大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

日ごろ撮影した写真に詩、短歌、俳句とともに短いコメント(短文)を添えてお送りする「大和だより」の小筥集です。

大和だより ~写詩 写歌 写俳~ 小筥集

2016年09月01日 | 植物

<1708> 大和の花 (27) アゼムシロ (畦蓆)                                キキョウ科 ミゾカクシ属

                     

  田の畦や溝など湿気のある草地に群生する多年草で、細い茎が地を這って伸び、節々から根を下ろして一面に繁茂するのでこの名がある。その繁茂は溝を隠してしまうほどの勢いが見られるのでミゾカクシ(溝隠)の別名でも知られる。

  草丈は15センチほどで、まばらに披針形の葉を互生する。花期は6月から10月ごろで、葉腋から花柄を出し、淡紅紫色の一花をつける。ときに白色に近い花も見られる。花冠は1センチほどで、深く5つに裂け、一方に片寄る特徴がある。全国各地に分布し、中国をはじめ朝鮮半島や東南アジアにも広く見られる。

  毒をもって毒を制すというがごとく、アゼムシロはロベリンという物質を含む有毒植物であるが、半辺蓮(はんぺんれん)という漢名並びに生薬名を持つ薬草としても知られ、全草を傷口に当てたり、煎じて服用し、蛇に噛まれたときなどの解毒、利水(腹水除去)、消腫に効能があるとされて来た。大和地方でもそこここで見受けられる。 写真はアゼムシロの花(奈良市の郊外で)。個体によって花の色に多少の違いが現われる。  く夏や子供に子供ごころかな

<1709> 大和の花 (28) サワギキョウ (沢桔梗)                              キキョウ科 ミゾカクシ属

                                                   

 山野の明るい湿地に生える多年草で、中が空洞になっている円柱形の茎が1メートルほど直立する。茎には下部から中部にかけて披針形の葉が密に互生し、上部から先端につく総状花序に8月から9月ごろ同属らしくアゼムシロ(畦蓆)の花に似た左右相称で青紫色の唇形花を数個から10数個つけ、上へ上へと咲き上がる。アゼムシロと同じく、ロベリンという物質を含も有毒植物である。

 概ね全国的に分布し、国外では東南アジアに見られるという。大和(奈良県)では北部から北東部に分布が限られているという報告がある。生育場所の環境に変化があるためか、減少傾向にあるとして奈良県のレッドデータブックでは希少種にあげられている。私は曽爾高原のお亀池の湿地と大和高原の池しか自生する場所を知り得ないが、減少傾向にある。

 レッドデータブックは「かつては本県北部に多くの産地が知られていたが、激減して最近は確認できる場所が少なくなった」としている。これは2008年の現状で、減少要因に園芸採取、植生の遷移、湿地の開発をあげている。今も、その危機状況に変わりはないように思われる。 写真は湿地に群生し、花を咲かせるサワギキョウ(左)と花序のアップ(右)。  沢桔梗天与の花の天を指す

<1710> 大和の花 (29) タニギキョウ (谷桔梗)                                キキョウ科 タニギキョウ属

            

  登山道を歩いていると、点々と星を散りばめたような可愛らしい花に出会うことがある。山地の木陰などに群がって生えるキキョウの仲間の中では最も小さな多年草である。高さは10センチ前後、荒い鋸歯のある卵円形の葉を有し、その上部の葉腋などから花柄を伸ばし、6月から8月ごろミリ単位の白い一花を咲かせる。

  花冠は5深裂し、上を向いて開く。ときに淡紅色の条の入る花も見られ、極めて小さな花ながら、結構存在感がある。その懸命に咲く花はけなげにも思え、カメラを向けたくなる。この花が見られ始めると大和地方の山も夏に入る。北海道、本州、四国、九州に分布し、国外では南千島、朝鮮半島、中国、サハリン、カムチャッカ等に見られるという。 写真左は小群落をつくって花を咲かせるタニギキョウ(金剛山で)。中は白い花。右は淡紅色の条が入った花(大峰奥駈道で)。 

  小さくも一心に咲く谷桔梗カメラの目線低くして見よ

 

<1711> 大和の花 (30) ホタルブクロ (蛍袋)                              キキョウ科 ホタルブクロ属

                                                   

  茎長が80センチほどになる多年草で、ほぼ全国の山野に生え、国外では中国、朝鮮半島に分布するという。ホタルブクロよりも標高の高いところに見えるヤマホタルブクロは大和(奈良県)以東に分布し、大和の地では東部のごく一部に自生するようであるが、私はまだお目にかかっていない。言わば、大和の地はホタルブクロの分布域に当たり、白い花が目につく。ヤマホタルブクロとの判別点は花の其部に見える萼片の湾入部に反り返った付属体があることによる。

  その花は6月から7月が花期で、梅雨どきの花らしく筒状鐘形の花を下向きに咲かせる。ホタルブクロの名は蛍袋によるもので、ホタルの飛び交う季節に花を咲かせるからとか袋のような花の中にホタルを入れたからという命名譚もあるが、提灯のことを古くは火垂(ほた)ると呼んでいたことから、花を提灯、茎を柄に見立てて提灯のイメージからこの名が生じたとする説がある。私にはこの名の方に説得力が認められる。なお、ホタルブクロには地方名が多く、大和地方一帯ではホ―パンと呼ばれる。  写真はホタルブクロの花(中吉野地方で)。

  道端に咲くのはほたるぶくろの花  その道ゆくはどこの誰  眼病患う父のため 峠を越えていまここに  壷阪山の道に入る  人の姿を借りてゆく 母娘の狐とは言える  間なく咲かせるその花は 母娘を励ます灯りなり  霊験慈悲の観音を 思えばその灯(ひ)のありがたさ  もうそこなるに明るくも ほたるぶくろの道端の花     出迎へるごとくに咲きし提灯のほたるぶくろの道端の花

<1712> 大和の花 (31) ツルニンジン  (蔓人参)                               キキョウ科 ツルニンジン属

                                                          

  山足や山間の道端などで他物(雑木など)に絡んで生える蔓性の多年草で、2メートルほどに伸びる細くてしなやかな蔓に裏面が粉白を帯びる長楕円形の葉を互生し、側枝の先端では集まってつく。夏から秋が花期で、側枝の先の葉腋に長さ3センチほどの鐘形の花を下向きに開く。花は外側が緑白色で、内側には紫褐色の斑点がある。また、先が浅く5つに裂けた花冠の裂片が反り返り、開口部の内側とともに斑点と同じ紫褐色に彩られる。この花が咲き始めると夏も終わりを告げる。

 自生の分布は全国的に及び、中国北部、朝鮮半島、アムール地方にも見られるという。ツルニンジンの名は紡錘形の根に薬用植物のチョウセンニンジン(朝鮮人参)をイメージしたことによるようで、チョウセンニンジンの代用にされたこともある。漢名並びに生薬名は羊乳(ようにゅう)で、これは茎を切ると乳液が出ることによる。この乳液は切り傷に効くと言われる。ほかには根を干し、煎じて服用すれば、去痰に効能があると言われる。

 なお、ジイソブ(爺そぶ)という別名を持つが、これはバアソブ(婆そぶ)に対してつけられた名である。「そぶ」は木曽地方の方言で、そばかすのこと。そう言われて見ると、花冠の内側に見られる紫褐色の斑点が気になって来る。爺に対して婆は花が小振りで、葉の裏面や縁に毛が生えているので、これを判別点にするが、大和(奈良県)においてはジイソブのツルニンジンの分布域で、バアソブには今もってお目にかかれずにいる。 写真はツルニンジンの花とつぼみ(宇陀地方で)。

     花に嵐のたとえもあるし

     喜怒哀楽はこの世の常で

     越えてゆくのが人生行路

     上り坂あれば下り坂あり

     みんな同じさだめの道で

     みんな持ちつ持たれつの

     情けによってある身なり