈を保っている共通点が見られた。花期は7月から9月ごろで、場所は限定的であるが、コモノギク(菰野菊)の花が咲く期間は長いので、場所さえわかれば、花に出会うのはそんなに難しくはない。

  草丈は50センチほどになり、葉は長楕円形で、少し厚みがあり、半ば茎を抱く。茎頂や側枝の先に淡青紫色の舌状花と黄色い筒状花の頭花をつけるが、舌状花は限りなく白色に近い。群生しても花はそれほど密にはならず、点々と咲く。蕾が球形になるので、タマギク(玉菊)とも呼ばれる。 写真は絶壁の岩上を居場所にして花を咲かせるコモノギク。(大峰山脈の標高1650メートル付近で)と花のアップ(舌状花は白く見える)。

  花よりの教訓  (4)

        輝く花も萎れるときが来る  傾き萎れる花も輝くときを経験し  経験が生そのものであれば  経験に勝るものはない

        経験より生に生じる意義と美しさ  それを学び認識できれば その経験即ちその生は幸いと言えよう

 

<1731> 大和の花 (47) シオン (紫苑)                   キク科 シオン属

                      

  属名にもなっている多年草の野菊で、山地の草地に生える。日本列島では中国地方から九州に自生するものがあると言われるが、妙なことに四国には自生しないという。海外では朝鮮半島から中国北部、シベリア等、東アジアに広く分布している。シオン(紫苑)の名は根が紫色を帯びているからで、漢名紫菀の音読による。『万葉集』には登場を見ないが、『枕草子』や『源氏物語』にはその名が見え、着物の裾模様にも描かれた。

  『今昔物語』にはヤブカンゾウ(薮萱草)の忘れ草に対し、思い草として登場し、親を亡くした兄弟の話に用いられている。兄は仕事のため忙しい身であったので親のことをなるべく忘れたいと思い忘れ草のヤブカンゾウを墓に植えた。弟は親を忘れたくないと思い、思い草のシオンを植え、墓参を欠かさなかった。この様子を見ていた墓守の鬼が弟の孝心に感心し、褒美を与えて報いた。この話によりシオンは鬼の師子草とも呼ばれるようになった。また、シオンはノシ、シオニという古名でも知られる。

  シオンは高さが大きいもので2メートル前後になり、直立する茎に長楕円形の葉を密につけ、下部から徐々に小さくなり、上部で枝を分けて、8月から10月ごろ淡紫色の舌状花と黄色い筒状花の直径3センチほどの頭花を散房状に多数咲かせる。茎や葉はざらつくが、その花が平安貴族の女性たちに好まれ、観賞されたものと思われる。

  また、シオンは乾燥した根を煎じて鎮咳や去痰の薬用植物として中国から渡来したが、花に魅力を感じたことによって観賞用に植えられ、都でも見られるようになったのではなかろうか。現在、大和(奈良県)に見られるものは植えられたものか、植えられたものが野生状態に置かれているもので、自生するものではない。 写真は野生状態になって花を咲かせるシオン(左)と畑の一角に植えられたシオン。

  花よりの教訓  (5)

         生の世界は経験を積み重ねるものたちによって展開されてゆく

         経験にはそれぞれに悲喜苦楽がまといつくのが常であるが

         経験に意義と美しさが認識できれば当事者には何よりである

 

<1732> 大和の花 (48) フランスギク (仏蘭西菊)                                     キク科 キク属

           

  ヨーロッパ原産で、その名はフランスの国名に因む。ヨーロッパのみならず、アジアや南北アメリカ等に広く分布している多年草で、温帯に多く自生するが、一部熱帯でも見られるという。日本でも各地で野生化し、大和(奈良県)でも植えられたものが逸出して野生化したものが見られる。所謂、フランスギクは外来種の帰化植物である。

  茎は直立し、其部で分枝し、高さが80センチほどになる。葉は柄のあるヘラ形の根生葉と互生して茎を抱く茎葉があり、根生葉で越冬する。花期は5、6月ころで、茎頂や枝先に直径5センチほどの白い舌状花と黄色い筒状花からなる頭花を咲かせる。その花は帰化植物の認識によるからか、異国を感じさせるところがある。まだ、野生化して間がないので野菊としては未熟であるが、そのうち風土に馴染んで野菊の一つに認められるに違いない。 写真はともに林道工事で造られた則面を飾るため播かれた種が周囲に散って道路脇の草地で野生化したもの(黒滝村で)。写真の色調が異なるのは日当たりと日陰によるもので、同じ群落の花である。

 以上が大和(奈良県)で私が出会った野菊と称せられるキクと言ってよいが、大和地方では限定分布する珍しいキク属のイワギク(岩菊)とシオン属のキシュウギク(紀州菊)とも呼ばれるホソバノギク(細葉野菊)には未だ出会えずにいる。奈良県におけるイワギクは絶滅寸前種、ホソバノギクは絶滅危惧種の野菊で、私にはこれからも挑戦したい野菊ではある。

  花よりの教訓  (6)

         経験は自らが負うものであれば 経験は自らのもの だから経験の 意義は自らのものであり 美しさも自らのものである

         この経験から得られる意義も美しさも 全体の中に融合され 全体の意義と美しさにつながる これが生の仕組み 姿である

         それぞれに咲く花々があり それぞれに生きる私たちがいて 花々も私たちも 全体に与しながら生の世界は展開している

         つまり 経験は自らがそれぞれに負うもので、経験を生かすも生かさないも それは自らにかかっているということである

 

 

 

 

 

 

 

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿